川久保玲が送るWhite Shock

AFFECTUS No.65

先日、川久保玲のロングインタビューが掲載された「SWITCH」を近所の本屋で購入した。ネットでこの最新号の予告を読んだとき、僕が思う現代のトレンド「悪趣味」について川久保玲が語る内容かと思い、俄然興味関心がわき、すぐに買おうと決意した。

しかし、このインタビューを読むと僕が期待した内容とは程遠く、従来のインタビューと同様に川久保玲が創作の姿勢について語るもので、そこには目新しさを感じる内容は見当たらなく、既視感が漂った。

ただ、そのインタビューを読んだ後で、パリで発表されたコム デ ギャルソン オム プリュス 2018AWコレクションを見ると、新しい思いに駆られた。

「今、川久保玲の創造性を最も楽しめるのはメンズかもしれない」

そんなことを感じたのだ。

コム デ ギャルソンのウィメンズラインのコレクションは、布の巨大なオブジェと化したデザインを発表するようになり数シーズンが経つ。

現代のリアル路線のモードへの強烈なカウンター。強烈で鮮烈なアヴストラクトな造形の服たち。いや、服という表現も似つかわしくない。布の塊だ。そう思えるほど、ルックにはデイリーに着られる服としてのリアリティが完璧に排除されている。

強烈なインパクトがある。けれど、僕はそのデザインに強烈なショックを受けたことがない。

なぜか。

古臭く感じてしまったのだ。たしかにそのアヴストラクトで巨大な造形には、見る者の目を釘づけにするインパクトがある。しかし、インパクトがある=新しい、ではないと僕は思っている。

現代のトレンドで最も重要なのは「リアル」だ。人はカリスマに憧れ消費するのではなく、人は自身の価値観を最も大切にし、自身の価値観に共感できるものをピックアップして楽しむ。そのためには、様々なカテゴリー、テイストを横断することも厭わない。

それだけリアルが重視される時代に、20年ぐらい前の手法に思える、アヴストラクトな造形を全面に押し出すアプローチのウィメンズのコレクションには、時代からの疎外感を感じてしまい、近年のギャルソンのウィメンズを見ていても、00年代のギャルソンから僕が感じていた高揚感を覚えることはほとんどなかった。

川久保玲なら、今のリアルを逆手に取ってストリートを核にして、そのスタイルを破壊し尽くす、けれどストリートの輪郭を残すことで時代の価値観を捉えながらも、カウンターをぶつけるアプローチができそうに思える。

やはりファッションは時代を捉えることが高揚感を生む。もちろん、今のギャルソンのウィメンズにワクワクする人もいるだろう。そのことを否定するわけではない。ここで表明するのは、現在のコム デ ギャルソンに対する僕の極めて個人的な感情の発露だ。そう解釈してもらえたらと思う。

喪失感というほどではないが、それに似た感情を抱いていた現在のコム デ ギャルソンに対する僕の思いに、変化がかすかに生まれ始めるきっかけとなったのは先ほど述べた通り川久保玲の最新インタビューを読んだことだった。オム プリュスの新しい魅力に僕は気づく。

メンズデザインはリアルがベースにある。シャツ、ジャケット、パンツなどベーシックアイテムをベースにデザイン展開させることがメンズファッションのスタンダードであり、もはやルールと言ってもいい。その制限された枠の中で創造性を発揮するのが、メンズウェアをデザインするデザイナーの仕事だと言える。

なぜメンズはリアルである必要があるのか。その明確な理由が僕にはわからない。ただ一つ感じるのは、ウィメンズのようなデザイン性に富んだ=身体を装飾するフォルムが、男性の身体には似合わないということ。

男性の直線的かつ平面的な身体はウィメンズ的なフォルムと相性が悪い。それが服を作っては人に着せ、見てきた僕の経験から感じたことだった。だから、長い時間をかけて自然とメンズはリアルに落ち着いていったんじゃないかと思う。

ただ、僕の知らないところでメンズがリアルである決定的理由があるかもしれないし、その理由を知る人がいたらぜひ教えて欲しい。とても興味がある。

リアルが重視される。そのメンズの価値観は、まさに現代の中心をなす価値観だ。僕は「次代の新しいファッション」はメンズから生まれるんじゃないかと予測している。それはメンズの持つリアルが理由かもしれない。リアルが最も重要である場所から、現代のリアルを変える新しいファッションが生まれる。ましてや、ジェンダーレスが普遍的になり始めている今なら、メンズには新しい価値が生まれる可能性が潜んでいる。そう思えるのだ。

現代の価値観とイコールになっているメンズで、川久保玲が見せる創造性は時代を捉えながらも時代へのカウンターになっているモダンデザイン。僕は「SWITCH」で、これまで何度も語られてきた川久保玲の創作姿勢を読み返し、改めてプリュスの2018AWを見てみると、そこには想像の外側を見せられた感覚に近いものを感じるようになった。

メンズのベーシックウェアが見たこともない形に彩られている2018AWのプリュス。恐竜のために作られたストロングなメンズウェア。リアルは現代を超えて、新しいリアルを獲得した。そんな感覚とフレーズが浮かぶ「面白さ」があった。川久保玲の創造性は健在だ。

これからはしばらく僕は、コム デ ギャルソン オム プリュスに注目することになりそうだ。そこに新しいショックが感じられることを期待して。

ファッションには新しさが最も似合う。すべての価値観を真っ白に覆い尽くすほどの、とびっきりの新しさが。

〈了〉

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