ミウッチャ・プラダの違和感あるデザイン

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AFFECTUS No.20

ミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada)は不思議なデザインをする。その印象は今回発表された2017SSコレクションでも変わらない。彼女のデザインは、一見するとコンサバなスタイルをベースにしていて、発表されるアイテムは見慣れた印象を受ける。だが、その印象は最初だけだ。すぐさまデザインの違和感に気づく。見慣れたはずのアイテムが、おかしなことになっている。

デザインの特徴を確かめるには、今回の2017SSコレクションよりも前回発表された2016AWコレクションの方がいいだろう。この2016AWコレクションでベースになっているのはマリンなのだが、もうこの時点で混乱が生じる。AWシーズンにもかかわらず、SSシーズンの代表テーマであるマリンをベースにデザインする捻れが、ミウッチャというデザイナーの一旦を表している。彼女はこういう違和感を積み重ね、コレクションを構成していくのだ。

マリンをベースにしたデザインが展開されていくが、僕はすぐさま首を傾げた。ノースリーブのドレスや半袖シャツなど、SSシーズンのアイテムがAWコレクションであるはずの今回のスタイルに散見されるのだ。加えて幻想的な植物柄やオリエンタルな柄の素材が使用され、ついには毛皮を使用したアイテムも登場し、それだけではなく、ブリティッシュなチェック柄のアウターを纏ったモデルも現れ、世界は混合を始める。

ミウッチャの世界に境界は存在せず、彼女が目にするものはすべてフラットで、デザインの素材になりうる。先ほど「混合」という表現を用いたが、ミウッチャのデザインを表現する時に最も適切な言葉は「配置」だろう。彼女のデザインは、ピックしてきたインスピレーションを、コンサバベースの服を纏った女性の身体に配置することが大きな特徴となっている。

ミウッチャのデザインは、うまく調和をとって着地させるというよりは、明確な境界を持って色や柄、ディテールをぶつかり合わせ、各要素がぶつかり合った際の視覚の面白さが、彼女のデザインに唯一無二の個性をもたらしている。

通常、ファッションデザインはバランス取りながらデザインしていくものだが、ミウッチャはバランスに対してほぼ無関心だ。カーキ色のミリタリーコートのウェストに、白いコルセットを思わせるアイテムを巻きつけたり、一見するとリアリティを感じるアイテム同士なのに、リアリティと対極の感覚を感じさせるスタイルが完成している。バランスなんてものは完全に無視し、まるでミウッチャが僕たちにこう訊ねてくるようだ。

「バランスを取って何が面白いの?」

ファッションは波風を立ててこそ面白い。調和を図ろうとしない時に生まれる面白さを彼女は十分に知っており、その面白さをファッションデザインという形で視覚化して提示してくる。

ファッションデザインでインパクトを残す方法に、抽象造形を作るアプローチがある。いったいどこで着るのか、誰が着るのか、これはコートなのかシャツなのかワンピースなのか、アイテムがカテゴライズできない、そんな印象を抱かせる抽象造形の服は確かにインパクトが強く、それが新しさに繋がることもある。

しかし、ミウッチャのアプローチは異なる。インパクトを出すために造形へ抽象性は持ち込まずにデザインする。そこに感じるのは、ミウッチャの知性だ。あくまでリアルな服を重視し、コンサバなアイテムとスタイルがデザインのベースになる。そしてコンサバウェアに、ミウッチャが見つけきた時代感を捉える面白いデザインソースを配置させ、そのぶつかり合った様子を、調和を取ることなく見せてくる。

強烈な要素をぶつかり合わせているにも関わらず、結果その印象は破綻せずある種のエレガンスとフェミニニティが立ち上がっていて、グラフィックデザイン的な印象のコレクションへと収束していく。

ミウッチャは当初からこういうデザインスタイルだったわけではない。彼女が手掛け始めた「プラダ(Prada)」の初期コレクションを見ると、ニューヨークブランドかと思える王道的コンサバデザインが確認できる。だが、彼女は自身のデザインスタイルを変えていく。しかもアヴァンギャルドかつコンサバティブな服という、非常に希少なスタイルへ。一見するとポジティブな気持ちにはなれないデザインで、違和感が迫ってくる。しかし、時間の経過が、その違和感を面白く感じさせ始めるのだ。しかも、ただ面白いと感じさせるだけでなく、フェミニンな感覚も伴いながら、僕たちの感性へと訴えかけてくる。

もし、世界中のファッションデザイナーの中で、誰にデザインの本を最も書いてもらいたいかと問われたら、僕はミウッチャ・プラダと答える。それほど、彼女のデザイン理論は注目に値する。彼女のフォロワーとなるようなデザインは、現時点でまだ現れていない。最近のジョナサン・ウィリアム・アンダーソン(Jonathan William Anderson)にはプラダと同種の匂いを感じ始めたが、アンダーソンは抽象性の強いデザインを披露しており、コンサバティブなプラダとは異なる。ミウッチャ・プラダがどのような考えでデザインを実践しているのか、僕はそれがとても知りたい。

〈了〉

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