オーラリーの武器は素材ではない

AFFECTUS No.104

先日、「FASHION PRIZE OF TOKYO」の第2回受賞デザイナーに「オーラリー(AURALEE)」の岩井良太氏が選出された。この受賞によってオーラリーは2019AWシーズンと2020SSシーズンに、パリでコレクションを発表することになった。発表形式はショーではなく、インスタレーションとのこと。いずれにせよ、現在日本で大人気となっているブランドが、とうとう本格的に海外、しかもモードの中心、パリへ進出することになった。

オーラリーがデビューしたのは2015AWシーズン。僕がオーラリーを知ったのも、このデビューシーズンで偶然デザイナーの岩井良太氏のインタビューをウェブで読んだことがきっかけだった。澄んだ空気のルックとシンプルなデザインの服がとても印象的で、これは面白いブランドが出てきたと感じた。

オーラリーは岩井氏が単独で設立したブランドではない。背景となっている会社がある。それは、生地会社のクリップクロップである。一般的には全く知られていないが、規模は小さいながらも企画する生地のクオリティから業界内では有名な生地会社である。高級原料を用いた天然素材に定評があり、いわゆるキレイめ生地を得意とする。その生地の肌触りは、なめらかで気持ちよく、高級感を感じさせる。

そのクリップクロップが母体となり、オーラリーはスタートした(現在は、株式会社オーラリーが設立されている)。そのような立ち上げ経緯であるため、オーラリーの武器は素材だ。そう言われている。ブランドサイトにもこう述べられている。

「世界中から厳選した原料と日本屈指の生産背景で本当に良いと思える素材を追求。その素材の個性を活かし、時代の気分を反映しながら、上質で洗練された洋服を提案します」AURALEE OFFICIAL WEB SITEより

しかし、僕の見解では違う。オーラリーの武器は素材ではない。

オーラリー最大の武器は「スタイル」だ。グレードの高い素材をゆったりとした量感のシルエットに、明るいながらも土っぽいくすみを感じさせるカラーが特徴の素材を贅沢に使ったアイテム。そのアイテムを組み合わせ生まれたスタイルが、色気を派生している。

ナチュラル&リラックスに、ほんのりと混ぜられた色気。セクシーと言うほどの色っぽさではない。ほんのり微かに匂う。そういう類の色気だ。そのスタイルがオーラリーの武器となっている。

オーラリーが青山に直営をオープンして間もない頃、僕はショップを訪れた。ショップ内にはお客が多く訪れていた。ブランドの人気の高さを実感する。その中に、まだ20代前半と思われる若い男の子が二人いた。彼らは、キャメルやベージュといった色味で、ゆったりとしたトップスと、腰回りを膨らませながらテーパードしていくパンツを穿いていた。

まさにオーラリースタイルであり、そこには確かに挑発的ではない、新鮮で爽やかな色気がにじんでいた。

オーラリーの価格は決して安くない。だが、高額の素材を使い、リラックスシルエットのため、使用する素材の分量(用尺)も大きくなる。そのため、一着の原価は高額に思われる。そう思うと、オーラリーはクオリティの高さに比べて商品価格がお手頃に設定されていると僕は感じる。

しかし、現在の価値観から言えば、オーラリーの価格は高く感じられるだろう。だが、それでも若い人たちが購入している。正直「素材がいい」というただそれだけの理由で、今の若い人たちが服を買うとは思えない。モノの情報を事前にチェックし、商品の価値を見定めようとするのが当たり前の習慣になった今の若者たちが。

ファッションデザインは、スタイルを作ることが何よりも重要だ。そのスタイルを見たら、ブランドを想像させる。一瞬にして魅了するオリジナルスタイルを作れるかどうか。シルエットや色使い、素材を考えるよりも、デザイナーがまず打ち立てる必要があるのは、そのブランド、そのデザイナーならではのスタイル。

オーラリーには、そのオリジナルスタイルが確立されていた。おそらくオーラリーは、素材のクオリティがありふれていたとしても、現在の日本の市場なら売れただろう。

そして、冒頭で述べたようにオーラリーがパリで発表する。僕はこのニュースに驚いた。意外だったのである。正直、僕にはオーラリーにはモードな匂いを感じない。メディアで「モードなテイストもある」と表現されるのを度々目にしていたが、僕は疑問であった。

モードはコンテクスト=トレンドを捉えて、そこに自分の解釈を打ち込み、モード史を前進させる挑戦的な姿勢をデザインする。

しかし、オーラリーの服を僕は何度も見てきたが、モードな匂いを感じたことは一度もなかった。オーラリーは、デザイナーの岩井氏が理想とする服を、究極的に突き詰めた服。私小説的な趣がある極めて内省的な服。それが僕の感じたオーラリーの印象だった。それが商品の特徴を際立たせ、ターゲットに響き、人気にもなったと推測する。

パリでは強いデザイン性が求めれる。モード史の前進こそがもっとも価値がある。果たしてオーラリーのデザインが、パリモードの文脈でどう評価されるのか。現在の日本の象徴となるデザインが、どのようにパリで受け止められるのか。そしてオーラリー自身が、どのようなデザインを発表するのか。2019AWコレクションを待ちたい。

〈了〉

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