AFFECTUS No.482
近年、コペンハーゲンは新たなファッション発信地として注目が高まっている。この「AFFECTUS(アフェクトゥス)」でも、2023年2月8日配信「コペンハーゲンから時代を変えるブランドは誕生するか」で取り上げ、個別に「サンフラワー(Sunflower)」や「エリオット エミル(Heliot Emil)」といったブランドについて書いてきたが、現在コペンハーゲンで注目されるブランドは2010年代に設立されたブランドが多い。
だが、デンマークの首都がファッション的に注目される以前から活動してきたブランドも、もちろん存在する。そんなブランドの一つ、2004年に設立された「ウォン ハンドレッド(Won Hundred)」が今回のテーマになる。デザイナーの名はニコライ・ニールセン(Nikolaj Nielsen)。デニムを得意領域とし、サステナビリティに対しても積極的に取り組む、デンマークを代表するファッションブランドだ。
コレクションに目を向けると、ウォン ハンドレッドがデニムに限定されたブランドではないことが如実にわかる。リアルとモードを絶妙なバランスで融合した、見事なデザインなのだ。ウィメンズとメンズの双方を展開しており、両ラインともカジュアルをベースにしたデザイン。厳密に言えば、ウィメンズはドレス要素の成分がやや高く、メンズの方がよりカジュアルだと言える。
ウィメンズは色褪せたインディゴが美しいジーンズ、裾がドローストリング仕様のペイントジーンズと、得意のデニムにキレとアイデアを見せている。ジーンズのシルエットは緩やかなストレートが多く、非常に端正な印象。他にもボンバージャケット、ポロシャツ型のニットトップス、カーディガン、タンクトップと、カジュアルアイテムの代表作が確認でき、スタイリングもジーンズを中心にしたパンツが主役のスタイルだ。
ただし、ウォン ハンドレッドのベーシックアイテムは一味違う。たとえばタンクトップは、白い無地のオーガニックコットン製生地で作られ、一見するとシンプル。ただし、アームホールのカッティングが、通常のタンクトップより深くえぐられ、肌を見せる面積が広い。一方でネック部分のくりは浅く、首元が狭く感じる。アームホールとネックのカッティングに対比を起こすことで、胸元が強調され、逞しさが増している。
レースを使用したトップスは、腹部のおへそが見えるほどのショート丈で、全体のシルエットもスリムだ。肩から袖にかけては、ナイロン混紡のストラップが連続して取り付けられ、スポーティな形にドレッシーな要素を加えていた。
リサイクルポリエステル製のシースルートップスも、形そのものはベーシックで細身のラインで作られている。シンプルな形状のアイテムに変化を加えるのは色の表現。襟元から裾に向かって青からオレンジへとグラデーションを起こし、スプレーで吹きかけたような染色の表情だ。同様の染色技法は、オープンカラーのハーフスリーブシャツにも使用され、シャツでありながらドレス的存在感を放つ。ボンバージャケットも、ウォン ハンドレッドらしさが覗く。無骨なアイテムに使用した色は朱色で、鮮烈な色彩が華やかなドレスに負けない輝きを見せた。
一方メンズラインだが、ウィメンズと同じ素材と同じアイテムが展開されているが、印象はウィメンズよりも若干ワイルドだった。ウィメンズのトップスで使用されたレースは、メンズではルーズシルエットの長袖シャツに使われ、スタイリングもフロントボタンを留めずジャケットのように着こなし、ラフな雰囲気を醸す。
ウィメンズで登場したボンバージャケットは、メンズでもデザイン自体は変わらない。しかし、スタイリングが異なっていた。ウィメンズはややワイドシルエットのパンツを合わせていたが、裾のサイドシーム部分にストラップ使いの仕様でドレッシーな表情。メンズでスタイリングされたパンツは、ウィメンズの端正な印象とは違い、ルーズなワイドパンツで装飾的なディテールは見られず、あっさり仕上げられている。そのため、ウィメンズよりワイルドな印象を受けた。
タンクトップにしても、メンズはウィメンズよりアームホールが浅く、ネックラインの深さは普通でシルエットはゆとりのある形。モデルの姿はワンサイズ上のタンクトップを着ているかのようで、やはりウィメンズのタンクトップに比べて野暮ったさが強く滲む。
このように、ウォン ハンドレッドは、同素材同アイテムをウィメンズとメンズの双方で同時展開することが多いために、コレクション全体は「シンプルなカジュアル」という枠の中に収まり統一感がありつつも、ウィメンズとメンズでテイストに違いを作って両ラインの差別化を図っている。
ウォン ハンドレッドで最も注目すべきはイメージだろう。ストリート感を軸にウィメンズではマニッシュな趣、メンズではワイルドな趣と、服はシンプルだが、ソフトでクリーンな北欧デザインの伝統とは距離を置く。デザインもロジカルな香りが漂う。ディテール、シルエット、素材、色使いと、服の構成要素の中で、どこをベーシックに仕上げ、どこをアグレッシブに仕上げるか、入念に計算し、街中で着たいと思わせるリアリティと、普通にはない服を望む人々のためのモード感を、どちらかの方向性に振れすぎることなく一体化させている。秀逸なバランスは、まさに20年近いキャリアがなせる技術だと言える。
世の中では、新しさ=若さと捉えられがちだ。しかし、新しさを発信する場所には熟年のキャリアで新しさを創造する才能が存在する。もちろん、年齢に捉われず才能と実力をジャッジすることは、すでに社会で行われていることだが、ウォン ハンドレッドのボンバージャケットやボトムを見ていると、エイジレスという考え方を改めて大切したいという思いに駆られた。
熟練の技術と洗練されたセンスで、瀟洒なファッションを発表するウォン ハンドレッド。コペンハーゲンには、まだまだ奥深い魅力が潜む。
〈了〉