アールヌーボーとミニマリズムを結ぶ才能

AFFECTUS No.78

LVMH PRIZEが誕生する以前、新しい才能を発掘するコンペといえば毎年南フランスで開催されるイエールモードフェスティバルだった。イエールはヴィクター&ロルフの発掘に始まり、いくつもの新しい才能を時代へ送り出してきた。

だが、近年ではLVMH PRIZEの勢いに負けて、イエールへの注目度が以前よりも下がった印象を受け、近年イエール出身で注目されるデザイナーの名前も思い浮かばない(もちろん、僕が知らないだけの可能性はある)。

イエールとLVMH PRIZE、両コンペのファイナリストのデザインを見たとき、完成度の高さを感じるのはLVMH PRIZEだ。ビジネスで即戦力となる才能に焦点を当てているLVMH PRIZEなら、それは当然の結果だと思う。

イエールで発表されるデザインはLVMH PRIZEよりも傾向的に装飾過多な服が多く、荒々しく感じることも多い。けれど、その荒々しさが瑞々しくもあり、それが魅力でもある。今年2018年のファイナリストで特に目を惹いたのはマリー=エヴ・ルカヴァリエ(Marie-Ève Lecavalier)だ。

目に飛び込むのはベージュやホワイト、オフホワイトに淡いデニムといったソフトな色使い。服の造形はシンプルで、スタイルもシャツやニット、デニムといったベーシックアイテムを組み合わせデザインを展開していく。全体の印象はミニマリズムに通じる削ぎ落とされた美しさ。しかし、その印象とは真逆の要素が入り込んでいることにすぐ気がつく。

赤や青、ピンクと緑といった色を、ビビットではなく優しいトーンで用いながらマーブル模様を描いた素材でシンプルなアイテムを作り上げる。なだらかな曲線は素材だけにとどまらない。ブルゾンやコートといったアイテムに、マーブル模様から派生した曲線カットがヘムラインや衿端に施され、見慣れたはずのベーシックアイテムがまったく印象の異なるアイテムへとその様相を変貌する。

デコラティブなのにシンプル。リアルなのにファンタジー。強烈で鮮烈なインパクトはないのに、心惹かれていくデザイン。その独特の曲線カットには植物的な匂いも感じる。思い出されたもの、それはアールヌーボーだった。

「アール・ヌーヴォー(フランス語: Art Nouveau)は、19世紀末から20世紀初頭にかけてヨーロッパを中心に開花した国際的な美術運動。『新しい芸術』を意味する。花や植物などの有機的なモチーフや自由曲線の組み合わせによる従来の様式に囚われない装飾性や、鉄やガラスといった当時の新素材の利用などが特徴。分野としては建築、工芸品、グラフィックデザインなど多岐にわたった」 Wikipediaより

ミニマリズムといえば、ヘルムート・ラングやジル・サンダーのデザインを見ればわかる通り、直線カットがソリッドでクールな印象を与える。

しかし、マリー=エヴ・ルカヴァリエのデザインは違う。植物が衣服との融合を図るかのように、柔らかく優しく穏やか。しかし、フェミニンではなくモダンなワードローブのようなクールさもやはり漂わしている。現代のベーシックウェアを、アールヌーボーのフィルターを通してリデザインしたような服に仕上がっている。

今、ファッションデザインはインスタグラムの影響もあり、装飾性が増す傾向にある。その時代感を捉えた上で、曲線をモチーフにアールヌーボーなフォルムをデザインしていることが、例えば強烈なインパクトをもたらすグラフィックを用いたヨウジヤマモトとは異なるインスタグラムなエレガンスを作り出している。アールヌーボーとミニマリズム。その言葉の響きの気持ちよさに僕は浸りたくなる。

LVMH PRIZEの登場によって存在感が弱くなってきて今後が気になるイエールだが、できるならLVMH PRIZEと異なるコンテクストの才能を今後も見出してほしい。LVMH PRIZEが選出するブランドは洗練されている。けれど、ときには荒々しい感性が魅力だったりする。そこには未来への想像が広く大きく広がっていく体験が伴っている。完璧さとは異なる魅力に惹かれる。それも人間の性だろう。その人間の性を、イエールは発掘し続けてくれたらと願う。それが、ヴィクター&ロルフを世に送り出したコンペの使命ではないだろうか。

〈了〉

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