TikTokとZ世代が変えるファッション

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AFFECTUS No.106

最近よく耳にし、かつ気になっていた単語がある。それが「TikTok」と「Z世代」だ。今や若者たちに絶大な人気となり、月間アクティブユーザー数が世界中で5億人(2018年7月時点)を突破したアプリと、ミレニアル世代の次を担うデジタルネイティブの新世代。その二つが僕は気になっていた。

ファッションは時代の潮流が服という形になったもの。そして、ファッションの新しいトレンドを作り出すのは若者。そういうファッションが持つデザインの特性上、時代の新しい潮流を知りたくなるというのは自然な考えだった。そんな折、ある二つのウェブ記事を読んだ。

一つ目はこちらの記事。Z世代に関するレポートだ。

CRITEO「ミレニアル世代 vs Z世代:押さえておくべき4つの違いと特徴」

Z世代とは、現在16歳から24歳となる年齢層であり、高速インターネット、スマートフォン、様々なゲーム機器、SNSなどが当たり前のように存在して、それを体験してきた生粋のデジタルネイティブ世代のこと。

詳しい内容は記事を読んでもらいたいが、レポートによって浮かび上がったZ世代の特徴の中で、ファッションデザイン視点で読んだ時に目を惹いた特徴が以下の二つだった。

・完璧を求めない世代
・アピールしたいのは「自分独自のスタイル」

レポートによれば、Z世代は現実的な視点を持っている。かつての時代、若者たちなら誰もが憧れて手に入れたいと思っていた生活、しかし、Z世代にとってテレビの向こうに存在する完璧に幸福な生活はリアリティに欠けて魅力的ではない。むしろ彼らが興味を惹くのは、世界をリアルに映し出したもの。

Z世代は周りと同じように見られることを嫌い、自分独自のスタイルを最も大切にする。Z世代が求めているのは個性的な商品。ゆえに、それは個性の尊重という価値観にもつながる。

そして、上記のZ世代のレポートと前後して読んだのが、こちらのTikTokに関する記事だった。

BACKYARD「モチベーションは『有名になること』?企業のTikTok活用キャンペーン事例4選!」

こちらも詳しい内容は記事を読んでもらいたいが、この記事を読んで感じたのは、ミレニアル世代よりも若い世代=Z世代の中で価値観が変わってきたということだった。

僕はこれまで「今」を次のように捉えていた。

「かつては憧れだったメディアの向こうのスーパースターよりも、自分の価値観に共感できる、もっと距離の近い人や物を最も大切にする、憧れよりも共感の時代」

先日、僕は実際にTikTokをダウンロードし、数日間アプリに投稿されている動画を観続けた。

そこで感じた動画の特徴があった。

「想像外のとびっきりに驚くアイデアを映像化した動画ではなく、みんなが共通して面白いと思っているアイデアを可視化した動画」

動画を観た瞬間に「え!?なにこれ!?すごすぎる!!」というよりも、動画を観る前には想像してなかったのだが、観た後に「そうそう、これ!これって面白いよね〜!」というふうに気づかされるアイデアの動画が多いように感じた。

再び「憧れ」の時代が訪れようとしているのは確かだが、その憧れはかつての時代のような遠い憧れではなく、もっと距離感の近い憧れ。これは、先のZ世代のレポートでピックアップされていたリアリティを重視するZ世代の特徴と合致する。

ファッションデザインには、こういう熱のある現象が大きな影響力を及ぼす確率が高い。だから、この現象を注視する必要性を強く実感した。

そして同時にこうも思う。

「シンプルで着心地が良くてお手軽な安い服」

そんな服は売れなくなる時代が、そう遠くない未来に訪れるのではないかと。次の結論が導き出される。

「ファッションに個性が必要とされる時代がやってくる。いや、もうすでに来ている」

最近見た中で目を惹いたものがもう一つあった。それが、Vogue Runwayがコレクションシーズンに写す各国のストリートスナップだ。

撮影されたスタイルが、明らかに以前よりも強烈な個性を帯びてきている。Vogueが写すのだから、個性的なスタイルが多くて当然だろうと思う方もいるかもしれない。しかし、以前からこのストリートスナップを見てきた僕には、以前のVogueが写すストリートスナップには、今ほどのアクの強いファッションは写ってなかった。明らかに、市場の人々の個性を表現する濃度が上がってきている。

だが、確かにデザインの個性は増しているが、上がりすぎてもいけない。手に届く近さの距離感が重要なのだ。「近い憧れ」が新しい世代のファッションには求められる。

そんな時代にどんなデザインアプローチが求められるのか。圧倒的な世界観を演出するデザインは、時代遅れになるのではないか。重要になるのはカスタマー視点だ。その視点の大切さは、独自性が求められるモードブランドでも変わらない。

デザイナーは自身の個性を突き詰めて世界観を演出するよりも、まずは「誰のため」のファッションを作るのかという視点が鍵になる。

これまでのモードブランドは「デザイナーのため」のファッションだった。デザイナーが自身の世界観を究極的に突き詰めて表現し、そこに強烈な憧れを見る者=カスタマーに抱かせる。それが、クールなビジュアルであり、ファンタスティックなショーであった。それがこれまでのモード。

だが、従来のモードのデザインアプローチではこれからの時代にはフィットしないのではないか、ズレが生じるのではないか、と危惧するようになる。デザイナーの私的世界観を究極的に突き詰めたスタイルでは、Z世代の持つ感覚とは距離があるように感じたのだ。

デザイナーが自身の個性を、自分のためではなく誰かのために活かす。カスタマー視点を意識しながら、デザイナーが自身の個性を活かして、デザインにそのデザイナーならではの個性を表現する。そうやって「近い憧れ」を作る。

今までよりも距離感の近いモードだと言えよう。そう考えると、エディ・スリマンはまさしくそのスタイルに該当する。自らカメラを携え、エディがターゲットにする「ロックに陶酔する若者たち」の集まる場へ赴き、写し取る。ターゲットの生態を記録し、その生態にふさわしいファッションをデザインしていく。

業界から批判の多いエディが、その批判に反してビジネス的に成功するのは、エディの創作スタイルが現代の時代感に合っているからだろう。

1940年代、ファッションの中心はオートクチュールだった。しかし、その後オートクチュールの勢いは減退し、プレタポルテへとファッションの中心は移行した。これからもファッションの中心はまだプレタポルテだろう。しかし、今のコレクション形式の発表がこのまま続くと断言するには、時代の変化が大きすぎる。

一つの制度が永遠に続くことはない。必ず転換点がやってくる。

今日、「foufou(フーフー)」が初めて行うインスタライブを見ていた。純粋に面白かった。その後、すぐにオンライン上で販売された新商品2型も即時完売。フォロワーとの近さと熱、それがブランドの間に醸成されているように感じ、新しい時代の新しいデザインに思える。

今、ファッションデザインは拡張している。服をデザインすることだけが、デザイナーの仕事ではない。ブランドのファンを作ること、そしてファンとの距離感、それも今やファッションデザインになっている。

時代の変化にモードはどうなるのか。その鍵を握るのはZ世代だろう。

〈了〉

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