未来へ旅するニコラ・ジェスキエール

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AFFECTUS No.64

先ほど、ルイ・ヴィトンの2019Resortが発表された。このコレクションが見た瞬間に「いい」と思ってしまうほどの出来栄えで、その気持ちを逃したくなくて今書き始めた。

会心のコレクション。そう呼ぶにふさわしい完成度だ。僕個人としては、ニコラ・ジェスキエールのヴィトン史上ベストと言えるほど。僕は元々バレンシアガ時代からニコラのデザインが好きで、彼のファンと言ってもいい。

しかし、ヴィトンに移ってからのニコラのコレクションには心が揺さぶられることがなく、バレンシアガ時代には毎回コレクションを欠かさず見ていたのだが、ヴィトンのコレクションは見逃すことも多くなってしまっていた。それぐらい、ヴィトンのニコラへの興味が薄れていたのだ。

だから、先日発表されたヴィトンとニコラの契約更新のニュースにも、特別な関心がわくことはなかった。 しかし、今回のコレクションはニコラへの興味を再び呼び起こす魅力であふれていた。

僕が思うニコラの魅力は造形力だ。その造形力が今回のコレクションで久しぶりに甦った。バレンシアガ時代、ニコラはインタビューでコレクション制作はすぐに布を使って服の形を作り始めると語っていた。現在でも、そのデザインプロセスを行なっているのかは定かではないが、彼の造形力はその経験によって磨かれたのだろう。

ここで注意が必要なのは、造形力と言ってもデザイナー自らの手で作ることを意味しているわけではない。パタンナーが作った形をジャッジする。デザイナーには、そのジャッジのスキルも造形力に含まれる。

ニコラの造形の魅力は、そのダイナミズムにある。ダイナミズムと言っても、それはガリアーノ的な迫力と大胆さを持った形ではない。ニコラの造形はコンパクトで、そのコンパクトさの中にダイナミズムが表現されている。そしてシャープだ。キレがある。身体にフィットするシルエットも織り交ぜながら、布を彫刻のように仕立てた硬質で力強いフォルムがコンパクトなダイナミズムを生み出す。

そのニコラ特有のダイナミズムな造形が、今回のコレクションには久しぶりに発揮されていると僕は感じた。

80年代を思わすパワーショルダーがありながら、その印象は80年代のファッションとは異なり、80年代の後に訪れた90年代ミニマリズムで80年代シルエットをコーティングしたよう。そしてそこには、布の流麗感も生かしたドレーピーなシルエットのルックもミックスさせ、クラシックなエレガンスも漂わす。スタイルの中に時代のクロスオーバーが起きている。ここに、ニコラもう一つの魅力、融合力が発揮されている。

ニコラは、世の中のあらゆる要素をピックアップし、それを混ぜ合わせる。その要素には、これまでなら混じり合うことはなかった要素も多々ある。しかし、ニコラには関係ない。彼はすべてをミックスする。彼にとっては世界のあらゆる要素がデザインの材料なのだ。

クラシック、カジュアル、ドレッシー、ストリート、現代のあらゆるエッセンスを抽出し、一つのスタイルへと融合させていく。それはまさに「多様性」と表現してもいい現代の価値観を捉えたデザイン。このあらゆる要素を混ぜ合わせる手法で言えば、代表的デザイナーとしてミウッチャ・プラダがあげられる。彼女のデザインは「醜い美しさ」と呼びたくなる違和感が取り残されたままだ。

しかし、ニコラの違和感は種類が違う。ミウッチャが美醜からくる違和感なら、ニコラは未経験からくる違和感だ。今まで見たことのないがゆえに、どう判断したら、理解したら良いのか迷いからくる違和感だと言える。ニコラの違和感は醜さを感じるものではなく、むしろ美しさを感じてしまう。ミウッチャとニコラでは、違和感の中身が異なっている。ニコラが持つ融合力は世界でも最高クラスのものだ。この能力があるからこそ、彼は世界のトップステージへ昇り詰めることができたのだと思う。

造形力と融合力が発揮されたニコラのコレクションには未来感がにじみ出す。このフューチュリティはニコラのアイデンティティとも言える。彼の服は未来へ向かっていく。だから、ワクワクする。

今回発表されたのは、シーズンとシーズンを繋ぐプレコレクション。しかし、そのクオリティは本コレクションに勝るとも劣らないハイクオリティ。いや、上回ったとさえ言える。今や、ラグジュアリーブランドに「端境期」と呼べるコレクションはない。一切の気が抜けない時代になった。そのプレッシャーを物ともせず、ニコラは成し遂げる。

今回、ニコラが作り上げたコレクションは、ルイ・ヴィトンにふさわしい未来へ向かっていく、未来を旅するための服だった。

〈了〉

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