ストリートを美しく気高く見せるエチュード

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AFFECTUS No.125

1月に終了した2019AWパリメンズコレクションで、僕はあるスタイルに魅了される。そのスタイルは、癖があるのにフレッシュでクリーン。ブランドの名は「エチュード(Études)」。 エチュードは、ファッションブランドと出版を中心に多様なクリエイティブプロジェクトを行うスタジオとして2012年にスタートした。

創設した人物はフランス人であるオレリアン・アルベ(Aurelien Arbet)とジェレミー・エグリ(Jeremie Egry)であり、パリとニューヨークを拠点に活動をスタートさせている。創設当初のブランドネームはエチュード・スタジオ(Études Studio)であったが、2016SSより現在のエチュードへリネームしている。

正直に言えば、2019AWコレクションを見るまで僕はこのエチュードというブランドをまったくもって知らなく、しかし、かえってそのことがエチュードのコレクションを印象深いものにする。

僕が魅了されたエチュードの2019AWコレクションとは、どのようものだったのか。

それは例えるなら、ファッション界を席巻する現在の派手で大胆、装飾過多な重層的ストリートスタイルに「いや、オレ、あーいうの好きじゃねーし」と反骨精神を抱くストリートマインドの男の子が、プリントやロゴも自分の好きなシンプルでクリーンなスタイルで着こなした別軸のストリートスタイルである。

一目での印象を言えばクリーンでシンプル。だけど、プリントや柄を避けているわけではない。幾何学模様や蛇をコミカルに描いたプリントだってある。むしろその使用量は多く、ヤンチャでヤンキーな匂いも香る。だが、癖のある装飾性があるにもかかわらず、エチュードのスタイルにはクリーンさが装飾性を押しのけて前面にせり出してくる。そこにあるのは、トレンドスタイルのアグリー&デコラティブなストリートとは一線を画すエレガンスだった。

ブラックをメインにしたダークトーンカラーベースで、レッドやブルーといったビビッドな色も挟み込みながら、インパクトを与えながらシックな印象を残すカラーパレット。ビッグシルエットというほど巨大ではなく、けれどもスレンダーといえるほど身体をシャープには見せず、着る人間の自由を約束するボリュームを取り入れたスリムシルエット。ストリートのシグネチャーアイテムのフーディだってスタイリングしているのに、その着こなしはテーラードジャケットやステンカラーコートを混ぜてルーズさとは距離を置き上品。

ヴェトモン発のストリートとはまさに別軸のストリートだ。エチュードのスタイルを見ていると、クラシックスタイルを好むベースボールキッズがストリートカジュアルを着こなすというイメージが浮かぶ。スタイルのシンプルさとは逆の複合的イメージが、僕の頭の中を過る。

僕は気づかなかった。エチュードの2019AWコレクションを見るまで。ストリートでも上質なエレガンスを表現できることを。そう、ストリートを上品に着たっていいんだ。それだって正解なんだ。

ある現象の一面だけを見て好き嫌いを判断する。それは自然で当たり前の思考の流れ。けれど、そこで止まらず、例えば「自分が嫌いと判断したものを好きなものに変えるとしたら、どうする?」と思考の流れを組み替えることで、新しいクリエーションが生まれることだってある。もしかしたら、そこには今の自分の好きなファッションを超える「新しい好き」があるかもしれない。

世の中のすべての人が「ダサいストリート」を好きなわけではない。王道のカッコよさに乗ったストリートを着たい人間だっている。ファッションには「表と裏」が薄皮一枚で同居する。

ストリートを上品に気高く美しく見せるエチュード。彼らはファッションの真理を突く。

〈了〉

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