メジョン・ガリジェラ

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AFFECTUS No.19

ジョン・ガリアーノ(John Galliano)による「メゾン・マルジェラ(Maison Margiela)」のデビューコレクション、2015SSオートクチュールコレクションは2015年1月に発表された。その日から約1年8ヶ月の歳月が流れているが、まだそんな短い時間しか経っていないのかと驚く。ガリアーノがマルジェラのディレクターに就任したのは、もっと昔に思えてくるから不思議だ。

今回、この文章を書こうと思ったのは自分の中に「もう、いいじゃないか」という気持ちが芽生えたからだ。ガリアーノ手がけるマルジェラのデザインは、デビューコレクションが発表されるや否や、ある意味予想通りの声を耳にする。ガリアーノの世界観が強く、従来のマルジェラのイメージを崩したデザインに、批判的な声があがった。僕自身「これはマルジェラというよりガリジェラだな」と思うほどだった。

そして、シーズンを重ねるたびにガリアーノの世界観は濃さを増していき、今回の2017SSコレクションではある種の頂点に達した。マルジェラというブランドのコードを意識した範囲内では最大限にガリアーノ自身の個性を反映した、とても彼らしい服だった。

2017SSコレクションの服を見て「ああ、ガリアーノは本当にファッションが好きなんだなあ」と感慨深い気持ちになる。こんなにもファッションを愛する人間が、こうしてコレクションを発表できている。その事実だけで十分に思えた。

「マルジェラの世界を破壊していいのか?」

そういう意見もあるに違いない。だが、もうブランド「メゾン・マルタン・マルジェラ(Maison Martin Margiela)」が戻ってくることはない。たとえマルジェラ本人がデザイナーとして復帰したとしても、ブランドがかつての姿を取り戻すことはきっと不可能だ。

マルジェラの全盛期はデビューした1989SSコレクションから1990年代後半までの約10年だと思っている。その後のマルジェラのコレクションは、本人が手がけているにもかかわらず、初期のような圧力は感じられなくなってしまった。

マルジェラがデビューしてからの10年は奇跡だった。もう二度と訪れることのない、ファッションデザイン史に刻まれた奇跡の10年なのだ。

現在、マルタン本人のデザイン力がどういう状態なのかは不明である。しかし、あの輝きを再び発揮するのは無理に思える。僕はリアルタイムであの奇跡の10年を経験していないし、当時のマルジェラのコレクションを確認できたのは主に写真や映像であることがほとんどだ。しかし、メディアを通してでも迫ってくる圧力を感じ、僕はコレクションルックを喰いるように何度も見てきた。

マルジェラの後任としてハイダー・アッカーマン(Haider Ackermann)と共にラフ・シモンズ(Raf Simons)の名前も噂に上がっていた。たとえば「ジル・サンダー(Jil Sander)」と「クリスチャン・ディオール(Christian Dior)」のコレクションを見る限り、シモンズならブランド「メゾン・マルタン・マルジェラ」の世界観を保持した上で、最高のデザインを披露してくれた可能性は大いにある。ジル・サンダー時代に創業者のサンダー本人をも超えてしまった天才のシモンズならば、マルジェラの再現、もしかしたらマルジェラ本人のコレクションを超えることだってあり得るかもしれない。

しかし、現時点では決して見ることが叶わないシモンズによるコレクションを想像した時、僕は魅力を感じるのだろうかと自問自答すると、その答えは否だった。ガリアーノのメゾン・マルジェラを見てしまった後では、そう答えてしまう。

なぜそう思うのか。

僕がファッションに感じる魅力の一つに、新しさを追求する姿勢がある。軽薄で節操がないと言われても、ファッションがどこまでも新しさを追求する姿勢はやはり面白い。僕はファッションで過去に浸りたいわけではない。もちろんノスタルジアに浸りたい時もあるが、一番体験したいものは新しさとの出会いだ。

特に近年は、僕の中で新しさを求める気持ちが以前にも増して強くなっている。データが重視され、合理化が評価される現代に嫌気がさしているのかもしれない。過去の数字を参照した服、無駄のない過程で制作された服に、驚くような新しさを感じることは非常に難しい。

僕が見たいのは「今まで見たことがなくて、今までに見たことのある服」なのだ。そんな矛盾のコレクションを欲している。僕の極めて個人的な欲求を、もしかしたらガリアーノのマルジェラは、満たしてくれそうな予感がわずかにしてきた。だから、かつてのメゾン・マルタン・マルジェラに沿った世界観のコレクションよりも、マルジェラを意識しながらもマルジェラでは絶対に創造しなかったであろうメゾン・マルジェラを発表するガリアーノに期待したくなっている。

また、妄想のしすぎだと言われそうだが、今回の2017SSコレクションを見ていたらガリアーノが楽しそうに服を作っている姿が浮かび上がり、僕は期待値が高まった。

以前、僕はガリアーノがクリスチャン・ディオール時代にコレクションを制作している風景を写した映像を観たことがある。カメラに映る彼はとても楽しそうだった。楽しげにアイディアについて語るガリアーノの姿は「ファッションは自由で楽しいものなのだ」と訴えるようにも感じられた。何年も前に映像で確認した、あのガリアーノの姿が今回の2017SSコレクションを通して僕の脳内で再現され、もうこれ以上は何も言わず、ただただ、このマルジェラテイストのガリアーノの服を、純粋に感じるがままに楽しみたい気持ちになった。今ではブランド名を変えた判断は正解だとさえ思っている。

これはメゾン・マルタン・マルジェラではなく、メゾン・マルジェラ。新しくて古い。古くて新しい。まるで、それはマルタン・マルジェラが作った服そのものみたいだ。

〈了〉

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