AFFECTUS No.103
僕はドラマを観るのが好きだ。今クールも何本か観ているのだが、その中でとても印象に残ったドラマがある。それが、TBSで金曜22:00に放送される『大恋愛』だった。戸田恵梨香とムロツヨシが主演のラブストーリーだ。
以下、ネタバレを多少なりとも含むため、それを承知の上で読み進めていただけたら。けれど「ネタバレなんて全然気にしない!」という方は、そのまま読み進めて欲しい。
このドラマ、第1話を観たとき、正直そこまで面白いとは思わず、続きを観る気にはなれなかった。そもそも、僕はラブストーリーが好きではない。それが理由の一つでもある。『大恋愛』というタイトルからして、観たいと思えるものではなかった。
それでも観たのは習慣だった。僕はTBSの金曜22:00枠のドラマを毎クール、タイマーに設定して録画している。この枠は面白いドラマが放送される確率が高いからだ。
そして、戸田恵梨香が出演していたこと。それが大きな理由だった。僕は同じTBSドラマで、金曜22:00の枠で放送されていた『SPEC』を観て以来、戸田恵梨香の演技が好きになった。『SPEC』で鼻に指を突っ込んでほじったり、大食いをしたり、ユーモアを混ぜながらシリアスに謎を解いていく戸田恵梨香は、今でも僕の中でベストの戸田恵梨香だ。
そんな理由もあり、第1話を僕は観始めた。しかし、時間が進むにつれ、面白さを感じられなくなっていた。
一番の理由は、戸田恵梨香演じる女医が、結婚式を目前に控え、新居への引っ越しをして自身もそのことに幸せを感じながらも、夫になる男性とは別の、引っ越しで訪れた引っ越し業者の会ったばかりの男性(ムロツヨシ)に「なんでそんな簡単に惹かれちゃうの?」という疑問だった。その疑問がドラマへの興味を冷めさせた。
ムロツヨシ演じる引っ越し業者の男性は、戸田恵梨香演じる女医が大好きな小説を書いた作家だった(男性はもう小説を書いていない)。でも、その事実を知る前から、女医(戸田恵梨香)はかなり積極的にアプローチしている。元小説家の男性(ムロツヨシ)自身も不思議に思うほどに。
そのシーンを観ていて「展開強引すぎないか?」と思い、興ざめしてしまったのである。
そんな理由で、続きを観る気はしなかったが、タイマーをセットしたままだったので第2話も録画され、もう一度ぐらい観るかというノリで第2話を観た。
ところが、だ。
そこで僕の気持ちは一変してしまった。このドラマはずっと観続ける。そういう気持ちへ振り切れた。
何がそうさせたのか。それは第2話の終盤に訪れたシーンだった。そこが心の内側の深いところへ、グッと響いてきた。
戸田恵梨香は、ムロツヨシとの思い出がある居酒屋で一人飲んだ後、病気の影響で自分が今どこにいるのかわからなくなる。そこで頼ったのが、別れたはずのムロツヨシだった。
そこからのシーンがとてもよかった(詳細の説明は控える)。二人が相手へ抱く想い「好き」から自然に出てきた言葉が、シンプルだけど、ありのままの言葉がとても良くて、その飾らない言葉が、第1話でこのドラマへ抱いた僕の印象を一変させた。
そして僕は、あることに気づく。好きから生まれる、ありのままの飾らない言葉は、人の心に響く。そのことに。
ファッション界を取り巻く環境は、ネガティブな声が多い。服飾専門学校の学生数は減少の一途をたどり、若者たちがファッション界で働くことを目指さなくなった。メディアから発信される業界の記事も、課題の多さを指摘し、ファッション界の苦境を伝えることが多い。
そんな時代だからこそ、僕は自分にできることで「次世代の新しいファッション好きを増やしたい」という思いになった。それが、このAFFECTUSだった。大好きなファッションが、これからもずっと楽しみたい。そのためには、既存のファッション好きだけでなく、今ファッションに興味を持っていない、もしくは興味はあるけど距離を置いている人たちが、ファッションへの興味を抱く「きっかけ」を自分でどうにか作りたかった。それが、どんなに微力であっても。
AFFECTUS(アフェクトゥス)とは、ラテン語で「感情」を意味する。ファッションから感じた感情をどこまでも突き詰めて、その感情にふさわしい言葉を探し当て伝える。そのコンセプトが、様々な言語の源流にもなるラテン語、そのラテン語の「感情」を意味する単語をタイトルに選んだ理由だった。
わかりやすさや役に立つかどうか。コンテンツを提供する上で、それはとても大切だろう。事実、そういうコンテンツは大きな反応が得られる確率が高い。
しかし、新しい人たちを振り向かせるには、自分の好きを語ることが大切なのではないか。自分の好きを熱量を持って語ること。いや、好きを語っていたら、自然に熱は生まれてくる。その熱が、人を振り向かせるきっかけになる。
自分の「好き」というシンプルな感情から生まれた、ありのままの飾らない言葉は、その言葉に強さがなくとも聞いている人の心に響く。
その事実を僕は大切にしたい。
今日も誰かがどこかで、自分の好きな服について笑顔で語ることを願って。
〈了〉