ヴァレンティノが、ジェンダーレスを終わらせない

AFFECTUS No.420

ジェンダーレスの浸透以降、ショー形式でメンズ・ウィメンズを同時発表するブランドは増加した。女性モデルがメンズウェアのアイテムを、男性モデルがウィメンズウェアのアイテムを着用してランウェイに登場することも、当たり前の風景になりつつある。ピエールパオロ・ピッチョーリ(Pierpaolo Piccioli)がクリエイティブ・ディレクターを務める「ヴァレンティノ(Valentino)」も2023AWコレクションで同様のアプローチを見せる。男性モデルと女性モデルの双方が、ミニレングスのボトムを穿いてランウェイを歩く姿は、浸透したとはずのジェンダーレスデザインのさらに先の可能性を示す。

メンズとウィメンズで共通のデザインを発表すること自体は珍しくないが、今回のヴァレンティノは、ミニレングスの発表数が多い。厳密に言うと、同じアイテムを発表しているわけではなく、ウィメンズはミニスカートとミニドレス、メンズはショーツとミニスカートをメインに発表している。ただし、股下が非常に短いため、ショーツであってもスカートに見えるほどで、発表されたミニのボトムすべてがスカートに感じられた。

2023AWコレクションのヴァレンティノは、ブランド得意のドレス要素を高めるデザインを発表し、ブラックとホワイトのモノトーンカラーによるテーラードが主役となり、メンズ・ウィメンズ共にネクタイスタイルが頻繁に登場する。上半身は黒いネクタイ・白いシャツ・黒いジャケットという王道のクラシックスタイルだが、ボトムに目を移すとスーパーミニレングスの黒いスカートや黒いショーツを穿くルックが多数登場する。

脚は大胆に肌を晒しているが、その他の箇所で積極的に肌を見せていない。それにも関わらず、セクシーなイメージを受けるのはなぜか?

その理由は肌の見せ方にあった。やみくもに肌を見せる面積を増やすのではなく、肌を見せるポイントを一箇所(ヴァレンティノは脚)に絞る。そこでは肌を大胆に晒し、その他の箇所は服で覆い隠す。そうすることで、ミステリアスな空気を纏う色気が誕生した。

また、ヴァレンティノはブラック&ホワイトのテーラードという、禁欲的な印象のアイテムがメインになっているため、大胆に晒された脚の存在感がいっそう強調され、セクシー&ドレッシーという極上のスタイルを完成させている。

今回、ヴァレンティノが発表したミニレングスのボトムを総称して「スーパーミニスカート」と呼ぶことにする。スカートは不思議な効果を持ったアイテムだ。スカートを穿くだけで、性別に関係なく高貴なエレガンスが立ち上がる。ヴァレンティノのように、色をブラックとホワイトに絞り、ネクタイスタイルと組み合わせればエレガンス濃度がさらに濃くなる。また、レングスがスーパーミニとなることで、都会的雰囲気のクールも加味されていく。

スーパーミニ&ネクタイスタイルを繰り返して見ていると、ウィメンズであるとか、メンズであるとか、性別に対する意識が薄れていき、ファッションそのものの美しさだけを見つめている気分になってきた。コレクションでは、ウィメンズの象徴的アイテムであるドレスも数多く発表されていたが、今回に限って言えば私にはドレスがノイズに感じられてしまった。それぐらい、スーパーミニの存在感が際立っていたのだ。

ドレスの発表を控えてテーラードだけに絞り、コレクションを発表して欲しかった。そうすれば、ヴァレンティノの2023AWコレクションは、その独自性と個性をさらに際立たせ、テーラードという伝統のファッションを用いているにも関わらず、コンセプチュアルなデザインにも到達しただろう。

だが、コンセプチュアルはヴァレンティノの目指すところではないし、ヴァレンティノの顧客に提案するものでもない。イタリアンエレガンスが魅力のヴァレンティノにとって、注目度の高いランウェイでドレスを発表することは、ビジネス的に非常に重要なことだ。ヴァレンティノでコンセプチュアルなデザインが見たいというのは、単なる私のわがままにすぎない。

ジェンダーレスが浸透した今、「女性らしさ」「男性らしさ」について語ることは間違っているかもしれない。しかし、女性と男性には体型に明確な違いがあるように、やはりそれぞれの性別が持つ固有の魅力はあるはずだ。ジェンダーレスファッションが当たり前になった今だからこそ、改めて女性にしか表現できないエレガンス、男性にしか表現ないエレガンスを磨き上げることで、さらに新しいファッションが生まれるのではないか。

最近はそんなことを考えていたのが、ヴァレンティノのスーパーミニ&テーラードを見ていると、性別の境界を超えたファッションのエレガンスは、まだまだ探求する領域があるように思えた。もっともっと驚くべき新しいファッションが、境界が曖昧になったと思えた性別の狭間の、奥底にはまだ眠っているのかもしれない。ピエールパオロ・ピッチョーリは、ジェンダーレスファッションの秘めた可能性を示した。

〈了〉