ハダーランプがファッションの歴史的意味を転換させる

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AFFECTUS No.544

現在のモードシーン注目の都市はコペンハーゲンだが、ドイツ首都ベルリンが発進するファッションも観察を怠ってはならない。ブランドの個性とは各ブランドでそれぞれ異なるもの。しかし、都市共通のムードというものが生まれくるから実に不思議だ。コペンハーゲンがクリーンなら、ベルリンはダーク。ドイツ最大の都市で発表されるコレクションには、独特の暗さが漂う。

初期のアントワープ王立芸術アカデミー出身のデザイナーたちも暗さを帯びていたが、ロマンティックな趣があった。当時のアントワープの世界観を最も如実に表していたデザイナーは、アン・ドゥムルメステール(Ann Demeulemeester)だったように思う。

ベルリンモードにも暗さは感じるが、アントワープとは違うタイプだ。それは、地下に生きる人間たちの暗さといったものだ。加えてセクシー成分も高く、艶っぽい色気はアントワープ派にはあまり見られなかったもの。服のデザインもワークウェア要素を感じることが多い。いわゆるストリートというやつだ。ベルリンは、クラブカルチャーの歴史があるため、その影響だろうか。

「ハダーランプ(Haderlump)」は、まさにベルリンワールドを物語るブランドだと言えよう。2025SSシーズンのベルリン・ファッションウィークで、最も興味深いコレクションを発表していた。

コレクションの主役はブラックウェア。色は黒以外には通常の白と、黄色味がかった白、グレーも登場するが、圧倒的に黒が支配する。全体を見ての印象は、ベルリンならではのワークウェア要素が強く、澱み、泥臭さ、暗く色っぽいというものだったが、改めて各ルックを見ていくと、テーラード、ロングレングス、細いウェストなどドレスのディテールが思いのほか組み込まれていたことに気づく。

鮮やかさと華やかさを演出するはずのディテールやシルエットが使われているにも関わらず、「ハダーランプ」のコレクションからその特徴を微塵も感じない要因の一つは、ワイドシルエットにある。

通常ならビッグシルエットもしくはオーバーサイズと呼ぶべきなのかもしれないが、「ハダーランプ」のシルエットは横への強調が多い。コルセットモチーフのルックとウェストを細く見せたルックが幾度か登場するため、肉体を強調するSMウェアのデザインも取り入れており、横も縦も巨大なビッグシルエットにカテゴライズすることには少々抵抗が伴う。また、ライダーズジャケットとボンバージャケット的ブルゾン、ファスナー使いが目立つアイテムも登場することで、ワークウェア要素がしっかりと入り込んでいる。

加えて「ハダーランプ」は、ロゴとグラフィックを使用したデザインは皆無に近く、むしろミニマルに近い。だが、そう思わせて転換させるのが「ハダーランプ」。編み地がほどけて肌が透けるニット、糸が無数にぶら下がり、ベージュの編み地にグリーン系の色が侵食していくミニドレスと、「ハダーランプ」は平面のグラフィックではなく、素材の立体感で装飾性を表現し、ファッション界におけるミニマリズムの文脈から外す。

ドレスを象徴するディテールとシルエットが使われていても、「ハダーランプ」のイメージが煌びやかなエレガンスと正反対だったのは、ベルリンならではのダークなストリートウェアの特徴とミックスされていからだった。服のイメージを転換させる手法は、ファッションデザインにおいて非常に有効なアプローチだ。

最近、思うのはただ好きな服を作るだけでは、消費者の心には響かないのではないかということ。デザイナーが体験してきたカルチャーを徹底的に表現する服にはパワーがあり、心を揺さぶるものがある。一方で、様々なファッションに付随しているイメージ=歴史的意味を転換させることで、人間の心を揺らす。そんなゲーム的アプローチもある。

真っ白なウェディングドレスには、ピュアや祝福というイメージが歴史的に受け継がれてきた。では、ウェディングレスの歴史的意味をどう崩すか。その崩し方にデザイナーのセンスが発揮されれば、服に個性が生まれ、ブランドに個性が生まれる。

ダークなベルリンファッションを体現する「ハダーランプ」は、ファッションの奥深い魅力と難しさを密かに語ってくれた。モードには知性を問うゲーム的側面がある。

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