AFFECTUS No.593
スターデザイナーが発表する服に一喜一憂するのも楽しいが、ブランド名もデザイナーの背景も知らず、ルックを見た瞬間に「なんだ、この服?」と心を奪われる瞬間もコレクションの醍醐味だ。無名の才能との出会いはいつでも刺激的。そんなブランドのひとつが「アランポール(Alainpaul)」。2025SSシーズン、パリファッションウィークの公式スケジュールでショーを発表し、モノトーンのシンプルウェアに独自の視点を加えている。
デザイナーのアラン・ポール(Alain Paul)は1989年、フランス人の父とデンマーク系ブラジル人の母のもと香港で生まれ、1997年に家族とともにフランスへ移住。1998年にマルセイユ国立高等バレエ学校へ入学し、コンテンポラリーバレエの厳しさと規律を経験する。18歳でダンスの世界を離れ、パリでファッションを学び、卒業後は2014年に「ヴェトモン(Vetements)」へ加わり、2017年まで在籍。その後「ルイ ヴィトン(Louis Vuitton)」でヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)率いるデザインチームで経験を重ね、2023年に夫ルイス・フィリップと「アランポール」を設立した。
3回目のショーとなる2025SSコレクションは、オープニングルックからブランドの特徴が鮮明だ。白と黒のシンプルな配色、クルーネックの白いトップスとスレンダーな黒のロングスカート。一見ミニマルで、ミニマルを突き詰めたようにトップスには袖もアームホールもない。モデルは両腕を服の中に収納し、拘束されたデザインに見える。次のルックでは色が黒に変わり、ボトムはパンツに。しかし、トップスは変わらず拘束シルエットを継続。「アランポール」はベーシックな服では見られない形を披露する。
「シンプルとは何か?」
そんな問いを投げかける服が次々と登場する。2025SSコレクションで印象的なのはショルダーライン。初期の「ヴェトモン」を想起させるパワーショルダーは、アメリカンフットボールのプロテクターも連想させるが、「アランポール」ではコンパクトで洗練されたシルエットに落とし込まれている。
ハーフスリーブのロング&リーンの黒いドレスは、クルーネックの襟元とスレンダーなラインがクラシックなムードを演出しつつ、パッド入りの力強い肩が特徴的。ただし肩幅は抑えられ、ドレスのエレガンスを損なわない。サイドに白いラインの入った黒いトラックスーツは、シルエットが上品で、襟元のギャザーがドレッシーな雰囲気を加えていた。このように「アランポール」の服は、絶妙なバランス感覚が共通している。
カラーパレットは黒・白・グレーを基調に、レッド・ピンク・イエロー・ブルーをアクセントに使用。アイテムはジャケット、カーディガン、パンツ、タイトスカートなどベーシックな構成だ。メンズとウィメンズを展開するが、ウィメンズはよりコンサバティブな仕上がりとなり、デザイン手法もアシンメトリーカット、フリル、ギャザーなど基本的なテクニックを活用している。
「アランポール」は奇抜なアイデアで驚かせるブランドではない。しかし、ベーシックな手法の組み合わせやバランスの妙で、厳かで前衛的なシンプルウェアを生み出す。
服の個性は、奇抜な技術やアイデアだけでは決まらない。既存の要素をどのように配分し、どう組み合わせるか。その思考によっても、一目で心を奪われる服は作れる。「アランポール」の服には、シンプルの先にある「問い」が秘められている。
〈了〉