AFFECTUS No.109
2019SSシーズンのコレクションが終わってから2ヶ月が経過した。来月の下旬からは、メンズコレクション2019AWがスタートする時期だ。ファッション界の時間の流れは早い。目下注目なのはヴェトモン=ストリート以降のスタイルと言えよう。2019SSシーズンではニューヨークから「NYアヴァンギャルド 」と言えるデザインの新潮流が見られた。
これまでの装飾性が高くビッグシルエットのストリートスタイルから、シンプル&クリーンをベースにアヴァンギャルドな要素を極小に表現したスタイルが現れた。それが、僕が言うところのNYアヴァンギャルドになる。
2019SSを振り返ると、デコラティブ&ストリートは継続されながらも、シンプル&クリーンを押し出すブランドが明らかに以前より増加し始めていた。
果たして、デザインの潮流はこのままNYアヴァンギャルドを代表とするシンプル&クリーンへ完全にシフトしていくのだろうか。そしてヴェトモンの次に、時代の覇権を握るキングはどのブランドになるのだろうか。
ファッションの未来は読めない。けれど、未来は必ず訪れる。その未来を考えてみたいと思う。
今日、あるツイートを見て興味深いデータを知る。SNSを利用する、450人のミレニアル世代に聞いた2018年の流行語に関する調査だ。こういう世代を絞ったデータは貴重で、様々な考察を得るきっかけになる。とりわけ時代を象徴する存在である若者たちのデータはありがたい。Z世代がどうなのかも気になるところではある。
この中で興味を惹かれた流行語が二つあった。それが「あいみょん」と「BTS」だった。なぜその二つに惹かれたのか。それは「音楽」だったからだ。音楽の現象を追うことは、時代の若者たちの感覚を捉える絶好の資料となる。また、ファッションと音楽は密接に関係し、音楽の影響はファッションへ浸透することは歴史が証明している。
他にも音楽に関する流行語はあった。しかし、僕はあいみょんとBTSのミュージックビデオを視聴し、この二つに惹かれる。そこにある共通点を感じたからだった。
そのため、さらに両者のミュージックビデオを複数本観ることにした。下記は実際に観たリストである。
・あいみょん
『生きていたんだよな』
『愛を伝えたいだとか』
『君はロックを聴かない』
『マリーゴールド』
・BTS
FAKE LOVE
FIRE
DOPE
Blood Sweat & Tears
DNA
Boy In Luv
Not Today
Save Me
Spring Day
I NEED U
War of Hormone
両者の各曲をフルで観てみた。
ここで断っておきたいが、僕は音楽に関してはまったく詳しくない。両者の曲を聴いたのは、あくまでファッションデザイン視点で、あいみょんとBTSのミュージックビデオを視聴し、これからのファッションデザインの未来を考察することが狙いである。
音楽に詳しくない僕が観ても、両者の音楽性、ミュージックビデオの構成が完璧に異なることは理解できた一方で、両者の間にある共通点を感じた。
それは「エモーショナル」であることだ。あいみょんとBTSの音楽は、聴く者の感情へ熱を持って訴えかけてくる。自らの感情を熱を持って表現することに、ある一定の年齢上の大人は気恥ずかしを感じ、例えばエモーショナルなテキストを書くと自虐的になることもある。「ポエムになりました……」とテキストの冒頭、もしくは末尾でそう締めるように。
しかし、今の若者たちは違う傾向を見せている。
あいみょんが人間の傷ついた繊細な感性を救おうとするようなエモーショナルな情熱なら、BTSはアグレッシブに熱く強く戦いに挑むエモーショナルな情熱だった。守らなければならない価値観がある。そう訴える情熱がBTSのそれだった。
両者にあるのは、何もかもさらけ出そうとする、ありのままを見せる潔さであり、その姿にクールなカッコよさを感じた。
ここから述べることは、あくまで僕個人の解釈であることを念頭に置いて読んでもらいたい。きっと違う捉え方をする人もいるだろう。一つの考察と読んでいただけたら、幸いである。
あいみょんとBTSのクールさには、現代の時代感を感じた。例えば、40代以上は自らをカッコよく美しい見せることに価値を置いている。一方20代は自らをカッコよく美しく見せる意識はありながらも、40代以上なら見せたくない自らのカッコ悪さ・ダサさも晒すことがクールという価値観を持っていると僕は考えている。
カッコ悪さも晒すことがクール。それが現代のエモーショナルなのだ。
あいみょんは心の内の弱さを晒す。しかし、BTSは一見すると王道のカッコよさを追求しているように見える。だが、僕はカッコ悪さを晒すクールを感じていた。
それはなぜか。
その理由は、彼らのファッションにあった。彼らのファッションは、アメリカントラッド、ストリート、スポーツ、グランジがミックスされている。いくらなんでも混ぜ過ぎではないかと思うほどの、ミックス感だ。しかも、それらが調和を整えてカッコよく見せるというタイプではなく、とにかく気に入ったアイテムを片っ端から身につけてレイヤーしていくタイプのスタイルだ。それでいながら、シルエット自体はスリムさを軸にし(スキニーというほどの細さではない)、全体のスタイルをスマートさでラッピングしている。
従来のファッション感で言えば、ここまで乱雑に混ぜ合わすのは、調和を壊して「ダサさ」に繋がるリスクを潜んでいる。だが、この「ダサさ」がクールへと昇華している(彼らのルックスとスタイルの美しさが一因でもあるだろう)。
若者たちに熱狂的に支持される両者、とりわけBTSはアジア人でありながら欧米の女性から熱狂的に支持されるという、歴史的に見ても特異な現象を引き起こしている。この時代の事実を知ったとき、一つの疑問が浮かぶ。話は冒頭に戻る。時代がファッションデザインをシンプル&クリーンへシフトするにはまだ早いのではないか、という疑問だ。
NYアヴァンギャルドが時代の覇権を握るタイミングではない。そのことが頭を過る。デザインは市場へ投入するタイミングが一番重要だ。デザインの価値は市場の流れが決定する。
まだ、市場的には装飾性が必要とされる時代なのではないか。
しかし、装飾性は必要とされるが、極大なビッグシルエットは終わる。シルエットはリラックス感あるスリムが核になり、スマートに装飾性を表現するスタイルが、ヴェトモン発のストリートスタイル以降のスタイルとして定着する可能性があると予測する。
そう考えると、次の時代のキングとなり得るブランドが一つ浮かぶ。
キム・ジョーンズ率いるディオール メンだ。
先日、ディオール メン2019Pre Fallのショーが日本で開催された。そのコレクションをすぐにチェックしたが、正直言えば第一印象は「いまいち」であった。シンプル&クリーンかつ極小にアヴァンギャルドを表現する「NYアヴァンギャルド 」を知った後に見るデザインとしては、まだ装飾性が強く残るキムのディオール メンにいささか古さを感じたのだ。
だが、若者たちから支持されるあいみょんとBTS、特にBTSの圧倒的な世界規模の支持というコンテクストを知った後では、キムのディオールに対する印象は一変する。
ディオールらしいクラシックなテーラードをベースにし、ストリートと装飾性を織り交ぜ、スマートにデコラティブを展開するキムのメンズスタイルは時代との整合性がある。
NYアヴァンギャルドは時代の先を行き過ぎている。だが、キムのディオール メンは時代をほんの少し先をいっている。その距離感が市場には受け入れやすい。私はキムにスマート&デコラティブのデザインを市場に投入するタイミングのうまさを感じた。
キムのディオール メンは次の時代のキングとなり得る可能性がある。
これからディオール メンがビジネス的にどうなるのか、注目していきたい。私の予測は当たるのか外れるのか。それを知りたい。ファッションは未来を占うゲーム。私はそのゲームに参加する一人のプレーヤーとして「ファッションを考えること」で楽しんでいきたいと思う。
〈了〉