ドリス・ヴァン・ノッテンはモードの真髄を表す

AFFECTUS No.373

自ら創業したブランドを去るという、誰もが驚いたドリス・ヴァン・ノッテン(Dries Van Noten)退任のニュース。彼のラストコレクションは、いったいどのようなものになるのか。6月22日、「ドリス ヴァン ノッテン」2025SSメンズコレクションがついにパリで発表された。ラストショーは、メンズファッションウィークの期間中に発表されたが、ウィメンズラインとの合同発表だった。

最初に登場したのは、ドリスの本質がクラシックであることを物語るロングコート。ピークドラペルのダブルブレステッドコートは黒い生地が使用され、着丈は足首に到達しそうなほどに長く、髭をたくわえた白髪の男性モデルはシックなアウターを端正に着こなし、クラシックファッションの美を堂々と纏う。

このまま伝統スタイルの発表が続くのかと思いきや、その予想は裏切られていく。ドリスは最後のコレクションを、アーカイブとしては発表しない。常に新しさを追い求めるモードな姿勢を貫くのだった。

ファーストルックが証明するとおり、「ドリス ヴァン ノッテン」といえばクラシックだ。2017年公開(日本では2018年)のドキュメンタリー映画『ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男』で、ドリスは「自分のベースは“クラシックな服”だ」と語っており、彼が発表する服はいつだって静謐なエレガンスを作り上げてきた。

クラシックの特徴は色と素材の重厚感にある。しかし、伝統のファッションが持つ魅力は、気温が上昇する春夏シーズンには重々しくなってしまう。そこで、ドリスは春夏シーズンならではのクラシックを発表する。鍵となったのはオーガンジーを代表とする薄手の透明素材だ。透け感が特徴のテキスタイルを、ドリスはパンツ・トップス・コートなど様々なアイテムに展開し、他のアイテムとのレイヤードでクラシックの重厚さを軽減していくのだった。

ブラウンの生地に黒いチョークストライプが走るジャケットは、ファーストルックと同様にクラシック。だが、ボトムに目を移すと、そこに現れていたのは大胆な実験性。男性モデルはショーツを穿いていた。しかし、ボトムのスタイリングはそれだけでは終わらない。ショートレングスのボトムの上から、肌を透かすオーガンジー製のパンツをレイヤードしていたのだ。

一方、女性モデルはダブルのピークドラペルジャケットの上から、淡いグリーンの薄手生地で作られたクルーネックのトップスを重ね着し、アンバランスなスタイリングと爽やかさをミックス。また、別の男性モデルはベロア素材のロングカーディンを羽織り、再びショーツの上からオーガンジーパンツをレイヤードするスタイリングを披露し、濃厚な色気と軽やかな涼しさのコントラストを描く。自身の本質であるクラシックを、ドリスは新しい解釈を加えて2025年の春夏を演出した。

そしてドリスのデザインといえば、もう一つ忘れてはならない要素がある。それはボタニカルなプリントだ。植物の生命を雄々しく表現するプリントテキスタイルは、これまでドリスのコレクションに唯一無二の個性を生み出してきた。しかし、近年のドリスはプリントの使用を控えていたのだ。その傾向は2024SSメンズコレクションや2024AWウィメンズコレクションにも現れ、柄の生地は登場するが、その数は非常に少なく、特に花をモチーフにしたフラワープリントは皆無に等しかった。

そのため、今回の2025SSコレクションもプリント生地はほとんど使われないのではないかという予感がした。だが、その予感は杞憂に終わる。コレクションが終盤に差し掛かると、ランウェイには大きな花々が次々と開花していく。

生地にプリントされた草花は一つひとつが大柄で設計され、衣服の表面で力強く咲き誇る。しかも色使いにフェミニンな要素はない。黒地にくすんだピンクの花柄、色褪せたグレー地にくすんだピンクの花柄、黒地に暗く淀んだ色味のグリーンで染まった花柄、色褪せた黒地に暗いトーンの水色に染まった花柄が登場し、フラワープリントではお馴染みの鮮やかで華やかな色使いがまったく見られない。むしろダークと称した方が適切だろう。

しかもダークで大柄のフラワープリントを、シャツやTシャツといった軽量なアイテムではなく、コート・ジャケット・パンツといった重厚なアイテムの生地として使用するのだから、花柄の持つ暗い力強さがいっそう強調される。

しかし、その重厚なムードはまさしくクラシックファッションと呼ぶにふさわしいもの。やはり、ドリスにとってのファッションとはいついかなる時でも、クラシックなのだ。

ブランド「ドリス ヴァン ノッテン」における最後のコレクションで、ファッションデザイナー、ドリス・ヴァン・ノッテンは自身のアイデンティティを貫き通した。やはりモードは、デザイナーの趣向、感性、世界観が色濃く表現された時ほど、圧倒的に面白くパワフルだ。最後のランウェイでドリスが披露してくれたのは、モードの真髄だった。

〈了〉

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