伝説のブランド、ポワレ再興なるか

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AFFECTUS No.99

パリは世界で最高のクリエイティビティを競う場。毎回コレクションシーズンが開幕し、各国で発表されるブランドたちのコレクションを見て思うことだった。その傾向は2019SSシーズンでも僕の中で変わることはなく、パリに入るとコレクションのクリエイティビティが一段上がる印象はいつもと同じだった。

そんなパリにあって物足りないことがあった。それは新しい才能の出現だ。中堅・ベテランの活躍が目立ち、僕がパリコレクションに興味を持ち始めた2000年前後に比べて、新しい才能の出現率が低下したように感じている(今、新しい才能を見るならロンドンとニューヨークが面白い)。

しかし、一つ気になるブランドをパリコレクションで発見する。ブランド自体は新しくはない。むしろ伝説と言っていい歴史がある。ブランド名は「Poiret(ポワレ)」。服装史に名前が必ず登場するポール・ポワレのブランドが、新たに復活したブランドになる。

2015年、韓国の投資会社、新世界インターナショナルが買収し、ディレクターに中国人デザイナーのイーキン・ヤンを指名し、2018AWシーズンからスタートしたばかりの「古くも新しい」ブランドだ。

ディレクターに指名されたイーキン・ヤンを僕は全く知らなかったため、今回調べてみると、若い頃から評価されてきた実力派であることがわかった。

1985年生まれのイーキン・ヤンは、2010年にヴィクター&ロルフを発掘したことで知られるイエールモードフェスティバルのファイナリストに選出され、翌年2011年6月にはアンダム・ファッション・アワードにも選出される。ちなみに同年のアンダムのグランプリは、現サンローランのディレクター、アンソニー・ヴァカレロである。アンダムは初代グランプリがマルタン・マルジェラであり、若い才能の発掘と支援に歴史があるプロを対象にしたアワードになる。

ヤンのデザインを僕は全く見たことがなかったため、今回のポワレのコレクションが初見になった。見た瞬間感じたのは、かなりの好印象だった。

繊細な薄手の布を、美しく舞わせ、その舞う布に乗せられた甘く明るい色使いがとてもエレガントで、その美しさに僕は惹かれた。

ブランドの歴史は古い。しかし、デザインには古さはなく、むしろさ若々しい新鮮さを意識的に取り入れ、ポワレが持つ歴史と融合させ、うまいバランスの年齢層の服に着地させている。幼すぎず、かといってミセスブランドのようなデザインでもない。そのバランス感は、確かな実力を感じさせる。

シグネチャーアイテムになるであろうドレスは、流麗感あるシルエットがスレンダーで、抽象的な造形を形作りながらもリアルなドレスという印象。ドレスだけではなく、コートやショートパンツ、ブルゾンなど、現代のベーシックアイテムに甘いトーンの色を乗せたアイテムも披露している。

リアル&モダンなセンスを感じさせる服だ。このセンスが維持され、コレクションを重ねていったら、かなりカッコいいウィメンズに成長しそうな予感が僕の頭を過ぎった。

正直、近年このように偉大な歴史を持ったブランドの再興が、うまくいったケースは少ないように思う。ヴィオネはいまいち上昇気流に乗れていない。スキャパレリは徐々に存在感を発揮してきたが、まだそこまでのインパクトをもたらしていない。

ポワレはどうなるだろうか。ヤンのコレクション自体には確かなセンスがある。あとはマーケティング次第ではないだろうか。良い服を作って、ショーで発表しているだけでは売れない時代だ。どのようにブランドの認知度を高め、ターゲットに魅力を感じてもらうようにするか。その腕がポワレの未来を左右するように思う。

静かな期待を込めて、継続して見ていきたいブランドだ。果たして、伝説のブランドは再興となるだろうか。

〈了〉

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