甦ったクレージュ

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AFFECTUS No.10

ふたりの若い才能によって新しく生まれ変わった「クレージュ(Courrèges)がいい。しかも、かなりいいときた。クレージュの新アーティスティック・ディレクターに起用されたのは、アルノー・ヴァイヤン(Arnaud Vaillant)とセバスチャン・メイヤー(Arnaud Vaillant)のデザイナーデュオだった。まだ20代半ばという若さだ。彼らの詳しい略歴には触れないが、2015年LVMH PRIZEではファイナリストに選出されていたにも関わらず、クレージュのディレクター就任が決まり、ファイナリストを辞退している。

ヴァイヤンとメイヤーによる新生クレージュは、デビューコレクションから観察していた(スタートは2016SSシーズン)。しかし、本当に印象に残ったのは、またも『ファッション通信』でショー映像を観た時だった。

「え、けっこういいな……」

静かな驚きに襲われ、素晴らしいクオリティに魅入った。とてもミニマムなスタイルで、白いレオタードにブルゾンを合わせたルックは一見するとかなり特徴的だが、実際にはクールな印象を抱かせるという不思議なデザインだった。

他にもクルーネックの白いトップスにかなり短いミニスカート、もしくはほどよくゆったりとしたワイドパンツを合わせたスタイルなど、全体的にコンパクトなシルエットをコンパクトなスタイリングで組み合わせたコレクションだ。重々しさはどこにも感じられず、軽快そのもの。1960年代のクレージュが現代にフィットしたようなデザインである。時代のメインストリームとなる、ビッグシルエットやエクストリームな袖のレングスなどは一切なし。徹頭徹尾、クレージュの美学に沿ったコレクションが好印象だった。

そして翌シーズンの2016AWコレクションで、ヴァイヤンとメイヤーのキレはさらに増していく。ビビッドカラーにベーシックカラーの色構成が未来感を漂わせ、シルエットは前シーズンと同様にやはりコンパクト。トレンドがなんであろうと、クレージュの美学から決して外さない。コレクションを見ていると、ミニマリズム全盛だった1990年代を思い出す。浮かんでくるデザイナーはヘルムート・ラング(Helmut Lang)だ。

ラングも未来感あるデザインが特徴の一つだった。しかし、ヴァイヤンとメイヤーのクレージュはラングよりもスポーティで、それでいてラングよりもクールさは控え、女性特有のフェミニンが香ってくる。服のデザイン自体は極めてシンプルで、ベーシックをベースにしている。ヴィアヤンとメイヤーも「今までに見たことのない服」を作るのではなく、「これまでに見たことのある服をこれまでとは違う服」に作り変える手法を披露していて、私が思うにこれこそが現代ファッションデザインの潮流だろう。

コレクションを見る度に、僕はますますふたりのデザインに魅了されていく。そしてヴァイヤンとメイヤーは、2017Resortコレクションでさらに私の心の奥に突き刺さるコレクションを発表する。モデルは1人も登場しない。ひたすら「モノ」にフォーカスしたビジュアルを発表。ブラックとホワイトを多用して色の配置を平面にしたデザインは、フラットデザインのウェブサイトを見ているかのようだ。

写真の背景を白い壁にするという、ミニマムなブランドならば選択しそうなアプローチから、ヴァイヤンとメイヤーは微妙に外す。背景には窓や壁、中庭の緑も入ってきて、部屋の角をあえて写し込ませるなど、綺麗に整った背景にはせず、どこか雑多な印象。だが、風景の色はホワイトとシルバーという未来感感じさせるもので、非常にクリーンだ。

背景を雑多にしている点が、時代の空気を絶妙に捉えている。今は「綺麗に見せる」「カッコよく見せる」「自分を飾り立てる」ことにリアリティを感じない時代になっている。憧れさせるのではなく、共感させることが重要で、綺麗すぎるものは時代の共感を呼ぶものではなくなった。

ヴァイヤンとメイヤーのふたりはコンパクトなシルエットで、ビッグシルエットが席巻するトレンドから距離は置いているが、2017Resortコレクションのルック写真では、雑多さを背景に持ち込むことで現代の空気感を表現することに成功する。ファッションのメインストリームから離れても、時代のメインストリームにはこれでもかというぐらいに近づき、クレージュの美学に沿ったコレクションを発表するヴァイヤンとメイヤー。かなりレベルの高いデザインだ。ふたりの才能は本物に違いない。

僕が女性に今おすすめするなら、クレージュを推したい。それほど魅力的なデザインだ。おそらく着れば、街中で目立つだろう。好き嫌いも分かれるに違いない。だが、心に響く人はきっといるはずだ。コンパクトなフォルムに、色の配置とディテールの作り込みに繊細さを見せ、モード感が強い服は非常に美しい。

また、クレージュのシグネチャースタイルを表現するミニスカートが印象的だ。なかなかにレングスが短いスカートで、いざ着るとなると勇気がいるかもしれない。しかし、このクリーンでスポーティなスカートを穿いたら、特別な空気を纏ったスタイルになるはず。そしてそのスタイルに目を奪われる人々がいるだろう。そんな予感がするのだ。ビッグシルエットのストリートが主流の、現在のトレンドが自分には少し合わないと思う女性がいるなら、僕はぜひともクレージュをすすめたい。

ヴァイヤンとメイヤーの手によって甦った新生クレージュは、今後ますますキレを増していきそうだ。注目すべき伝統のブランドが、新たに誕生した。

〈了〉

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