洗濯では落とせないものを、洗い落とすスカル スタジオ

AFFECTUS No.621

これは「スカル スタジオ(Skall Studio)」のコレクションと、洋食屋で食べた個人的体験から生まれた、架空の人物について書いたもの。本文は以下から始まる。

私には会社の近くに、大好きな洋食屋さんがあった。あのお店のライスはさっぱりとしていて、私の好み。だけどレビューでは、パサつきがあって不評だという。ハンバーグはサイズがちょうどいいし、ソースの味も濃厚ではなくてさらっとした味わいで、自然な風味。だけどレビューでは、ハンバーグのサイズも小さい、ソースは薄味だと書かれている。

日曜日の午前中、好きなお店の好きな料理を考えて浮かんだモヤモヤを感じながら、先月、念願叶って新しく購入したパナソニックのドラム式洗濯乾燥機で、溜まってしまった洗濯物を洗う。ぐるぐると回る私の服。汚れが落ちていく様子を想像するだけで、少しほっとする。洗剤の香りがほんのり残る、白いシャツを思い浮かべ、自然と笑みがこぼれた。

今日のランチはどうしよう。外で食べたい。リラックスする日曜日のお昼、着たいブランドは一つ。「スカル スタジオ(Skall Studio)」だった。

出会ったのは偶然。いつも通っている都内のセレクトショップ。私の好きなブランドが並ぶラックの隣に、ふわりとした空気が心地よい服が並んでいた。それが、スカル スタジオとの出会い。

初めて耳にしたブランド名は、そのシンプルさが心地よく響く。デンマークブランドは、クリーンなラインとフェミニンなシルエットが特徴で、色や柄、ディテールで服を飾り立てることはなくて、シンプルなデザインの中に上品さを感じさせる。ノスタルジーやカントリーを感じるというのに、ワンピースやシャツの佇まいには柔らかな緊張感があった。デニムウェアという最高にカジュアルな服も、最高にエレガントでピュア。ノスタルジーやカントリーという言葉から、本来なら感じるはずの朴訥した感覚とは違う、洗練された美しさが見えてきた。

私は、そのギャップに惹かれて一枚のシャツを試着する。

“Edgar Shirt”と名付けられたそのシャツは、飾り気のないさっぱりとしたシルエットがメンズシャツっぽい。けれど、全体の雰囲気はむしろ柔らかい。後ろ身頃のヨークから膨らむタックの表情、太めの幅のスリーブ、曲線の身体を直線に見せるストレートシルエットが、かわいくてカッコいい。

シャツを着た身体は自由を感じるのに、鏡の前に立つ私はどこか凛々しい。自分で自分のことを凛々しいと言うのは、ちょっと慣れないけど。シャツの色は白以外にもあり、ライトブルーを試着した。清涼感がある色で気分がいっそう軽やかになる。

ドラムが回る音の余韻を頭に響かせながら、クローゼットを開けた。目の前には、あの日買った私にとって初めてのスカル スタジオ、軽快な青いシャツが掛かっている。クリーンな服を眺めていたら、あの洋食屋さんでどうしようもなくランチが食べたくなってきた。だけど、お店の場所は日本橋で、何より日曜は定休日。

毎日は、常に音や情報であふれている。SNSでの反応、レビューでの評価、他人の視点。それらの声は、聞きたくなくても心の中で反響し、本当の感覚を曇らせる。だけど、スカル スタジオの服を着ることは、そうしたノイズを一歩遠ざけ、静けさをこちらに引き寄せる。

私は決めた。明日は、新しい1週間の始まりを知らせる月曜日。スカル スタジオの涼しげなシャツを着て、あの洋食屋さんにいこう。このシャツを着て、好きなライスとハンバーグを食べたい。レビューの声は、私にとってはただのノイズ。私は、私自身の感覚を信じて、好きなものを、好きなタイミングで、味わうだけ。それでいい。スカル スタジオのシャツが、洗濯では落とせないものを洗い落とす。

〈了〉

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