ヴァカレロが描く闇夜のサンローラン

AFFECTUS No.97

エディ・スリマンが作り上げた世界を引き継ぎ、そこからさらに自身の世界を構築してメゾンの伝統と融合させ、モダンなサンローラン像を描くアンソニー・ヴァカレロ。前任者のエディとヴァカレロのサンローランでは、そのムードは共通するがイメージは異なる。

エディが、ロックでエッジで若者たちがアメリカな古着をスキニーシルエットで着こなすイメージなら、ヴェカレロはエディ同様に若者がターゲットでありながら、よりイヴ・サンローランに密接したドレッシーなイメージだ。

僕がヴァカレロのサンローランを見ていて思い出すのは、1970年代にヘルムート・ニュートンが撮影したサンローランのスモーキング。ヴァカレロは、ヘルムート・ニュートンが写したSM的濃厚さと妖艶さを併せ持ったイヴ・サンローランを、ターゲットは若者たちのまま、現代に合う形で再現させている。

ヘルムート・ニュートンが写した写真に映るのは二人の女性。彼女たちは夜の街の通りに佇む。一人はスモーキングを着用し、男性的礼装のスタイル。もう一人の女性は、全身に何一つ服は着ておらず、裸で胸を露わにして足元には黒いヒール。なんともスキャンダラスな姿だ。

そして、その二人の女性がキスをしている。現代の時代感を、40年以上前に写したような先端性に満ちた写真になっている。

濃厚なセクシーと両性具有的精神、モノクロ写真が醸す力強く鋭い空気。1970年代のサンローランを、現代的にする試み。それが、僕にとってのヴァカレロのサンローラン。

夜の闇が似合うヴァカレロのサンローランは、2019SSコレクションでその闇の濃さをさらに増す。会場はパリのトロカデロ庭園。闇夜の中、エッフェル塔をバックにショーは開催される。モデルたちはランウェイと化した水面を、ヒールで水しぶきをあげながらまっすぐに進む。

ダークなストイシズムがあふれるスタイルには、誰かに媚びる頼りなさはない。独力で道を切り拓く。それを感じさせるのは、あのヘルムート・ニュートンの世界観を投影させたような圧倒的なセクシー。

セクシーは色気で人を挑発するだけのものではない。人間が持つ強さを内面から立ち上げ、立ち振る舞いを力強くさせる。ヴァカレロは、セクシーの持つ効用が初めから理解していたかのように、そのパワーをファッションに映し出す。

そして、ヴァカレロは希少な独創性を発揮する。たしかにヴァカレロのサンローランは、アンドロジナスなイメージを受ける。しかし、一方で女性だけしか持ち得ない女性だけの美しさも表現しているのだ。

この2軸が同時に存在するデザインは、他のブランドでは見ることのできない希少性に満ちたものだ。

今、時代はジェンダーレスが普遍的価値となり、ファッションデザイナーの必須科目となっている。その時代の問いに対して、ヴァカレロは類を見ないオリジナリティに満ちた解答を示す。アンドロジナスでありながら、フェミニンであるという解答を。

ショーのフィナーレ、エッフェル塔はライトによって白く灯される。

サンローランはエディ・スリマンの世界から脱却し、完璧に新しい世界が構築されている。アンソニー・ヴァカレロはメゾンを未来へ進める。闇夜の先にある光に向かって。

〈了〉

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