スターリング・ルビーのアパレルラインが始動

AFFECTUS No.150

今年3月、驚きのニュースが発表される。そのニュースとは、ニューヨーク近代美術館、テート・モダン、ポンピドゥー・センターにコレクションが収蔵されている現代アーティスト、スターリング・ルビー(Sterling Ruby)のアパレルライン「S.R.STUDIO.LA.CA」が、2019年6月開催のピッティ・イマージネ・ウォモでデビューするというものだった。

ルビーはこれまでラフ・シモンズと数々のコラボレーションを手がけてきたアーティストとして、ファッション界では有名である。シグネチャーブランド、クリスチャン・ディオール、カルバン・クライン。ラフはルビーの作品を、ブランドを横断させて自身のコレクションに融合し、ルビーの創造性をファッション界に轟かせてきた。ラフがクリスチャン・ディオールのラストショーで着ていた、白いブリーチの施された青いシャツは、まさにルビーとラフ、二人の代表作といえる輝きを見せている。

以前からファッション界と深い結びつきがあったルビーにとって、アパレルラインの始動は自然な成り行きだったのだろう。

驚きのニュースから3ヶ月。とうとうS.R.STUDIO.LA.CAのデビューコレクションがピッティで披露される。しかもランウェイショーでの発表という、これ以上ない大舞台を用意して。

デビューコレクションの印象は、カリフォルニアの大地と無骨な労働の営みを思わせるスタイルが、荒々しい自然を生きる人間の強固な精神性が投影されたかのよう。赤・黄・白・オレンジというカラーパレットが衣服の上を縦横に拡散するファブリックデザインは、ルビーのペインティングが衣服の上で表現された鮮烈な迫力を放つ。

ダイナミックでパワフルなブリーチが施されたアイテムの数々、とりわけデニムジャケットは、ルビーがラフ・シモンズとこれまでに取り組んできたコラボアイテムを連想させるデザインであり、その物語の続きを見せられている錯覚に陥る。

イブ・サンローランのモンドリアンルックがそうであるように、これまでファッション界はアートからモチーフを得てデザインを行うケースが多かった。そこに本物のアーティストが参入し、自らのアパレルラインをスタートさせるアクションは、ファッション界にどのような影響を及ぼすだろうか。

アーティストとしてのルビーの才能は、すでに世界に知れ渡っている。このアパレルラインで鍵となるのは、ルビーがオリジナルスタイルを作り上げられるかどうかに掛かっている。

デビューコレクションはラフ・シモンズの面影を感じさせ、ラフがシグネチャーブランドで発表してきたデザインに近いとも言え、既視感があったのは事実。ただし、スタイルには確かな違いも散見された。それがスタイル軸の違いである。ラフがテーラードジャケットなどフォーマルが軸となっているのに比べ、ルビーは無骨なワークウェアをスタイルとしたカジュアルが軸になっている。

そのスタイルは、寝食を忘れてスタジオで作品制作に没頭するアーティストが、絵の具の汚れもそのままにランウェイに飛び出してきたようでもある。

モード史に燦然と輝くココ・シャネルはかつてこう述べた。

「流行は変化していくもの。だけどスタイルは永遠」

シャネルのこの言葉に、ファッションデザインの特徴が凝縮されている。つまるところ、ファッションにおいてはスタイルがすべて。どんなスタイルを打ち出すのか、そのスタイルによってどんな価値観をもたらすのか。それが、ファッションの歴史を更新してきた。それを実践してきたのが、ココ・シャネルやクリスチャン・ディオール、イヴ・サンローランであり、川久保玲やマルタン・マルジェラだった。近年ではデムナ・ヴァザリアもその一人に入るだろう。

ファブリックデザインだけでなく、スタイルでもオリジナリティの確立が実現したとき、ルビーはファッションの概念を更新し続けてきたモード史においても確かな足跡を残すことになる。

僕らはそのとき、歴史の証人となる。果たしてルビーは、その領域にまで到達することができるだろうか。ファッションの神々が住む領域に。

〈了〉

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