ソウシオオツキが見せるモダンブラックウェア

AFFECTUS No.418

ファッション業界で頻用される「トレンド」という言葉には、「売れ筋」や「人気商品」という意味が含まれ、「トレンドを意識する」と言うと、売れ筋を狙っているデザインなどの意味で否定的に捉えられることも多い。しかし、現在のデザイン傾向を把握し(時には過去に遡り、現在に至るまでのデザイン傾向も)、そこにデザイナー独自の解釈を加えて新しさを創造してきた歴史を持つファッションにおいて、トレンドには文脈的意味も含まれ、完全に無視することはリスクが伴う。

ファッションブランド最大の目標は何かとなると、かなり現実的な表現をすれば消費者が「欲しい」「着たい」と思う服を作ることだと考える。

「なんだこれ!?こんな服があったのか!欲しい!」
「これこれ!私が着たかったのはこんな服!!」

消費者に興奮を呼び起こし、強烈な着用意欲を湧き上がらせ、購入したくなる服を作ることが、ファッションブランドが目指すべきことだろう。

丁寧な縫製、上質な生地などで作られた服は「いい服」だ。しかし、「いい服」が必ずしも「着たい」となるかと言ったら、話は異なる。そこで重要な役割を果たすのがトレンドである。これはデザインスキルに関連する話になってしまうが、トレンドに乗った上でオリジナリティが発揮されたデザインを「いい服」で作れば、「着たい服」が完成する確率は高まる。だが、トレンドを無視して「いい服」を作っても、消費者の反応は鈍くなるだろう。

しかも、服の作りが凡庸でも、デザイン自体に強い現代性が感じられたら「欲しくなる」のもファッションだ。私はキコ・コスタディノフ(Kiko Kostadinov)が初期に発表していた服を手に取った時、丁寧に作っているが仕様がチープに感じてしまい、服の作りという意味ではクオリティの高さは感じなかった。

だが、私は当時見たコスタディノフの服が「着たい」「欲しい」と思えた。ワークウェアをカッティングによってモードへと昇華させた服は、たとえ作りがチープでもあっても強烈な着用意欲を湧き起こした。今となっては、価格に二の足を踏み、購入しなかったことが悔やまれる(ちくしょおおおおおおおお)。

長々とトレンドの話をしてきたが、2023AWシーズンに発表された「ソウシオオツキ(Soshiotsuki)」の最新コレクションには、まさに「着たい」「欲しい」と思わせる現代性がデザインされていた。

各都市で発表された2023AWシーズンのコレクションを見ていると、今シーズンは黒い服を発表するブランドが非常に多かった。カジュアルウェア全盛の時代に対するカウンターなのかもしれないが、エレガンスやストイックなど印象は様々だが、ブラックウェアスタイルは2023AWシーズン注目のスタイルに浮上している。

モードファッションでは、まるで必修科目のように各ブランドが共通して取り組むトレンドが現れる。2010年代中盤ならストリートのビッグシルエットがそうだった。当時は世界中のブランドが、ビッグシルエットを独自に解釈したデザインを発表し、私は各ブランドのビッグシルエットにおける研究成果を見ているような感覚になった。

コロナ禍が起きてからはリラックスムードの服が増加し、必修科目的要素を呈した。例えば、エディ・スリマン(Hedi Slimane)は「セリーヌ(Celine)」に就任した当初は、フレンチシックなデザインを発表していたのが、2021SSシーズンから「サンローラン(Saint Laurent)」時代を思わすカジュアルルックに回帰する。コロナ禍によって時代は重く不透明。そんな時代にシックなエレガンスを押し進めるよりも、カジュアルでラフなリラックススタイルこそがこれからの時代に必要な服。そんなメッセージ性を感じるほど、スリマンの転換は印象的だった。

2023AWシーズンのブラックウェアは、ビッグシルエットほどの大波ではないが、必修科目的要素が強まるぐらいには散見されている。ソウシオオツキも、この必修科目に独自性を発揮したコレクションを発表していた。

黒いジャケット、黒いパンツ、白いシャツ、黒いネクタイ。ソウシオオツキは伝統のクラシックスタイルを基盤にコレクションを展開するが、通常のクラシックとは異なる。ソウシオオツキが加えたオリジナリティは、アウトローな空気だった。

白いシャツと黒いネクタイを締め、ボトムには黒いパンツをスタイリングしているが、このパンツがディテール的にもシルエット的にも興味深い。一見すると、ウェストにはタキシードルックで見られるカマーバンドを付けているように見えるハイウェストボトムなのだが、ウェストは2種類のパンツウェストが重なったレイヤードパンツとして作られている。

カマーバンドに見えたハイウェストは、おそらくウールを用いたであろうシックなトラウザーのウェストが覗き、ヒップラインあたりで艶のある光沢を見せた素材(シルクに見える)を用いた、ウェストにドローストリング仕様を施したカジュアルパンツに切り替わっている。ドローストリングパンツに切り替わると、シルエットは昭和映画のヤクザが穿いていたようなルーズな量感に変わる。より正確な表現をするならば、腰から膝に向かって膨らみ、膝から裾に向かって絞られていくシルエットは、かつてヤンキーが穿いていた「ボンタン」に似ていると言っていい。

ジャケットやパンツも、いわゆるダボッとしたシルエットが多く、伝統的なエレガンスが持つ上品なムードとはまったくもって違う。モデルはアジア系のモデルが多く起用され、黒髪をびっちりと撫で付けたヘアスタイルで黒い服を着て歩く姿に、私は昭和の不良を思い浮かべる。コレクション全体のムードは、北野武の映画に登場するアウトローに近しい。ただし、モデルたちの年齢は北野作品のヤクザよりもずっと若い。

トレンドを売れ筋を扱ったように見せてしまうのか、それともオリジナリティを表現したように見せるのか、それはデザイナーの力量次第だ。ソウシオオツキが示したのは、後者の力量だった。

2023AWシーズン注目の黒い服を、ネクタイスタイルを軸にしてクラシカルにデザインし、アウトロームードを混ぜることで、端正なスタイルに終わらせない。そうして誕生した男たちのやさぐれたファッション。ソウシオオツキのモダンブラックウェアが、トレンドをコンテクストに変える。

〈了〉

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