パリで普通の服を作る異端児オフィシン・ジェネラール

AFFECTUS No.187

ファッションは時代に呼応して変化していく。変化のスピードこそがファッションの醍醐味で、僕はモードを知って以来幾度も虜になってきた。新しい才能と新しい服の連続に痺れたことは数え切れない。服を着ることは楽しい。創造性と想像力を自分の身体の上で遊ぶ面白さは、服だけが持つ価値と体験だと言えないだろうか。

一方で服を作ることも好きな僕は、次から次へと変化するファッションのスピードに距離を起きたくなることがある。変化の波から逃れるのではなく、ちょっと横目で見て何が起きているか気にしながらも、自身が思う服のカッコよさを実直真摯に探求したい。そんな衝動だ。モードなブランドは見ているだけで気持ちが高ぶり、エンターテイメントを体験するように時間を刺激的に消費させてくれ、想像を超えたファッションへの出会いをさらに渇望させる。

でも、モードは服を見る、あるいは着ることで楽しませるだけでなく、僕にとっては無性に服を作りたくなる衝動を起こさせる存在でもある。シーチングをボディに当て、鋏で裁断してピンで留め、自身のイメージを超える形の探求と、針と糸を手に持ち、上質上等な生地を縫い合わせていく喜び。服作りは辛く厳しいことが大半で、服作りへ向かうには勇気を奮い起こす必要がある。しかし、躊躇いを乗り越えて臨んだ、服作りの先に待つ想像力の海に身を任す体験の最高さといったら!

あの最高な体験へダイブするイメージをリアリティを持って膨らませ、服作りへの意欲を掻き立てるブランドがパリメンズコレクションには参加している。そのブランドとは、2011年にピエール・マヨー(Pierre Maheo)がパリで立ち上げた「オフィシン・ジェネラール(Officine Generale)」だ。

パリコレクションと聞くと、あなたはどんな服を思い浮かべるだろうか。普段僕らが目にする服の想像を超えた、先進的で奇想な服だろうか。リック・オウエンス(Rick Owens)やトム・ブラウン(Thom Browne)はファッションの持つ迫力と表現の可能性を存分に堪能させてくれ、コム デ ギャルソン(COMME des GARÇONS)は服の造形を限界まで探求し、ファッションとは布の創作物に留まる存在ではなく、人間を形作る行為そのものだと教え、川久保玲は新たな人間の存在を僕らに気づかせてくれた。

パリコレクションには見る者の頭脳と感性を刺激する、次の時代を作り上げるであろうファッションが圧倒的圧力と共に発表されていく。しかし、オフィシン・ジェネラールはそんなパリコレクションの常識に背を向け、極めて「普通の服」を作る。ピエール・マヨーのベーシックなデザインを見て、想像を超えた想像に出会う体験は不可能だろう。オフィシン・ジェネラールの服を見たら、こう思う人がいても不思議ではない。

「ユニクロにありそう」

その言葉を僕は否定しない。事実そう見えるからだ。しかし、オフィシン・ジェネラールを纏う男性モデルたちはこの上なくエレンガントで、その美しくも澄んだ空気に僕は気分を一気に高揚させる。

「どうしてそのラインを!どうしてそのボリュームを!どうして見つけられたのか!」

モデルたちが纏う服のフォルムに、僕の意識は釘付けになる。気品と成熟を漂わせる布の量感と線で作られた、普通の服たちに芽生えたモードな空気。布のボリュームとラインのコントロールという、たったそれだけの行為でピエール・マヨーは、ベーシックアイテムたちを世界最高の舞台であるパリコレクションのランウェイに立てるレベルにまで押し上げた。僕はそのセンスに嫉妬する。ちくしょう、なんて奴だ。僕は普通の服にリック・オウエンスと同様の高鳴りを覚え、服作りとはなんと面白く、創造の余地があるゲームなのかと、高鳴った気分をさらに高揚させる。

ファッションの王道に乗って異端をやる。オフィシン・ジェネラールはそれを実践しているブランドだ。異端とはアヴァンギャルドなデザインとは限らない。普通の服を作ることが異端にもなり得るのだ。群を抜く感性と美意識、そして何が美しい服になり得るのかを見出す審美眼を持ってさえいれば。加えて言うなら、現在進行形であるモード史のコンテクストを読み解く知性を養うことができれば、よりパーフェクトな存在に近づけるだろう。

あのシャツを、あのコートを、僕はきっとどこかで着たことがある。けれど、過去に僕が着用したはずの服とは異なる空気感。想像は覆る。オフィシン・ジェネラールがもたらす体験は、最高にカッコいい普通の服が作りたい衝動へと駆り立てる。

普通がカッコよく見える。

その言葉の響きと、響きから湧き上がるイメージ、それってすごくモードじゃないか。

〈了〉

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