リトコフスカが、ウクライナから女性のカッコよさを発信する

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AFFECTUS No.485

モードファッションの中心地といえばパリ、ミラノ、ロンドン、ニューヨークといった都市が一般的だが、各ファッションウィークに参加するデザイナーの出身地は様々だ。アウトサイダー的役割として、モードの中心から遠く離れた場所で新しい才能が数多く誕生し、東京とアントワープが文脈的に大きな役割を担ってきたことは歴史が示す通りであり、近年はソウルやコペンハーゲンから興味深いブランドが次々とデビューしている。

今回はウクライナ発のウィメンズブランドを紹介しよう。ブランドの名は「リトコフスカ(Litkovska)」。設立は2009年と、現時点で14年のキャリアを持つ。私がリトコフスキを知ったのは2024SSシーズンと直近だった。「NOWFASHION」ではピックアップされているが、「Vogue Runway」では取り上げられておらず、ブランドの知名度は低いのかもしれない。だが、私は2024SSコレクションを一目見るなり、惹きつけられていく。マニッシュな服をマニッシュに崩したウィメンズウェアは、カッコいいと形容するほかない。

リトコフスカに甘さは皆無。ピンク、レース、フリルといったフェミニン要素はまったく登場せず、テーラードジャケットをスタイルの中心に据え、色はグレー・ブラック・ベージュ・オフホワイトなど、ベーシックカラーが主役。2024SSコレクションで発表されたスカートは、ミニスカートが1型発表されただけで、ほとんどのスカートが膝丈でコンサバティブ。だが、スカートの佇まいに古臭さはない。シャープなカッティングとシックな色使いで、モデルたちの姿はどこまでもクール。

ブランドの象徴であるテーラードジャケットは肩幅が広く、シルエットはオーバーサイズで、紳士服と呼びたくなるムードのジャケットだった。パンツはほとんどがワイドシルエットに仕立てられ、マキシ丈が多いドレスはクラシック成分が高い。

リトコフスカのコレクションは一見するとクールな印象を強い。だが、ニューヨークモードのような痺れるキレがあるわけではない。同系統のデザインに属する「ピーター ドゥ(Peter Do)」や「プロエンザ スクーラー(Proenza Schouler)」といったニューヨークブランドに比べると、リトコフスカはコンサバが強く、パリのクラシックとニューヨークのモダンの狭間に位置するスタイルと言える。私が思い浮かべたのは、マルタン・マルジェラ(Martin Margiela)本人が手掛けていた「メゾン マルタン マルジェラ(Maison Martin Margiela)」だったが、マルジェラよりも都会的テイストが強いファッションだ。

アイテムはオーソドックスな形が多い一方で、挑戦的パターンの造形も頻繁に登場する。白いシャツは、裾が捻れながら左右の両身頃と繋がったフォルムを形づくる。シャイニーな光沢のテーラードジャケットは、袖が肩先から上腕にかけて膨らみが立体的に作られ、変形のマトンスリーブと言える仕上がりだ。特徴的なスリーブデザインは、他のテーラードジャケットにも使用され、幾度も2024SSコレクション内で登場していた。テーラードジャケットに関していえば、他にも挑戦的パターンのデザインが見られ、ラペルが身頃から外れてネックレス的形状を示すタイプも現れていた。

クラシックやコンサバを感じさせ、ボディラインの表現に工夫を織り交ぜて、凛々しい女性像に着地させたウィメンズウェア。それがリトコフスカだった。

失礼ながら、ウクライナにこのように刺激的なブランドがあるとは思わなかった。ファッションというのは、思わぬ場所から思わぬ才能が登場するから面白い。幅広い地域から才能を発掘する審美眼を持つプロフェッショナルが、ファッション界には多い。一方で、「どの学校を卒業しているのか?」「どのブランドで経験を積んでいるのか?」といったキャリアを、重視して見られる傾向もあるのがファッション界だ。

私自身、デザイナーの出身校や出身ブランドに触れることはあるが、極力触れないことを意識している。その理由は、服を一番見てもらいたいからだ。コレクションの魅力と価値を言葉にして、伝えたい。ブランドの本質を伝えるなら、やはりコレクション=服について書くことが一番効果があると考えている。コレクションそのものに意識を集中することで、想像もしない場所から想像もしないブランドやデザイナーを発見できる。そのことを、私はファッション界の先達から学んだ。

すべては服が面白いかどうか。リトコフスカには面白さがあった。ウクライナから発信されるカッコよさに痺れる。シックなグレーのジャケットを着た女性たちが、モードの舞台を闊歩していく。

〈了〉

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