ダーク&ホラーなアートスクールが灯した希望

AFFECTUS No.224

現在、日本ではまだ知名度は浸透していないが、ロンドン期待の若手として注目されているブランドの一つ、それが「アートスクール(Art School)」だ。プライベートでもパートナーのイーデン・ロウェス(Eden Loweth)とトム・バラット(Tom Barratt)のデザイナーデュオによって始まったブランドは、2019AWシーズンからロンドンファッションウィーク公式スケジュールでの発表もスタートさせ、この新鋭は自身の美意識を探求していく。

僕の中でアートスクールといえばダーク&ホラー。ゾンビのようなホラーテイストを、ブラックとホワイトを中心にしたシャープかつシンプルな色の組み合わせで、リアリティあるシルエットと共に披露するのがアートスクールのシグネチャーと呼べるデザインになり、常に妖しさと暗さがコレクションを支配していた。

だが、先ごろ発表された最新2021SSコレクションではアートスクールの印象に変化が生じる。過去に発表されたコレクションは、暗闇の墓地から蘇ったゾンビの如く妖しさと暗さが漂い、ダーク&ホラーが迫ってきていた。しかし、2021AWコレクションは異なる。これまでよりもコレクションに生気が宿っていたのだ。

だが、ここで断っておく必要がある。生気が宿ったと言っても、アートスクールのそれは戦場に赴く兵士、もしくは戦場で死地を体験し、帰還してきた兵士のような暗さが伴う生気である。実際にアートスクールでは珍しく、ミリタリーウェアを連想させる燻んだオリーブが使われたアイテムが複数発表され、衣服の所々に切り込まれたスラッシュはベーシックアイテムのジャケットを、死戦を乗り越えてきた表情と雰囲気を作り出すまでに至っていた。

やはりアートスクールはアートスクール、ダーク&ホラーは変わらない。そう思っていた。けれど、その印象はショー映像を観ることで再び変わる。

庭園を舞台にアスファルトの上を、男女のモデルたちがアートスクールのアイテムを着用して歩いていく。ドットボタンを採用したトレンチコートのシルエットはスレンダーで、洗練された香りがほのかに匂い、ベアトップのロングドレスの裾をたくし上げ歩いていく女性モデルには、エレガンスが妖しさを引き連れて浮遊している。

ここでさらに新しい印象を加える要素が一つ現れる。それはショー映像に起用されたBGMだ。このコレクションに起用されたBGMは一曲だけであり、BBC (英国放送協会)が選ぶ注目の新人「BBC Sound of 2020」第1位を獲得したイギリスのセレステ(Celeste)が歌う『Little Runaway』だった。

これまでよりも生気が宿ったと言っても、悲壮感に似た暗さが支配していたはずのコレクションは、セレステの歌い上げる『Little Runaway』によって希望を灯すコレクションへと変貌する。セレステが“Hallelujah”と歌詞を声にするたび、射し込む光のようにコレクションに希望の火が灯されていく。音楽によってここまでコレクションの印象が変わるものなのかと僕は驚くと同時に、この体験の新鮮さに嬉しくなる。

ショーに起用されたモデルたちもアートスクールに新たなる一面を添えていた。これまでと同様に男女のモデルを同時起用するのはもちろん、モデルたちの年齢・体型にもバリエーションが見られ、幼い子供も大人サイズのコートを着用してショーに登場する。それだけに終わらず、義足や隻腕の人々もモデルとして起用され、ファッションショーに起用されるモデルといえばプロフェッショナルなモデルたちが一般的だが、アートスクールはそういった既成概念とは逆の道を進んでいた。

これまでのコレクションが暗く怪しかったからこそ、2021SSコレクションの光が美しく感じられる。ファッションデザインとは服を作ることが目標ではなく、服を作り、その服を着た人間たちの姿に何かを感じてもらうことが目標なのだと、僕はアートスクールから改めて学ぶ。

人々が暗さと妖しさを感じるものに、デザイナーであるロウェスとバラットは美を見出し、アートスクールでダーク&ホラーを暗く妖しいままにデザインしてきた。結果、完成したコレクションは見ていても闇を覚えるものに仕上がっていた。しかし、今回のコレクションではダーク&ホラーに生気を宿らせ、闇に射し込む光のような希望を灯らせる美しいものに転換させていた。自分たちが探求していた美意識を、角度を変えて表現した技量は見事の一言に尽きる。

人間そのものを愛するように、様々な人々をショーに登場させ、デザインの最先端を競い合うモードファッションをリアルワールドへ落とし込んでいく。僕らが当たり前に暮らす街の風景にこそ、モードは映えて美しい。決して特別な瞬間のための特別な服ではない。誰もが着ることができ、誰もが輝ける服なのだと、そうメッセージを発するように。

アートスクールは教える。ファッションのパワーを。

〈了〉

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