そのデザインは計算なのか、感覚なのか -マシュー・ウィリアムズ-

AFFECTUS No.155

ストリートシーンをリードし、伝説的な存在となったクリエイティブなDJ集団「ビーントリル(BEEN TRILL)」。その結成メンバーだった3人は、それぞれがファッションブランドを立ち上げ、今やどのブランドも世界で熱烈な人気を獲得し、ファッション界を席巻している。ヴァージル・アブロー、ヘロン・プレストン、そして最後の一人が今回ピックアップするマシュー・ウィリアムズ(Matthew M Williams)である。

多くの人気ストリートブランドのデザイナーがそうであるように、マシューもファッションブランドでデザイナーとして専門的なキャリアを築いてきたわけではない。

シカゴ生まれ、カリフォルニアで育ったマシューは、アメリカの音楽業界でクリエイティブディレクターとしてその才能を発揮し、名声を高めてきた。カニエ・ウェストにレディー・ガガ。マシューを支持するスターの名が、彼の実力を証明している。

そんなマシューが、自身のファッションブランド「ALYX(アリクス)」を立ち上げたのは2015年。ブランド名はマシューの娘の名前から取られたもので、ウィメンズウェアからスタートした。2017SSシーズン、メンズウェアにも着手し、2018年にはブランド名を「1017 ALYX 9SM」に変更する(読み方は「アリクス」のまま)。ブランドのInstagramアカウントのフォロワー数は54万人を超え(2019年6月30日現在)、2018年5月にはとうとうストリートの王道、ナイキとのコラボ「NIKE X MMW TRAINING SERIES 001」を発表し、ALYXの人気は衰えを知らない。

ヴァージル、プレストン、マシューのブランドは「ストリートウェア」と称されることが多い。今、ストリートウェアと聞くと、どんなイメージが浮かぶだろう。スケート、ヒップホップ、ビッグシルエット、ロゴTシャツ。いずれもストリートウェアで頻繁に見られる要素だ。ヴァージルやプレストンのデザインは、確かにストリートウェアと呼ぶにふさわしいテイストがある。しかし、マシューだけは違う。彼のブランド「1017 ALYX 9SM」は3人の中でも異質。

ALYXは3人のブランドの中で最もモードな匂いが強い。ブラックをメインカラーに、シャープなシルエットで、クールでセクシーな世界を演出している。そのデザインから私は、ストリートウェアという単語を即時思い浮かべることが難しく感じる。ALYXのショーを見ていると、こんな言葉が頭をよぎる。

ダーク、ゴシック、ボンテージ、パンク、メタリック、近未来……。

マシューのデザインには、スケートやヒップホップといった現代のストリートウェアに散見されるカルチャーの匂いが他のストリートブランドに比べて弱い。例えばアイテム。ストリートウェアで頻出するアイテムといえば、Tシャツとフーディが挙げられる。マシューもALYXでTシャツとフーディを作っているが、それ以上に印象に残るアイテムがある。それがシャツとテーラード(ジャケット&コート)だ。

マシューがブランドをデビューさせた2015年は、デムナ・ヴァザリアがバレンシアガのディレクターに就任した年であり、ビッグシルエットのストリート旋風がまさにこれから吹き荒れようとするころ。

しかし、マシューはそのトレンドに乗りながらも、自分の軸を外さない。

2016AWシーズンのALYXは、ゆったりしたシルエットでトレンドを取り入れたスタイルを披露しながらも、トレンドとは反するスレンダーなシルエットを多数混合させ、ルックに使用された色のほとんどがブラックであり、ゴシックな世界を作り上げている。アイテムもTシャツやロゴ入りカットソーというトレンドデザインを組み込みながら、シャツ・ニット・テーラードジャケット&コートにパンクな味付けを加えた自身の世界を見せている。

当時、エクストリームと表現されるほど巨大なビッグシルエットがトレンドを支配していたが、マシューはあからさまにエクストリームシルエットをトレースしていない。ただし、そのニュアンスは入れている。例えば着丈。マシューはスレンダーシルエットのシャツでも、膝丈ほどのロングシャツをスタイルの中に取り入れ着丈を長くすることで、エクストリームシルエットの持つ、ゆったりとした空気感と同種の空気感を作り出す。

他にもトップスはマシューらしいスレンダーでセクシーなシルエットなのだが、パンツはかなり幅広のワイドパンツを合わせたりと、コレクション全体はトレンドには反する自分の世界観を貫くデザインに見えながら、その実、詳細に見ていくと所々にトレンドを断片的に反映させている。

2017年になるとビッグシルエットのストリート旋風はさらに勢いを増すのだが、マシューはどこ吹く風という様子で、スレンダーシルエットのバイカーズスタイルを思わすスタイルをベースに、ボンテージ調の切り替えを入れたアイテムや、ランジェリーと言ってもいいほどセクシーなドレスを織り交ぜながら、自身の世界を探求した2017リゾートコレクション発表している。だが、ただ自分の世界を表現しているだけではなく、ミニマムなフォントと色使いのロゴ入りTシャツ、スニーカーとフーディも数は少ないながらも組み込み、しっかりトレンドを混ぜている。

モードを舞台にするデザイナーは、自身の体験してきたカルチャーを投影させてデザインすることでアイテムに個性が立ち上がり、それが魅力となってファンの購買意欲を刺激する。とりわけ、ストリートウェアのデザイナーにはその傾向が強い。マシューもそれは同様だった。

ALYXのシグネチャーアイテムに、ローラーコースターベルトと言われるものがある。これは、マシューが自身の育ったカリフォルニアにある、マジックマウンテンのローラーコースターのシートベルトからアイディアを得て作られたアイテムであり、彼はローラーコースターベルトのように若いころに自身が目にしたもの・耳にしたもの・体験したものから発想を得て、デザインに投影させていることが多い。

今回、マシューをテーマにするにあたり、書き始めるまでにかなりの時間を要した。その要因はマシューのデザインの難しさだった。派手なデザインではなく、むしろシンプルと言っていい。だけど、ミニマリズムのようなクリーンさはなくて、装飾的な印象がしてくる。装飾的なディテールやプリントが多用されているわけでもないのに。

またこうも感じられてくる。ダークでゴシックな世界観でトレンドとは一線を画しているようなのに、今の時代感を掴んだキャッチな感覚が感じられてくる。

これが、マシューのブランドALYXの特徴と言える。マシューはトレンドの要素を抽出し、自分の世界へ昇華させる術に長けている。

これは計算なのか、感覚なのか。いったいどちらでやっているのか。

マシューはインタビューでこう語っている。

「僕にとって唯一大切なのは、服に独自の声、僕の声が吹き込まれてるってこと。僕は、作品を通して自分が感じることを声高に叫んでいる。人がどう思うか、服が売れるかはそれほど考えずにね」i-D「他人に決めつけられるな!」––alyxの信念より

この言葉を額面通りに受け止めれば、マシューは感覚でデザインしているように思える。だが、私はこの言葉を鵜呑みにはできない。

結果的に、ALYXは緻密な計算が入ったデザインに仕上がっている。たとえそれが本当に、マシューが感覚優先でデザインしたとしても。

ファッションデザインの最終目的は「人が着たい・欲しいと思う服を作ること」だと私は捉えている。マシューがこのようなデザインを、インタビューに答えた通りに感覚的にやっているなら、それは天才肌と呼ぶのがふさわしい。

ファッションデザインの奥深さと、実践することの難しさを教えるマシュー・ウィリアムズだった。

〈了〉

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