カイダン エディションズを分析する

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AFFECTUS No.323

映画、音楽、小説、漫画などで、自分が「これは良い」と思ったものが、他の人に共感してもらえない体験を、誰もがきっと一度は味わう。「え、どこがいいの?」と言われた日には、なぜ理解してもらえないのだと憤りを覚える。そんな体験をした人は、きっといるに違いない。

コレクションシーズンが訪れると、僕はTwitterで注目のコレクションを紹介しているが、自分では良いと思っても反応が芳しくないブランドがある。その代表がベルリンの「GmbH(ゲーエムベーハー)」だった。僕が不定期にインタビュー記事を連載するメディア「トキオン(TOKION)」で、コレクションについて書く記事の企画が出た際、編集者に「いつもTwitterで反応が悪いから、その魅力を書きたい」と伝え、実際に記事として実現するほどに僕はGmbHに面白さを感じている。ちなみに今年1月に発表されたGmbHの、2022AWシーズンのコレクションツイートも安定の反応の悪さだった。

だが、自分が良いと思ったコレクションが、他の人に共感してもらえないことは珍しいことではない。GmbH以外にも、反応が芳しくないブランドがある。「カイダン エディションズ(Kwaidan Editions)」もその一つになる。そこで今回は、カイダン エディションズのデザインについてその価値と意味を語っていくのではなく、なぜTwitterのフォロワーからの共感が少ないのかを推測して書いてみたいと思う。いつもとは違うアプローチのテキストになるが、最後までお付き合いいただきたい。

カイダン エディションズの反応の悪さについて、実は以前から一つ思い当たる理由があった。僕がAFFECTUSの活動を2016年から始めて約6年、かなりの数のコレクションについて書いてきて、そのテキストがどう反応されるのかを体験してきた。

とりわけ、Twitterではどのようなデザインに反応が大きくなるのかををおおよそ把握していて、これはインプレッションが伸びるだろうというコレクションはだいたい伸びる。もちろん、毎回のその予想は当たるわけではないが、確率は高いと思う。逆に、デザインを僕自身が良いと思っても、おそらくTwitterで反応が芳しくないだろうなと予想したコレクションは、伸びないことが多い。もちろん、これも必ずではないが。

これまでの経験から考えたとき、カイダン エディションズがTwitterで反応が悪い理由は、「デザインの地味さ」ではないかと感じる。これはデザインの良い悪いの話ではなくデザインの特徴の話になる点は、ご注意いただきたい。

では反応が大きいコレクションと比較したとき、カイダン エディションズのどこに地味さを感じるかというと、第一にフォルムが挙げられる。カイダン エディションズのフォルムは、とてもシンプルだ。それは1月に発表された最新2022AWコレクションにも見て取れる。

カイダン エディションズのフォルムは基本的にスレンダーかつシンプルで、スマートな雰囲気を表現している。身体に張り付くほどの細さではないが、緩やかに滑らかにモデルたちの身体を美しく布が覆う。ジャケットやコートは幅広のショルダーラインがデザインされているが、アイテムの多くがスレンダーなフォルムで仕立てられている。

オーバーサイズが主流となっている現代ファッションの中で、Twitterで反応が大きくなるコレクションの多くもオーバーサイズシルエットである。今のトレンドとTwitterのフォロワーに好まれるデザインを鑑みた時に、カイダン エディションズのフォルムデザインはミスマッチを起こしているように思う。

では、スレンダーでシンプルなフォルムデザインのコレクションが、Twitter上で必ずしも反応が悪いのかと言うとそうでもない。代表例では「A.P.C(アーペーセー)」があげられる。ただ、A.P.Cとカイダン エディションズには違いがあり、それは装飾性だ。A.P.Cはプリントや柄の使用頻度が少なく、装飾性はとても小さい。翻ってカイダン エディションズは、ブランド名が示す通り、奇妙で怪しげなプリントが使われることがあり、コレクションをただのエレガンスに着地させない試みが行われている。

ここが僕がカイダン エディションズの面白いところだと思っているのだが、この特徴がTwitterでの反応悪さを生む要因に思える。実に残念だ。

装飾性を極力抑え、フォルム勝負でTwitterで反応が大きくなるコレクションの代表例で言うと「マーガレット・ハウエル(Margaret Howell)」「ザ・ロウ(The Row)」があげられる。両ブランドがプリントを使うことは稀で、無地の生地でシンプルに仕立てた服が特徴だ。ただし、シルエットはオーバーサイズ、もしくはオーバーサイズほど大きくはないが緩やかなシルエットが特徴であり、スレンダーシルエットが主なカイダン エディションズとは異なる。

しかし、スレンダーシルエットかつ装飾性が控えられたフォルムデザインでも、反応が伸びるブランドはある。それが「ピーター・ドゥ( Peter  Do)」だ。なぜだろう。僕の考えでは、ピーター・ドゥのフォルムはモードなカッティングが施され、スレンダーながらもデザイン性の強いコレクションに仕上がっている。つまり装飾性の持つデザイン性の強さが、プリントや色構成ではなくカッティングに置き換わってデザインされているということである。

今、僕のTwitterのフォロワーから反応が大きくなるブランドは「ジル・サンダー(Jil Snader)」「OAMC(オーエーエムシー)」「ドリス・ヴァン・ノッテン(Dries Van Noten)」があげられる。いずれもオーバーサイズシルエットで、グラフィカルなデザインも挟み込んでいる。

先ほどから述べている通り、カイダン エディションズにもプリントを使ったグラフィカルなデザインはあるが、ジル・サンダーやOAMCとの違いはプリントのテイストだろう。カイダン エディションズが奇怪だとすれば、ジル・サンダーは上品、OAMCはクールと言ったところか。ドリス・ヴァン・ノッテンはクラシカルな美しさのプリントを披露するが、時折奇妙なプリントデザインを発表する。だが、ドリスのフォルムはオーバーサイズが多く、シルエットにおいてトレンドとの合致が見られる。

このように、現在のTwitterのフォロワーに好まれるデザイントレンドから、さまざまな要素において微妙に外れてしまっている点が、「デザインの地味さ」という印象に繋がり、カイダン エディションズのコレクションが僕の体感とは違う結果になる理由ではないかと推測する。これはあくまで推測であり、違う理由も考えられるかもしれないが、僕なりの分析では以上の結果になる。

これはあくまで僕のTiwitterのフォロワーからの反応という、かなり限定された範囲での推測になるので、実際の世界のマーケットでの反応とは違って当然と言っておきたい。カイダン エディションズは、世界の多くのセレクトショップで取り扱われているブランドなのだから。

一つ思うのは、世の中の大きな流れとの合流が見られるか否かは、ファッションにおいて重要なポイントだ。トレンド(単なる流行ではなく、デザイン文脈的意味でのトレンド)の大きな流れを無視すると、たちまちに時代から取り残される。僕はファッションデザイナーに欠かせないテクニックの一つが、デザイン文脈の解釈力だと感じる。好きな服を作っていても、デザインの文脈から外れてしまえば時代から取り残された服になってしまう。

そうは言いつつ、このAFFECTUSではデザイン文脈の主流から外れようとも、僕が面白いと思ったデザイナー、コレクション、アイテムを書いていきたい。とことん主観で攻めようと思う。同時に、文脈的観点から面白いと思ったデザインも混ぜて書きたい。だから、僕はこれからもカイダン エディションズのコレクションが面白いと思った時には、積極的に書いていく。そのためにも、カイダン エディションズの魅力がより分かりやすく面白く伝わる表現を、僕が実現させねばならない。

〈了〉

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