今、若者たちはモードを消費し始めた

AFFECTUS No.69

世の中にはカウンターと呼べる現象がある。ある商品やサービスが人気になり、その期間が一定期間続くと、その反動でそれらの人気商品やサービスとは真逆の性質を持つ商品やサービスが人気になり始める。トレンドがキーワードになるファッションでは、よく見られる現象だ。

今、そのカウンターが日本のファッション界で起こり始めている。価格の安さが重視されてきた国内ファッション市場だったが、一転して高価格帯ブランドのモード服を買う若者が増加し始めた。

昨今のヨウジヤマモトブーム、Y-3やバレンシアガ、グッチの人気はその代表と言える。人気モードブランドの服を着て、Instagramにポストする若者が増加中であり、世界的に見てもバレンシアガとグッチはその売上を増大させ、その要因はミレニアル世代による購入の増加だと分析されている。

だからといって、ここでは安易に「モードがこれから売れる」と宣言するのではなく、これまで「若者は高い服を買わない」「SNSがファッションの代わりに個性を表現するようになった」とファッション消費の減少が分析されてきた時代に、その真逆の現象とも言える高価格モードの消費がなぜ今「若者」に起き始めたのか、その心理について考えていきたいと思う。

ブランドを着ること ≠ 繋がること

今回の若者たちによるモード消費の現象を見ていくと、大きな特徴と感じられたのは次の点だった。

「着ているブランドがバレることは気にならない」

現在、若者たちの間で人気のモード服に共通するのは、ロゴやマークが大胆に取り入れられたり、装飾性がとても強く、一目見ると、その服がどこのブランドか判明するタイプのデザインを着ている若者が多い。ここ数シーズンのヨウジヤマモトを見ていると、その思いは強くなる。

どこのブランドを着ているのかわかることが恥ずかしい。ファッションには、そういう消費者心理がある。しかし、現在モード消費を積極的に行う若者たちは、着ているブランドがバレることを気にしていない。むしろ、現在のヨウジヤマモトのような奇抜で目立つデザインの服を着ている若者たちを見ると、その姿は「どこのブランドを着ているのか、みんなに知られたい、知って欲しい」と主張しているように見える。

例えばInstagramで#ヨウジヤマモトを検索すると、「#おしゃれさんと繋がりたい」というハッシュタグを同時に使うポストが多いことに気づく。その現象を額面通りに受け取るなら、奇抜なデザインの服を購入して着ることは、目立つことで自身の存在を主張し、同じブランドを好きな人間と「繋がること」が目的の行為に思える。

しかし、「繋がること」を重視するなら、わざわざ高価なモードブランドを買う必要はない。ブランドではなくスタイルで主張し、繋がっていけばいい。例えば現在トレンドのストリートスタイルを、お手ごろ価格のファストファッションや大手セレクトのオリジナルなどで(あるいはもっと価格の安いブランドで)揃えて、スタイルを完成させることで存在をアピールし、繋がっていくアプローチがある。むしろ、「高い服にお金を使うことはダサい」と言われてきたこれまでを考えるなら、その方が自然で「カッコいい」行為と言える。

しかし、現実は違う。若者たちはファストファッションとは桁の違う高価格のモードブランドを消費する。それはつまり単に「繋がること」だけが目的ではないということになる。若者たちは「繋がること」以上の何かを欲している。

それは何か。

それを考えるヒントは、SNSにある。現代の若者たちによる高価格帯モードの消費スタイル。そこに潜む心理を育てたのはSNSだ。SNSを体験してきたことで育てられた感覚が、SNSを飛び出して現実世界へ浸透してきた。

SNSの誕生と課題

以前と現在、最も大きな違いはSNSの存在だ。その中で最も注目すべきは「いいね」と言える。「いいね」は、時代の新しい楽しみになった。いわゆる承認欲求と言われるものである。かつて承認欲求は、芸能人やミュージシャン、スポーツ選手など、限られた一部の著名な人間しか「日常的」に体験できないものだった。

しかし、SNSはその特権階級的楽しみであった承認欲求を大衆化する。誰もが楽しめ、日常的に体験できるものにした。これは世界を変えたと言ってもいい。このことで、新しい才能が発掘されるようにもなり、ビジネスにも無視することができない大きな影響力を及ぼすようになった。

未だSNSの投稿を頑張ることに「承認欲求www」と揶揄するケースも見受けられるが、今の時代、ビジネスでSNSの活用スキルは必須である。個人の利用でそのスキルを磨けば、ビジネスで役立つことは多い。現在、ビジネスでSNSをまったく活用しないケースは考えられない。消費者へリーチするための重要なルートだ。このスキルを持つ人材は強い。

人々は誰もが自由にいつでも、自分の発信したいことが発信できるようになり、そこに共感=「いいね」を得られ、その楽しさを享受できるようになった。

SNSが登場し、その活用と楽しみ方は人々へ十分に浸透したと言っていいい。しかし、ここにきてSNSにも課題が生まれ始めた。「好きなことが好き」と言いづらくなってきたのだ。誰もがいつでも自由に言えることになった便利さの反動と言える。

今の世の中の傾向を見ていると、自身とは異なる意見への許容度が低くなってきたように思える。自分と異なる意見を見つけると、攻撃的に否定的に述べてくる人々が一定数いる。実際には、その数は少ないだろう。しかしわずかでもその体験をすれば、嫌な気分になり、結果的にはブロックやミュート、鍵垢という選択をすることもある。そんな体験をした人もきっといるだろう。

先日、神戸市の職員が仕事中3分ほど抜けて弁当を注文していたことが発覚し、減給処分を受けた。そして神戸市は謝罪会見を行った。これは、許容度の低さという現象の行き着いた果てに思える。

社会は厳しくなりすぎてないだろうか。

もっと自分の好きなことが自由に言える、楽しめる場が欲しい。同じものを好きな人たちと繋がり、自分たちの「好き」を好きに語り合える。これはとても心地よく楽しいものだ。「好き」を媒介にして繋がることは、自分がありのままに自然に自由にいられる面白さを体験できる。

自由を求めてSNSを真っ先に飛び出て、現実世界で「いいね」を獲得し、同じ感覚を共有する人たちと繋がっていくSNS体験を得られるように行動したのは若者たちだった。そして、そのフィールドにモードファッションが選ばれた。

以下では、若者たちによるモード消費について、SNSの「いいね」を軸に深く迫っていきたい。そしてその影響がビジネスに及ぼす影響についても推測していこうと思う。

リアル「いいね」と化したファッション 

SNSの投稿で価値があるのは面白さ。面白い投稿は拡散する。「いいね」が爆発的に増えていく。SNS上の面白さは、新しい見え方の提示が多い。今までこう見えていたものが、実はこうも見える。その見え方の転換が大胆で想像外であればあるほど、バズる。

先日、あるツイートを見た。そのツイートは「いいね」が30万に迫ろうかという勢いだ。帽子を被った5歳児の女の子の影がアンパンマンに見える。見え方の転換によって生じる意外性の大きさが、SNSで求められる面白さだ。

モードファッションは誰もが日常的に着ている服を、大胆に作り変える。

「ジャケットがこんなふうになるのか!」

モードはファッションの見え方を大胆に変貌させる。

その見え方の転換の面白さは、SNSで求められる面白さと同質だ。SNS体験を十分に経てきた若者たちには、その感覚が染み込んでいる。現実世界でSNS体験を行うのに、モードファッションほどふさわしいものはない。

大胆な面白さがいい。だからこそ若者たちはモードブランドの中でも、ブランドの主張が最も濃厚に強烈に感じられる、大きなブランドロゴがプリントされた服、装飾性の強いデザイン性高い服を選んで着ているように私にはは思えた。若者たちの求めるSNSと同質の面白さを満たしてくれるのは、シンプルで綺麗で売れ筋重視のファッションではなく、特殊で独特の世界を築こうとするモードだった。

大胆な面白さを体験できるなら、着ているブランドがバレるなんて大したことではない。価格が高く、誰もが着られるわけではない希少性ある服。それを纏うことに価値がある。いかにしてその「希少性」を手に入れるか。そこに至るまでのハードル(価格の高さ、入手困難の難しさ……)を超えて手にすることがステータス。それが「現在の個性」と呼べる現象。だからこそ若者たちにとっては、スタイルよりブランドを着ることに価値がある。

「自分がありのままに自然に自由にいられる面白さを、現実世界で」

すべてはそのために。

モードブランドは現実世界で人々から共感=「いいね」を獲得するツールとなった。リアル「いいね」と化したのが現在のファッション。そして、若者たちは、その姿を今度は再びSNS(Instagram)へとフィードバックしていく。SNSでも「いいね」を獲得し、同じブランドを愛する人々と繋がっていく。そしてその繋がった世界で、若者たちは楽しむ。新しい時代の新しい楽しみを。

現代の若者が持つ清々しいカッコよさ

Instagramでヨウジヤマモトを着る若者たちの表情には、自分の好きな服を着る誇らしさと清々しさであふれている。若者たちの堂々とした姿には爽快感さえにじむ。

この若者たちのモード消費は、SNSがもたらした功罪の「功」だ。

他の人が着る服なんて気にする必要はない。自分が好きで、自分が欲しくて、自分が着たい服をめいいっぱい着る。そのことで服が服を呼び、共感を生み繋がりを作っていく。好きな者同士が繋がることの楽しさ。それは私がかつてモード好きと繋がり、楽しさを共有していた時代と重なる。あの楽しさに気づいた若者たちが増えた。こう思うと、ワクワクしてくる。

そして私が思うのは、モードは背景を知るとさらに楽しくなるということ。過去何度も述べているが、その背景を知る楽しさを私に教えてくれたのは、『ミスターハイファッション』や『流行通信』と言った、ファッション文学と呼べる濃厚濃密なファッション誌たちだった。あのファッション誌たちがあったからこそ、私はモードへさらに熱中することができた。

今の若者たちのモード消費の特徴に、ブランド名は知っていても、そのブランドのデザイナーを知らないことがある。それはもったいない。背景と流れを知ると、モードはもっと楽しくなる。次の楽しさがある。

ファッション業界へのビジネス的影響

SNSで育まれた感覚は、現実世界の商品へも影響を与えるだろう。若者たちによる高価格帯モードの消費現象は、その影響がいち早くファッションには現れ始めたと言える。

先述したように、SNS体験を得た若者たちは大胆な面白さを求め始めた。

モードを消費する若者たちの感覚と行動は先進的だと言えよう。しかし、その感覚と行動は、SNSの力によって想像以上に早くその他の若者たちへ浸透すると予測する。大胆な面白さを求める感覚のマス化だ。

そのような時代が訪れた時、売れ筋を追求してばかりで他ブランドと同質の商品を企画販売していたり、高い服は売れないと考え、安い服を作ったりセール前提の価格設定をする企業はどうなるだろう。

いずれ売上減になる可能性が高い。これから必要なのは「安さ」や「お得感」、「既存人気商品」ではなく「大胆な面白さ」。

今、ファッションの歴史上、最もブランドを作ることが難しい時代になっった。これまでのように「服を作って、ルック写真を撮って、展示会を行い、ショップで販売していく」だけでは厳しい。

服作りの知識・経験と同じくらいに、ファンを作りファンとの関係性を発展させていくスキルが重要になっている。しかし、ファッション業界の既存企業は、そこへの意識が弱くはないだろうか。たとえ意識があったとしても、商品企画と同じで他社が行っていて成果が出たことを、ただ真似るケースが多いようにも感じる。

しかし、それではこれからの時代にはマッチしない。先述したように、これからの時代には他にない大胆な面白さが必要になる。「経営もトレンド重視」と言われてしまうファッション界の習慣から脱却する必要がある。

打撃を受けると予測されるのは、大手アパレルメーカーや大手セレクトショップのオリジナルといった中価格帯ブランドだ。それらの商品は売れ筋重視の企画で販売していく。いうなれば商品に大きな特徴がない。一時期よりも改善されただろうが、OEM(ODM)や商社の企画を使うことも多く、そのような企画生産体制のブランドは、ネームをとってしまうとどこのブランドか判別が難しいデザインが多い。どこも似たり寄ったりなのだ。

00年代ならそれでも売上が取れていた。しかし、若者たちがファッションに求める質が変化を始めた今、他のブランドにはない、そのブランドだけの「大胆な面白さ」が求められる。果たして、今の大手アパレルメーカーや大手セレクトショップにそのような企画ができるのか。

また、中価格帯マーケットには売上高3兆円を誇る「ZARA(ザラ)」が構えている。モードブランドを念密にリサーチし、そのデザインをマス用に落とし込み、トレンドをスピーディに捉えながら国内の同マーケットのブランドよりもロープライスで商品化する企画生産システムを磨き続けたZARAに、現在の国内メーカーや大手セレクトショップが勝てるだろうか。

低価格帯ブランドはその安さゆえ、まだ生き延びるだろう。だが、遅かれ早かれ価格の安さを売りにしていたら、新しい時代の波に飲み込まれていく。

ファッションブランド×ウェブサービス

これからのファッション好きを増やしたい。それは、ファッションを愛する者なら誰もが持つ想いだろう。すでにファッション好きの人たちが喜ぶことばかりしても、新しいファッション好きは増えない。これからの時代を作っていく新しい時代の新しい人たちに、ファッションへの興味が沸いてくる何かを作っていくべきだ。特に注目すべきは、ウェブサービスだと私は考える。

これからの時代、ブランドターゲットが生活で抱える課題を解決し、ターゲットの世界を快適にカッコよく美しくする「世界観構築型×課題解決型 」のミックススタイルが、新しいファッションビジネスの形態として生まれてもいい。そして、そのサービスはファッションとは全く関係ないサービスである方が、大胆で面白い。これまでのファッションブランドでは得られなかった大胆で面白い体験を消費者へ届けていく。

例えば、このようなファッションブランドを企画してもいい。

スポーティ&モード×旅行サービス
ストリート&モード×フードサービス
クラシック&モード×金融サービス

今、若者たちにとってはスタイルを作ることよりブランドを着ること自体に価値があるのは先述した通り。服を着る個性の表現方法が時代の変化と共に変わったなら、そのことがさらに楽しくなる世界を作ろう。すべては「新しいファッション好き」を増やすために。

若者たちは、想像外の大胆な面白さを欲している。

〈了〉

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