昭和と1990年代とベドウィン&ザ・ハートブレイカーズ

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AFFECTUS No.338

僕はストリートカルチャーには無縁な人間で、どっぷりと浸かった経験はない。だが、ファッションとして見た時、僕はストリートウェアがとても好きだ。最近はコンセプチュアルなデザインよりも、デザイナーが自身のカルチャーを投影させた私小説的ファッションに惹かれてしまう。全てのストリートウェアがそうではないだろうが、デザイナーが自分の生まれ育った背景を服に注ぎ込むコレクションはリアルで、個性が凝縮して表現されている。一見すると普通のシャツに見える。だけど、なぜか目が離せない。そんな服が生まれているのだ。

特にシンプルにデザインされたストリートウェアが最も好きで、クラシックな服にはないルーズさと、プリントが過剰に使われたビッグシルエットの服にはないクリーンさの混合が、堅苦しさはないのに知的な雰囲気さえも匂わせて、とても好きだ。

渡辺真史の「ベドウィン&ザ・ハートブレイカーズ(Bedwin & The Heartbreakers)」(以下、ベドウィン)は、普遍のカジュアルウェアにシンプルなデザインで繊細さと上品さを加え、派手に飾り立てることはしない。それがエレガンス漂うストリートウェアを生み出していた。

ワークパンツの王道「ディッキーズ(Dickies)」の874を基盤にデザインされたパンツは、腰回りの緩やかな膨らみが美しく、ストリートのエレガンスが上質に輝き、とりわけ色にグレーが用いられた1本は、ウール素材で仕立てたトラウザーズと同類の渋さが備わっている。

ベドウィンはユーモアも織り交ぜる。

2022SSコレクションで目を引いたアイテムがプリントTシャツだった。イラストレーターのYU NAGABAによるシンプルなラインな線画で描かれた人物像は、番組の終わりを「サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ」で締める某映画評論家の姿だった。あの有名な1シーン(覚えている人はいるだろうか?若い人は知らないかもしれないが……)を想像させるプリントが、Tシャツのフロント中央を大胆に飾っている。Tシャツのバックに目を移せば、名セリフが「SAYONARA 」とローマ字で縦に3段並び、プリントされていた。

シリアスな服ばかりでは疲れを感じるようになってしまった僕は、このベドウィンのTシャツ(色は白で)を、先ほどのディッキーズ874をベースにしたグレーのパンツと合わせて着たくなった。もちろん足元はスニーカーで、できるだけシンプルなデザイン、色はグレーか白がいい。

夏に着たくなるアイテムの一つがオープンカラーの半袖シャツなのだが、なぜか昭和の香りが感じてしまい、昭和生まれの僕にはそれが懐かしく感じられて今はとても魅力的なアイテムになっている。そしてベドウィンの2022SSコレクションには、オープンカラーの半袖シャツがあったのだ。

シャツの裾が水平にカットされている点も見事だ。昭和の匂いが加速していく。色はミント、ピンク、ブラック、バーガンディの4色で展開され、いずれの色もやや褪せた色味で古臭さがほんのりと匂うのがいい。真新しさを感じない服に袖を通す感覚の気持ちよさが、僕は基本的に好きだった。洗い晒しのシャツを皺くちゃのままTシャツの上から羽織る。それだけでシャツは十分にカッコいい。オープンカラーシャツは僕の中ではボーリングシャツのイメージが強く、それが余計に昭和のテイストを強めて惹きつける。

ベドウィンから感じるもう一つの特徴が1990年代だ。それは服からではなくビジュアルから感じられた。現代のファッションはビッグシルエットが主流だが、90年代はスリムなシルエットやミニスカート、肌を色っぽく見せるスタイルが若者たちの中で多く見られ、甘さと繊細さと色っぽさが一緒に同居したファッションが時代の顔だった(甘さと色っぽさは同じでは?という指摘がありそうだが微妙に違う感覚)。

2022SSコレクションのビジュアルはフィルムで撮影したように画像は少しぼやけ、それが美しく甘く、若者たちの繊細な心情が写真に現れたかのようだ。

ファッションは時代の最先端を表現する。しかし、とびっきりの新しさばかりが魅力とは限らない。過去のファッションが今表現されることで、心を打つことがある。ベドウィンには懐かしき時代の香りを、ストリートウェアに乗せてシンプルにデザインするという、僕が心惹かれる要素が3重層となって作られていた。

ストリートは今や普遍のスタイルとなった。世界中を席巻したストリートウェアだが、日本には「裏原」の歴史があるようにアメリカともヨーロッパとも違う個性がある。ベドウィンにはストリート第3の文脈を示す個性が確立されている。でも、文脈的観点よりも僕を惹きつけたのは、デザイナーの渡辺真史が愛してきたカルチャーをコレクションに投影させていたことだった。

「ああ、この人は自分を表現しているんだなあ」

そんなことが自然に感じられたのだ。

ファッションは人間をつくる。ベドウィンは服作りの原点を思い出させた。

〈了〉

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