これまでのファッション、これからのファッション -1-

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AFFECTUS No.301

2022年初めてのAFFECTUSは、コレクションをテーマにした通常の内容からは離れ、現在ファッションデザインに起きている潮流について、今週と来週の2回に渡って考えてみたい。オンラインによるモードの観察や、展示会やショーで直接コレクションを見る機会、デザイナーたちへのインタビューなどといった体験もふまえ、2020年の新型コロナウィルスの発生以降から現在に至るまでのファッションの変化を、ここで一度文章にしてまとめ、今後のファッション(モード)の変化を捉えやすくしたいと思う。

まず、現在のファッションデザインの状況について、僕が実感していることを述べよう。過去に語ってきた内容と重なる部分も多いが、今後のファッションを考えやすくする上で、この場でもう一度取り上げて整理していきたい。

第一にあげられるのが、トレンドを席巻する大きな現象は存在しないということだ。現在のモードに、デムナ・ヴァザリア(Demna Gvasalia)が引き起こした、世界と時代と席巻したストリート旋風のような巨大な畝りは見られない。

ただ、新型コロナウィルスの脅威が現れてから注目のデザインがいくつか現れており、ここで取り上げたい現象が三つある。

一つ目はリラックスの浸透である。これは新型コロナウィルスの影響そのものと言えよう。自宅で過ごす時間が爆発的に増え、オフラインでのコミュニーケーションが激減し、服に外観のデザインよりも生活する上で心地よさを大切にするニーズが強くなっていった。スウェットのようなカジュアル素材を使用し、シルエットも身体を束縛しないゆとりを含み、シンプルでさらっと着こなせる服が発表されていく。「フミト・ガンリュウ(Fumito Ganryu)」2021SSコレクションは、まさにリラックスを代表するモードウェアだった。

二つ目に、先のリラックスへの反動と呼べる現象が現れる。エレガンスの登場だ。コレクションを見ているとスーツやドレスの発表が明らかに増加した。素材にもフラワープリントやジャカードなど柄を用いた素材の登場が増え、コレクションに華やかさが顕著になる。とは言っても、決して大袈裟な華やかさが主流になったわけではなく、例えるならグレーやホワイトを用いたミニマムデザインの服に、色彩が鮮やかな花柄素材を控えめに使用したコレクションだと言えよう。

厳密に言うと、エレガンスはストリート旋風が落ち着いた頃からすでに現れ始めていた。だが、新型コロナウィルスによって室内での生活が強いられるようになり、エレガンスのパワーは弱体化し、代わりにリラックスが目立つようになっていった。その後、リラックスモードのコレクションが続いていたが、ある流れが主流になるとその反動で別の流れが生まれるモードの伝統に倣い、エレガンスが再び登場したというわけである。「ピーター・ドゥ(Peter Do)」2021AWコレクションは、控えめなエレガンスを演出したデザインに該当する。

そして最後の三つ目は、一旦「アグリー(agly:醜い」)」と称することにしよう。アグリーについては僕は何度も述べてきたが、これもデムナ・ヴァザリアの登場以降に表出した現象で、これまでは醜い・カッコ悪い・ダサいといったネガティブな感情を抱かせたモノや美意識にも、実は美しさがあると主張するデザインである。ストリートの勢いは沈静化したが、アグリーに関しては今も毎シーズンしっかりと確認ができる。

「チャールズ・ジェフリー・ラバーボーイ(Charles Jeffrey Loverboy)」は奇想で鮮烈なコレクションを発表しており、色彩とイギリス伝統の服が混合したコレクションがデザインされている。ただ、ウォルター・ヴァン・ベイレンドンク(Walter Van Beirendonck)など以前の世代と違うのは、奇抜さをリアルなフォルムの中で表現している点にある。服のフォルム自体はシンプルで、スタイリング次第では日常的に着られるアイテムも多数あり、リアルな服に仕上げてきている。

「アートスクール(Art School)」は、ホラーという人間が恐怖を抱く感情をテーマにしたようなコレクションを発表し、ランウェイに登場するモデルたちはまるで深夜の墓地から蘇り、黒やシルバーのシンプルな服を、メンズ・ウィメンズというジェンダーのカテゴリーなど気にすることなく自由に着る人物像を描く。

このように、アグリーは一見すると奇抜で好き嫌いが分かれる極端なデザインが多く、エレガンスやクリーンといった形容からはほど遠いデザインになっている。だが、そこには強烈なパワーがあり、「美しさ」とは別の感覚で人々を惹きつけている。

他にも注目のデザイン現象はあるが、大別すると以上の三つが現在のモードに見られる潮流である。しかし、各デザインの影響力はストリートには遠く及ばず、いくつかの特徴的デザインが文脈上に並行して存在しているのが今のモードであり、一つのデザインが時代をリードしていく状況とは真逆の状況だと言えよう。ファッションが大きく変化する時、人々の暮らし方に大きな変化が現れる。確かに今は、新型コロナウィルスの影響を強く受けて人々の暮らし方は激変し、ファッションが変化するための条件は揃い、実際に変化も起きている。けれど、繰り返し述べるが、デザインに変化は起きてもビッグトレンドとはなっていない。

それはなぜか。

次回はこの問いに対する僕なりの答えを述べていき、今後のファッションについて考えていきたい。今思うのは、しばらくストリートのようなビッグトレンドは現れないのではないか、ということである。しばらくというのは「いつまでか?」となるが、それは新型コロナウィルスが収束する時までではないかというのが、僕の予測である。そのことについても次回は述べたいと思う。

〈続〉

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