シオフィリオが見せる多重層ワールド

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AFFECTUS No.374

今回ピックアップしたブランドをご存知の方は、かなり少ないのではないだろうか。そういう私も最近知ったばかりなのだが。ブランドサイトで確認する限り、どうやら日本のセレクトショップでは取り扱われておらず、私の調べた範囲になるが日本のメディアでこのブランドにフォーカスした記事も見当たらない。このように、日本国内における知名度はまだまだではあるが、「シオフィリオ(Theophilio)」は独特の感性が宿るカリビアンミニマルウェアを発表している。

2016年、デザイナーのエドヴィン・トンプソン(Edvin Thompson)は自身のブランドであるシオフィリオを設立する。ジャマイカ系アメリカ人のトンプソンは、アメリカのブルックリンを拠点に活動しており、2021年にはCFDA(アメリカファッション協議会)が主催するファッションアワードでAmerican Emerging Designer of the Yearを受賞し、注目度が高まっているデザイナーである。

シオフィリオのデザインについて紐解いていこう。コレクションはメンズとウィメンズの両ラインをショーで同時発表しているが、ジェンダーレスデザインの側面はあまりないように感じる。メンズ、ウィメンズそれぞれの服が持つ伝統の魅力にフォーカスし、デザインされているように見えた。

たとえば2023SSコレクションを例に取ると、ウィメンズラインではスカートやワンピースが何度も発表されているが、メンズラインで男性モデルがスカートやワンピースは着用しておらず、一貫してパンツをボトムにしたメンズルックが登場していた。素材にメッシュが使われたトップスが、肌を透かすメンズルックはセクシーではあるが、それはジェンダーレスデザインとは異なるだろう。シオフィリオはジェンダーレスデザインの観点から見た時、文脈的に面白いデザインを発表しているわけではなかった。

では私がシオフィリオの何に面白さを感じたのかというと、冒頭でも形容した「カリビアンミニマルウェア」というフレーズを思い浮かべた点にある。実際にシオフィリオのコレクションを見ると、カリブ海のジャマイカにルーツを持つトンプソンらしい、乾いたトーンのカラフルな色彩や柄を用いている。そういったカリブワールドを感じる一方で、乾いたトーンは維持したまま単一の色でデザインされたルックも同時発表されており、それらのルックに私はミニマルデザインの魅力を感じた。

スタイリングに使われているアイテムも、シャツ、ジャケット、ミニスカート、パンツと都会的モダンアイテムが登場し、シルエットは流麗なラインを描き、洗練さも感じられた。とは言っても、シルエットがスレンダーかつスマートというわけではない。ジャケットはオーバーサイズシルエット、パンツはベルボトムシルエットに近い形を作り、ワンピースはスリットが深かったり、片足を晒したセクシーなカッティングも多く見られ、それらのデザインから感じたのはやはりカリブ的イメージだった。

私がシオフィリオに感じた魅力は、アーバンなニューヨークスタイルと中南米的な色やシルエットの融合にあった。また、色や柄使いはヒッピーな1970年代的イメージも混じり、スタイルが国境と時代を超えて混じり合うデザインが、シオフィリオに価値を生み出している。

シオフィリオはテーラードジャケットが、コレクションで何度も登場している。たとえば、シオフィリオの乾いたトーンの色彩と特徴が似ているアフリカ発のブランドで、中でもシオフィリオと同様にテーラードジャケットが特徴的なブランドと言えば、2019年「LVMH PRIZE」グランプリの「テベ・マググ(Thebe Magugu)」があげられる。

マググは色彩の鮮やかさがシオフィリオよりも強く感じ、ディテールの点でもマググはアフリカの民族衣装を思わせるデザインが登場して、シオフィリオよりもデザイナーのルーツへの結びつきが強いデザインに思える。

その理由にブランドの活動拠点や、デザイナーの国籍の違いもあるのではないか。マググは現在も南アフリカを拠点に活動しているが、シオフィリオのデザイナーであるトンプソンはアメリカ人であり、活動拠点はブルックリンだ。また、シオフィリオにはストリートウェアのテイストも混じっている。

色彩やテーラードを多用する点で類似点があり、デザインの文脈的には同じ文脈に位置する両ブランドだが、マググが「アフリカ×テーラード」なのに対し、シオフィリオは「カリブ×テーラード×アーバン×ストリート×1970年代」と多重層デザインが展開されている。この重層性が、シオフィリオのデザインに文脈的価値を立ち上げている要因だと考えられる。

世界は広い。小さなブランドでも可能性を秘めたブランドが存在する。インディペンデントで小さなブランドが、世界を駆け上がるシーンを見るのが、私にとってモードの醍醐味の一つになっている。毎シーズン数多くのブランドがデビューする中、生き残っていくブランドは非常に限られている。この過酷なモードシーンを、シオフィリオがどう成長していくのか。それを私は見てみたい。

〈了〉

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