ジル・サンダー 2014AW

AFFECTUS No.18

僕はジル・サンダーというブランドが好きだ。このブランドを初めて知った頃、デザイナーは創業者のジル・サンダー本人だった。それからデザイナー(ディレクター)が何人か変わった。ミラン・ヴクミロヴィッチ、ラフ・シモンズ、そして現在のロドルフォ・パリアルンガと、ジル本人も含めると合計四人のデザインを見てきた。

交代がスムーズにいくケースもあるけど、そうはいかないケースもある。それは、ジル本人が辞める時だ。彼女はいつも突然辞める。彼女は絶対短気だと思う。仕事は一緒にしたくないタイプだ。突然辞めるものだから、後任人事がすんなり決まるわけない。つまりディレクター空白のタイミングが生まれてしまう。そのとき、いつもコレクションのデザインを担当するのはデザインチームだ。そして、僕はこのデザインチームのデザインがけっこう好きで、ジル・サンダーのデザインチームのファンでもある。

またまたジルが退任となって、再びデザインチームが担当した2014AWが秀逸だった。僕はこのデザインチームのリーダーこそが「次期クリエイティブ・ディクレクターになるべきだ」と思うほど、このコレクションに一目惚れだった(結局パリアルンガが就任したが。でも彼の起用は正解に思える。素晴らしい)。

デザインチームのコレクションに時代の先進性を感じることはない。それはしょうがない側面もあるだろう。彼らに求められているのは、まずはコレクションを完成させて、次期ディレクターが決定するまでの穴埋めなのだから。そんな役割を与えられても素晴らしいコレクションを作るチームに、僕は祝杯をあげたくなる。

2014AWのデザインはとてもシンプルだ。「ジル・サンダーだから当たり前だろ」。それはそうなのだが、当時のジルやジルの前任であるラフ・シモンズのデザインと比較してみれば、それは明らかに顕著。特別な主張がない。

「ジル・サンダーにとってベストの服を作ろう」

そういう姿勢を、僕はこのコレクションから感じる。そして、その姿勢から生まれた潔さが好きなのだ。

このコレクションのどこに魅力を感じたのか。それはフォルムだ。特にコートとジャケットが素晴らしかった。一見どこにでもあるようなデザインのジャケットとコート。だけど、よくよく見るとそのフォルムがどこか面白いニュアンスを含んでいる。そこはフィットさせるのが通常なのに膨らんだ微妙なボリューム、ボディのスリムなシルエットに対してアンバランスの面白さ感じる太いスリーブ、ウェストに生まれている不思議なドレープ、ほんの少しのささやかなドロップショルダー。

そしてニットのフォルムもいい。特にスリーブだ。太めのスリーブで、肩から肘にかけて膨らみ、そして袖口に向かって萎んでいくこのスリーブのフォルムが、ニットのやわからい素材感とコントラストになって実に美しい。ボトムのデザインも実に良くて、特にパンツのシルエットがいいのだが、それも書いていると長くなるので割愛する。これらのデザインが、シンプルな外観におさまっていて、そのことが僕はとても心地よく感じた。

ただ、確かに見た目はシンプルな服なのだが、目を凝らして見ると通常のスタンダードアイテムとはパターンの取り方が変わっていることに気づく。フロントのアームホールから前中心の下に向かって、まるで切り裂かれたように大胆に斜め前に下がっていく1本の長いダーツ、ネックラインから下に向かってカーブしながら長く伸びるダーツ、後ろから前にまわってくる袖の切り替え、フロントポケットからネックに向かって長く伸びるダーツなど、パターンの取り方がとても挑戦的で面白い。挑戦的要素を明らさまにせず、忍び込ませて表現しているところが心憎い。そしてリアルの中で挑戦的要素を見せることが、時代のデザイン観にもフィットしている。

その挑戦的なパターンから生まれた面白いニュアンスを含んだ、この極めてシンプルな服から僕は人間の新しい身体を想像する。その新しい身体から生まれるイメージは、とても美しく、けれど控えめ。そんな佇まいの女性が見えてくる。特別で高尚なメッセージなどなくとも、良い服は作れる。それは、言葉にすれば当たり前のこと。だけど、次々に新しいものを生むことが宿命とされるファッション界では、その当たり前のことも意識の外に押し出されて、見えなくなってしまう。

デザインチームのデザインが控えめになるのは致し方ない事情がある。けれど、その致し方ない事情が美しい服を生んでいる。そこにデザインの面白さを僕は感じる。マイナスと思われる、ある制約や決定が創造性を刺激し、人の心に響く作品を作り出す。

デザインという行為の奥深さを感じさせてくれるデザインチームの仕事はアノニマスになる。だが、その匿名性ゆえに観る側の意識が「モノ」にフォーカスされ、デザインを純粋に楽しめるように思えた。つまり、よくあるデザイナーのキャリアのアピールがないことで生まれるデザインの楽しさがあるのではということ。特に個性を主張するのが当たり前のファッションデザインでその体験は、とても貴重なものではないだろうか。

ファッションデザイン、特にコレクションブランドの場合、先進的な挑戦が見られないとその評価が低くなる傾向がある。特に2014AWシーズンのジル・サンダーのように、デザインチームが担当したコレクションは。しかし、その服をちゃんと見れば、とても素晴らしいデザインだということはよくわかる。最近では、ラフ・シモンズ退任後にデザインチームが担当したディオールのコレクションも素晴らしかった。最後に、この言葉を持って今回のブログを終わりにしたい。

「先進的な挑戦がないことは、ファッションデザインにとって悪いことなのだろうか?」

〈了〉

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