風が具現化したサポート・サーフェス

スポンサーリンク

AFFECTUS No.27

とても心地のいいショーを見せてくれるブランドがある。そのブランドのショーには派手な演出や舞台はない。生演奏で聴こえてくる音楽は、とてもシンプルなメロディで空間を澄んだ空気で満たす。生演奏をバックに、服を着たモデルたちが淡々と歩く。特別さも過剰さもなく、あるのは心地よさという格別な感覚。「凜としている」という表現は、あのショー空間の心地よさを言うのだろう。

ブランドの名前は、1999年に研壁宣男(Norio Surikabe)がスタートさせた「サポートサーフェス(Support Surface)」。布の量感を大切にしたシンプルで、リアルかつドレープ性あるデザインは女性を美しく見せる。それだけではない。サポートサーフェスの服は女性の持つ可愛らしさも引き出す。そこはかとなくフェミニンな香りが漂っているのだ。

ジャケット、シャツ、コート、パンツ、ニット、すべてのアイテムに、布が身体に付かず離れずの程よい距離感を作り、その様子が静かで美しい。強烈な主張の服ではない。すれ違ってから、惹かれる何かを感じて思わず振り返ってしまう。そんな様相を呈した服である。

コートを例に述べてみよう。コートといえば、通常は重厚な雰囲気を感じるアイテムである。しかし、サポートサーフェスのコートには、コートらしい硬さを感じると同時に軽やかさも感じられる。布と身体の間に空間が作られ、女性の身体の上でゆらめく布が身体を優しく丸く包み込む。その姿は、見ているこちらまで、服を着ている女性の心地よさが伝わってくるかのようだ。

布は身体から離れるだけでない。袖やウェスト、バストなど服のフォルムのどこかしらにスリムラインが混じり、女性だけが持つ女性特有の美しいボディラインを布は優しくなぞっていく。布の揺らめきとスリムラインが、緊張感と解放感感という異なる要素を混在させ、コートの印象を強くも優しくもする。

印象に残っているサポートサーフェスのアイテムはパンツだ。ウェストからタックが入って腰周りに膨らみを持たせ、股上は深めで裾に向かって絞られていく。いわゆるテーパードなラインを描くシルエットなのだが、このパンツにも緊張感と解放感は混在している。

パンツ丈はやや短く、裾と靴の間にくるぶしをのぞかせる。パンツは、毎シーズン展開されている定番のアイテムであり、ショーでも度々発表され、サポートサーフェスのパンツを穿く女性モデルの姿には優美さが漂う。歩くたびにパンツの布が揺れ、ヒダやカゲを生む。シルエットにゆとりはありながらもルーズさとは無縁な、まさに大人の女性のための知的さ漂うパンツだ。

僕が個人的に思う、ヨーロッパのエレガンスに真正面から勝負できる日本人デザイナーは三人だ。その三人とは、山本耀司と渡辺淳弥、そして研壁である。ただ、前者二人と研壁では、エレガンスのタイプが異なる。山本と渡辺の持つエレガンスは、1950年代のパリオートクチュール黄金期に端を発する王道エレガンスで、とてもクラシックな表情を見せる。一方、研壁のエレガンスは都会的で、モダンな匂いが強く、そのモダンなエレガンスで充足された服がサポートサーフェスだと言える。

2017SSコレクションのショーを会場で目の当たりに見ていたら、ある言葉が頭の中をよぎった。

「風が服になったみたいだ」

風が服になり、その服をモデルが身にまとっている。もし風に色がついたなら、こんな色なんじゃないか。そんなふうに思えた。そしてその感覚は服だけにとどまらず、ショーで流れる音楽にも該当する。水や空気、そういった僕たちがふだん感じる自然を、音楽として演奏したらきっとこんな音になるのではないか。

現代は、急がされ忙しく慌ただしい。いつからこんなふうになったのか。もうすぐ年末年始を迎える。僕は子供のころに感じられた正月三が日の特別な空気が、とても好きだった。街は静かで、人の気配は感じられず、でも冬の冷たい空気が新鮮さを新年とともに運んでくる、あの特別な空気には格別の心地よさがあった。

サポートサーフェスのショーは見ていると、あまりの心地よさが眠気を誘う。ショーを見ながら、うとうと眠くなってしまう。そんな気持持ちいい空気がこのブランドのショーには満ちている。だから、僕はまたサポートサーフェスのショーが見たくて、足を運んでしまう。風が色をまとって、人間のために形となって現れた服。そんな服の醸し出す空気を、何度も感じたくて。

〈了〉

スポンサーリンク