今改めてのガンリュウ

AFFECTUS No.67

動向が気になっているデザイナーがいた。コムデギャルソンで、シグネチャーブランド「ガンリュウ」を発表していたデザイナー、丸龍文人である。ガンリュウの休止、丸龍文人のコムデギャルソン社退社のニュースがメディアに流れたのは昨年2017年1月。気がつくと、一年以上の歳月が過ぎていた。

そして驚くべきニュースが先月5月に発表される。丸龍文人が新ブランド「FUMITO GANRYU」を立ち上げ、そのファーストコレクションを今月6月イタリアにて開催される第94回ピッティ・イマージネ・ウオモ(Pitti Imagine Uomo)で発表するというのだ。突然のニュースに僕は驚く。

現在、時代のメインストリームはストリートだ。それは疑いようのない事実。ルイ・ヴィトンがメンズのクリエイティブ・ディクレクターにヴァージル・アブロー指名したことは、その流れが確固たるものであることを証明している。

このストリートブームの発端となり、時代を牽引するデムナ・ヴァザリアはシグネチャーのヴェトモンのみにとどまらず、最近ではバレンシアガでも大きな影響力を及ぼすコレクションを発表するようになった。バレンシアガのコレクションには常に賛否両論あるのだが、デムナの提案するファッションが時代に受け入れられていく。

このように現在最も大きな影響を及ぼしているストリートスタイルだが、ガンリュウはその流れを先んじて発表していたように思う。今改めて思うのは、ガンリュウはもっと評価されるべきブランドだったではないかということ。

コムデギャルソンでガンリュウがスタートしたのは2008年。ヴェトモンが設立したのは2014年、ゴーシャ・ラブチンスキーがブランドをスタートさせたのは2008年なのだが、その人気を急速に高めたのはヴェトモン登場以降。ガンリュウが誕生したのは、ストリートブームが本格化するよりもだいぶ早かった。

ガンリュウが登場する2008年前後とはどのような時代だったのだろうか。当時のメンズシーンを振り返ってみたい。

2008年、時代をリードしてきたエディ・スリマンがディオール・オムを退任し、新たにクリス・ヴァン・アッシュによる新生ディオール・オムがスタートする。一方、クリスと同様にエディのアシスタントを務めていたルカ・オッセンドライバーが、2005年からランバンでメンズラインのディレクターに就任する。エディがディオール・オムを去って以降、シャープ&ロックなエディスタイルへの反動なのか、ルカによるエレガント&フェミニンなスタイルが急速に市場で人気を獲得していく。

また、2001年からスタートしていたトム・ブラウンがその新しいトラッドスタイルで世界に大きな影響を及ぼし始めた。あの、くるぶしが見えるパンツ丈のスーツスタイルは、当時初めて見た僕にはかなりの衝撃だった。だが、最初は違和感だらけに思えたトム・ブラウンのニュートラッドは時間の経過と共に市場へ浸透していく。くるぶしを晒すパンツ丈のスタイルは、男性の新しいスタイルとして認められるまでになる。トム・ブラウンの登場は、メンズファッション史においてエポックメイキングだったと言える。2013年、トム・ブラウンは青山にニューヨークに次いで2店舗目、アメリカ国外では初の旗艦店をオープンする。

こうして振り返ってみて思うのは、ガンリュウが登場する前後の時代のメンズシーンはエレガントが時代のコンテクストだったということ。そう考えると、ガンリュウの登場はタイミングがいささか早かったように思う。ガンリュウのデビューがノームコアを経た(これが重要)2014年以降であったなら、ストリートをベースとしてリアルの中にモードな表現を散りばめたガンリュウのカジュアルスタイルは、ビジネス的にまた違った結果になっていた可能性もあったのではないだろうか。今となっては、その結果は神のみぞ知るだが。

ガンリュウはストリートがベースのカジュアルスタイルに、ギャルソンで渡辺淳弥の下でパタンナーとしてキャリアを積んだスキルを生かしたフォルムに特徴があった。特にサルエルパンツは印象深い。西洋発のストリートにアジアのサルエルパンツが融合したスタイルは、唯一無二の世界観を構築する。

ガンリュウのコレクションを今見てみると、僕は2016SSに惹かれる。ストリートの印象は薄まり、エレガントなクラシックスタイルとワークウェアの匂いを滲ませ、けれど鮮やかな色使いと蝶ネクタイがブランド誕生以来持ち合わせていたユーモアを想起させ、そのユーモアがそこかしこに散りばめられていて、一言で言うと「すごくいいじゃん!」というヤツなのである。

ITサービスを軸にするスタートアップでよく言われる、重要なのは市場の選択とそこへ投入するタイミング。今市場規模が小さくて目立つことがなくとも、今後急速に成長する可能性を持つ市場を発見し、そこにプロダクトを投入するタイミングを見計らい事業をスタートさせる。早ければいいものでもない。ビジネスが成功を収めるにふさわしい突入のタイミングがある。そこを見極める目が必要になってくる。

市場の選択と市場へ投入するタイミング。時代と密接にリンクするファッションではなおさら重要だ。市場とタイミング次第では、同じデザインでもその結果は違ってくる。ファッションデザインにはただ服を作るだけでなく、時代を見極める目が必要だ。

その意味では、繰り返し述べることになるがガンリュウ登場のタイミングは早すぎた。7年早い。そう実感する。だが、今改めて振り返るガンリュウのコレクションには、より高い価値があると僕は思う。その思いを抱くようになり、僕は丸龍文人が新たにシグネチャーブランドをスタートさせないのだろうかと、それがとても気になっていた。そう思っていた矢先に、冒頭の新ブランドをピッティで発表するというニュースを知り、僕は驚きと同時に嬉しくなる。

丸龍文人はどんなコレクションを見せてくるのだろうか。願わくば、コムデギャルソンからは脱却した、彼のセンスをストレートに爆発させたデザインを見せてくれないだろうか。ピッティでの発表が待ち遠しい。

〈了〉

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です