イッセイミヤケ史上最高のメンズウェア

AFFECTUS No.54

イッセイミヤケの2018AWメンズコレクションが発表された。ここ数シーズン、イッセイミヤケのメンズラインにファッション的現代感が匂い始め、その匂いがシーズンを重ねるごとに強く濃くなってきている。そのことを証明する最新コレクションだった。

「イッセイミヤケ史上最高のメンズウェア」

タイトルにあるように、僕は高橋悠介デザイナーが手がける現在のイッセイミヤケのメンズをそう呼んでいる。

高橋悠介がイッセイミヤケのメンズデザイナーに就任してコレクションを手がけるようになったのは、2014SSからだ。そのシーズンからコレクションを見続けているのだが、デビュー当初は従来のイッセイ感が漂っていて特別惹かれることはなかった。

従来のイッセイ感とは何か。

ここで、イッセイファンから批判されるとは思うが、あえて正直な気持ちを話していきたい。僕はイッセイミヤケに「着たい!欲しい!」という高揚感が際立つファッション的ワクワク感を感じることが、これまで皆無に近かった。イッセイの服は「アイデア」が前面に出てくることが多い。特に、開発に力を注ぐオリジナル素材の印象が強烈で、プロダクトとしては面白さを感じるけれど、言い方を変えると工芸的で「服として着たいか?」と問われると、その問いには僕は頷くことができなかった。

「そのデザイン、服でやる意味はあるだろうか?」

そんな疑問を抱くことが常だった。

デザイナーが交代してもその傾向が変わることはなく、伝統として続いてきている印象で、しかし、イッセイミヤケの歴史を考えると致し方ないのだろうという気持ちにもなる。

「1960年、日本ではじめての世界デザイン会議が開催されました。当時多摩美術大学図案科に在学中の三宅は、衣服デザインの分野が含まれていないのはなぜか、という疑問を事務局へ書き送りました。衣服をファッションではなく“デザイン”としてとらえる三宅の視点に多くの注目が集まりました」 三宅一生の仕事と考え方 – ISSEY MIYAKE Official Siteより

創業者である三宅一生は、デザインの分野において評価が低く見られていたファッションの見方を変えようとした。そのために、ファッション性よりもテクノロジーやアイデアが前面に出てきたように感じる。

もちろん、服としての魅力もあったからこそ、そしてその魅力を支持する顧客がいたからこそ、現在までブランドが続いているのだと思う。しかし、だ。それでもやはり僕は、イッセイミヤケにファッション的魅力を感じることは皆無だった。だが、その潮目が変わる瞬間がやってくる。メンズデザインを手がける高橋悠介の力によって。

新生イッセイミヤケのメンズも当初は、前述のように従来のイッセイミヤケ感が強いと感じていて特別惹かれることはなかったが、その潮目が変わり始めたのは2017SSだ。そこにファッション性が匂い始める。

素材が前面に出る力がそれまでよりも抑制され、量感ある美しい分量感を持つ男性のためのシンプルな装いの服が、そこにはあった。コレクションの中には素材のクセが前面に出ているルックはまだまだ数は多かったが、その印象は弱まり「着たい、欲しい」というファッション的魅力が現代の時代感を伴って現れ始めていた。

その傾向は翌シーズンの2017AWでさらに強くなる。

シャツ、パンツ、ジャケット、コートといった男のワードローブを構成するシンプルなアイテムが、シックな空気と東洋的布の分量感で新鮮さを醸し出す。特にショーのフィナーレでモデル全員が着用していたコートが目を惹く。

そのコートは、1983年に発表された「ウインドウコート」というコートのパターンを当時のまま使い、当時の素材よりも軽く撥水性の増した機能性に優れた素材を使ったコートだった。このコートの雰囲気がとても良く、ストリート発のビッグシルエットに通じるトレンド感がありながらも、ストリートブランドにはないシックな装いの男性的視点でアップデートされたエレガンスが漂っていた。イッセイのメンズにカッコよさが漂い始めている。そのことを自覚する一瞬だった。その進化は2018SSでも止まらない。現代の衣服を、東洋的な布の分量感で変換したイッセイ流ベーシック。そう呼べる服が誕生していた。

そして、先ごろ発表された2018AWでイッセイ流ベーシックは、さらに研ぎ澄まされる。「いったい誰のための、いつのための服なのか?」と疑問を抱いてきたアイデアとテクノロジーのゴリ押し感強いイッセイの服が、その呪縛から解放され、イッセイの伝統的シルエットの量感ある服がベーシックに溶け込む。

僕がイッセイミヤケのデザインでもっとも魅力を感じるのは、1973年に発表された「一枚の布」というコンセプトだ。西洋の立体的な服とは違う、人間の身体を平面的な布で表現するという東洋的思考によって作られた服。そのコンセプトは発表から40年以上経つ現在でも強度がある。

以前述べたように、現在パリで発表する日本のブランドの多くがとてもコム デ ギャルソン的だ。複雑で重層的なデザインが主流となっている。しかし、「一枚の布」というコンセプトと歴史を持つイッセイミヤケなら、その流れとは異なる、そして日本ならではのデザインを現代の時代感を漂わせながらベーシックウェアに溶け込ませることで、1950年代を源流とするパリの王道エレガンスへ勝負を仕掛けることができる。

その可能性が姿を現し始めたのが、現在のイッセイミヤケのメンズだと僕は思っている。西洋の価値観とは異なる価値観の提示。その勝負にワクワクしないだろうか(願わくば、本当はそれをまったく新しい日本のブランドが実現させてくれるとなお嬉しい)。

今、イッセイミヤケのメンズが面白い。冒頭で述べたように、これまでのイッセイは素材など、その技術力はすごいとは思っても工芸的な側面が強すぎてファッション的魅力の「カッコよさ」を感じられないから、興味を惹かれることはなかった。けれど、2017SS以降のイッセイのメンズは違う。そのスタイルにカッコよさが漂い始めている。コレクションを重ねるたびに、そのカッコよさに磨きがかかる。

イッセイ流ベーシックがどこまで進化するのか、その行方を今後も見続けたい。

〈了〉

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