クールなMM6 メゾン マルジェラに痺れる

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AFFECTUS No.561

マルタン・マルジェラ(Martin Margiela)のデザインコードを、メインラインである「メゾン マルジェラ(Maison Margiela)」よりも正統に受け継ぐブランド。それが現在の「MM6 メゾン マルジェラ(MM6 Maison Margiela、以下MM6)」だろう。毎シーズン発表されるルックを見ていると、マルジェラが在籍していた時代のアーカイブを現代の視点で再構成した懐かしさを覚える。とりわけ、近年の「MM6」は1990年代のコレクションから着想したであろうルックが数多く発表されている。

パリのマネキンメーカー「ストックマン(Stockman)」のトルソーから発想されたノースリーブジャケットは、ファッション史に残るマルジェラの逸品だが、2025リゾートコレクションでは名作ジャケットのシルエットと色はそのままに、素材をニットに変更したアイテムが発表され、アーカイブの捻り方に面白さを感じさせた。大胆に作り変えるのではなく、少数の要素を少しだけ変更する。それはマルジェラの手法そのものだ。

今の「MM6」には、ただ過去の服を現代に再現しているだけはない魅力がある。常に何かしらの新しさを加えて、最新コレクションを発表している。そのことを改めて実感したのは、9月に発表された2025SSコレクションだ。

このコレクションは他のシーズンと同様に、マルジェラ時代のアーカイブから着想を得たアイテムが発表されていた。オーバーサイズのノースリーブベスト、白いペンキ加工が施されたコートやパンツ、エイズTシャツなど、いずれもマルジェラの代名詞と言えるアイテムばかり。トレンチコートに色褪せたジーンズを組み合わせたスタイル、ジャケットやコートのウェストを細いベルトで縛るアクセントも懐かしきマルジェラの香りを漂わす。

しかし、コレクションのイメージが近年の「MM6」とはかなり違っていた。非常にクールなイメージで、マルジェラが製作したミニマリズムと言えるものだった。またはヘルムート・ラング(Helmut Lang)」が手がけた「メゾン マルタン マルジェラ」とも言えよう。

ラングの作るミニマリズムは、ただのシンプルな服ではない。常に素材やシルエットといった服の要素に実験が行われていた。マルジェラも基本的にはクラシックな服をベースにして、実験性を打ち出してきた。リアリティを重視したモードという共通点が、両者にはある。そして2025SSコレクションには「ミニマルなマルジェラ」という一目で惹かれるイメージがあったのだ。

コレクションではかなり細いシルエットのジーンズが登場し、青い生地が両脚にフィットしている。オーバーサイズがまだまだ人気の現代では珍しいシルエットだ。服の色も白・黒・グレー・ベージュと、ミニマリズム必須のカラーがメイン展開されていた。素材がペイント加工されたり、ジーンズの生地が激しく引き裂かれていたりと、グランジな要素も多いのだが、シルエットの細さとクリーンな色使いがミニマリズムの印象を強めていく。

加えて、モデルたちが大ぶりのサングラスを掛けているために、いっそうシャープ&クールに映る。2025SSコレクションは、マルジェラの伝統とファッション的ミニマリズムが同居した新鮮さがあり、近年の「MM6」では最も印象に残るものだった。

現在の「MM6」を見て、物足りないと感じる人もきっといるだろう。基本的にはアーカイブを基盤にして現代の視点で再構築しているため、本当の意味で新しさがあるわけではないし、かつてのマルジェラほどの驚きを感じることもない。

ただ、マルジェラのデザインには二つの側面がある。一つは服から服を研究し、その研究成果を発表する実験性。そしてもう一つはファッション性だ。マルジェラは「古着タッチのクラシックかつクリーンな服」というマルジェラマーケットを作り出した。この市場で現在世界をリードするブランドといえば、ストックホルムを拠点に活動し、世界的に人気を飛躍的に高めている「アワーレガシー(Our Regacy)」になる。

「MM6」と「アワーレガシー」、一見するとファッション性では同じカテゴリーに思われるだろう。だが、詳細に見ていくと両者はやはり異なるデザインだ。「アワーレガシー」の服は「MM6」よりも洗練されており、都会的なファッション性が強い。一方、「MM6」は生地の色味と質感に長い歳月を経た使用感が滲み、退廃的なムードが匂う。かつてポペリズム(貧困者風)と評された歴史を持つマルジェラにとって、必要以上の洗練はブランドのDNAを破壊する。そしてその朽ちた空気感と冷たい質感こそ、他のマルジェラマーケットのブランドと「MM6」を分ける要因だ。

「MM6」はマルジェラ文脈で語らずとも、魅力的なブランド。「着たい」「欲しい」という刺激を呼び起こすブランド。色褪せたジーンズが、クローゼットの充実を約束する。

〈了〉

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