カルバン・ルオがスタイルをパッチワークする

AFFECTUS No.379

アメリカのファッションスタイルをベースに、ワークウェアとレザーウェアでハードな側面を加えたと思いきや、イメージの流入はそれだけで終わらず、ストリートウェアやジェンダーレスが合流し、都会的ニューヨークモードが無骨になったようでもある。「カルバン・ルオ(Calvin Luo)」は、いくつものスタイルが同時に感じられる、実に現代的な2023SSコレクションを発表した。

これまで何度か触れた通り、近年、ニューヨークモード界からは新しい才能が次々から登場している。注目若手デザイナーの筆頭であるピーター・ドゥ(Peter Do)、アメリカが誇る「CFDAファッションアワード」で、2022年アメリカン・メンズウェア・デザイナー・オブ・ザ・イヤーを受賞した「ボーディ(Bode)」のエミリー・アダムス・ボーディ(Emily Adams Bode)、同アワードでアメリカン・ウィメンズウェア・デザイナー・オブ・ザ・イヤーを受賞した「カイト(Khaite)」のキャサリン・ホルスタイン(Catherine Holstein)など、ニュースターが業界を賑わしている。

そういった華やかな面々に比べると、カルバン・ルオはいささか地味かもしれない。ブランドの設立は2014年と今から8年前に遡り、新人と言うにはキャリアを重ねている。だが、発表するコレクションは、現代ファッションデザインの潮流を捉えた興味深いデザインだ。

デザイナーのルオは、常にアメリカファッションを敬愛している。私が思うアメリカファッションの特徴は、ジャケットやパンツなど都市での着用を主とするアーバンスタイルと、ジーンスやスウェットといったカジュアルスタイルの両立にあるが、より厳密にいえば、スーツを着ていてもどこかカジュアルな匂いが漂い、どんな服を着ても、どこかカジュアルなのがアメリカファッションなのだ。

ルオの2023SSコレクションはジャケットが頻出するが、ネクタイを締めたルックは一度も登場しない。ジャケットの下にはノーネクタイのシャツが最も多くスタイリングされ、他にはタートルネックのトップスが合わせられているぐらいだ。

また、ジャケット&パンツといったオーソドックスなスタイルも非常に少なく、2023SSコレクションは32ルックが発表されているが、ジャケット&パンツを確認できたルックは1ルックのみである。ジャケットと組み合わせられたボトムはショートパンツや、ミニスカートが多く、若々しくフレッシュだった。

過去のコレクションを見ると、ルオのデザインはカッティングに特徴がある。直線的かつシャープなカットで、極端に短いレングスのライダースジャケットやトップスを作ったり、語弊を招く表現になるかもしれないが、石造を見ているような硬質なシルエットが際立つ。私には、ジャケットを着た人間の彫刻が連想され、ルオはシルエットの硬さに美しさが宿っている。

ただ、2023SSコレクションに関して言うと、過去のコレクションに比べてジャケットの登場頻度が少なく、キルティング素材のブルゾンやベスト、ライダースジャケット、デニムベスト、フリース素材のカーディガンなど、カジュアルな味付けが濃くなっていて、アメリカファッションのカジュアルに焦点が当てられた印象だ。そして、やはりどのスタイルも見ても、ルオの服には硬さのエレガンスが現れている。

マルチボーダーのポロシャツとカーディガンがアメリカントラッド的で、キャップを被るモデルたちの姿はストリート的だ。また、一見すると男性に見える女性モデルも起用され、その女性モデルがジャケットとミニスカートを着用する姿には、ジェンダーレスファッションの魅力も立ち上がっている。

ルオはアメリカを代表するアイテム、素材、スタイルを、自らの武器である硬く美しいシルエットでデザインし、そこにストリートやジェンダーレスなどの現代ファッションで重要な要素を取り入れて、様々なイメージが混在したコレクションを完成させていた。

複数のイメージが同時に感じられ、混沌としたファッションは現代ファッションに見られる特徴であり、ルオは最先端ファッションの潮流を捉えている。この潮流の始まりは、ラフ・シモンズ(Raf Simons)が「カルバン・クライン(Calvin Klein)」で発表した二つのコレクション、2018AWコレクションと2019SSコレクションだと私は考えている。

シモンズは、宇宙、消防士、映画『ジョーズ』と『卒業』など、アメリカの代表的スタイルとカルチャーを大胆に組み合わせ、それはまるでスタイル&カルチャーのパッチワークと言えるデザインで、非常に先端的なコレクションを発表していた。ただ、残念ながら、シモンズがカルバン・クラインで発表したデザインはビジネス的には不調に終わってしまい、シモンズは就任からたった4シーズンでディレクターを退任するという憂き目にあった。

だが、時代を早く行きすぎるのがシモンズ。彼の先端的デザインが、3年ほど経過した今、世界のファッションの潮流に現れ始めた。現在のところ、当時のシモンズを超えるインパクトを超えるデザインは現れていないが、スタイル&カルチャーのパッチワークと言えるデザインは、注目すべきファッションデザインだと考えられる。

ルオのコレクションは、シモンズが開拓した文脈上に位置している。ただ、ダイナミックな魅力はシモンズに比べると、まだ足りない。おそらくその理由は、シモンズがアンバランスになることを恐れず大胆に組み合わせて、違和感が生じたならそれを個性とするデザインだったのに比べ、ルオはファッションとして美しく成り立つように、スタイルが綺麗に整えられているからだろう。しかし、必ずしもダイナミズムが必要ではない。1番重要なのは、見る者に「着たい」「欲しい」と思わせるカッコよさだ。その点で言えば、難解だったシモンズよりも、ファッション性に優れたルオの方が勝っている。

ルオの知名度はアメリカの若手スターデザイナーに比べると劣るが、コレクションは若手スターたちに勝るとも劣らないクオリティを発表している。今後も私はカルバン・ルオを観察し続けたい。

〈了〉

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