新境地を開拓するドリス・ヴァン・ノッテン

AFFECTUS No.98

ドリス・ヴァン・ノッテンという名前を聞いて、僕の頭に浮かぶイメージは刺繍やプリントに代表される民族的香り、エスニック&クラフトな技巧性と古典的優雅さを讃えるようなクラシズムだった。

今、時代はこれまで「醜い」「ダサい」「カッコ悪い」とされてきた価値観の中から、次の時代の新しい美しさを提案するデザインが主流となっている。そこから派生した装飾性の高さがトレンドとなって、ファッション界を席巻している。

そういう流れで言えば、装飾性が求められる時代はドリスにとって追い風とも言える。まさにドリスの時代と思えるほどに。しかし、2019SSコレクションでドリスが見せたデザインは、そんな時代の追い風を避けるように装飾性から一歩下がるデザインだった。

まず、今回の会場のムードに僕は驚く。真っ白な空間に柔らかい太陽の光が差し込み、とてもソフトでクリーンなムードを演出していた。美術館のホワイトルームをもっと清廉としたような、コンテンポラリーな空間だったのだ。

これは僕が抱いていた、冒頭で述べたドリスのイメージと全く真逆のイメージだった。そして、コレクションはさらなる驚きを僕にもたらす。

一言で言って、とてもシティでコンテンポラリーなムードなのだ。いつもの土着性高いカラーは控えめに、ミラノやニューヨークのブランドが持つような、白をベースカラーにイエローやブルー、オレンジを差し込み、ハイセンスなモダニティを展開していた。

想像以上に刺繍やプリントといったグラフィカルな要素が抑えられ(それでも他のブランドに比べれば強いが)、無地の生地が占めるスペースが多い。もちろんプリントも展開されているのだが、そのデザインもニューヨークの現代アーティストが描く抽象絵画のようで、やはり民族性は見受けられない。

サマーシーズンにふさわしい、軽やかに色彩が遊ぶ服がそこにはあった。クリーンなドリスという新境地を見せられ、僕はこのコレクションに魅入った。

一見すると、時代のトレンドから一歩引いたデザインに見える。しかし、2019SSシーズンの傾向で言えば、このデザインは逆に時代を捉えていた。装飾性への反動から、各国のコレクションではクリーンでシンプルな服を発表するブランドが散見された。次の新しい波の訪れを予感するように。

ドリスの最新モードは、その時代の波長を捉えた。自らの文学性である装飾性をあえて引き算し、ミニマリズムに通じるクリーンさを演出する。装飾性という時代から一歩下がること、それが逆に時代の新しい波を表現していたのだ。

まだこんな才能があったのか。純粋にそう驚かされた。アントワープ6の中で最も成功しているドリス・ヴァン・ノッテン。その実力をまざまざと見せつけられ、そのハイセンスなエレガンスにうなる。

ドリスが描く女性は、未来を美しく生きる。僕はそう確信する。

〈了〉

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