A-Cold-Wallの描くスペーシー

AFFECTUS No.115

新年を迎え、ファッション界は新シーズンが開幕した。2019AWシーズンの開幕である。スタートを切ったのはロンドンメンズコレクション。新人の育成場所とも言えるロンドンだが、2019AWシーズンでも荒々しく荒削りながら、目を惹く才能が散見された。今回はロンドン注目の若手をフォーカスしたい。

その前に簡単ではあるが、先シーズンの2019SSシーズンで見られたデザインコンテクストを改めて振り返ってみよう。そこから2019AWシーズンでどのような動きが出てくるのか把握することが、ファッションデザインの大枠を捉え、今後のデザインがどの方角へ進むのかの目安となるだろう。

2019AWシーズンで私が最も注目したデザインは、ニューヨーク(NY)から見られた。ベースはシンプルでクリーンなウェアでありながら、最小限の数でアヴァンギャルドな要素を盛り込んだデザインを、僕は「NYアヴァンギャルド」と呼んだ。

現在のコンテクストの中心を占めるアグリー&レイヤーのデコラティブなストリートウェアは、素材・色・柄・ディテールといった服の要素を盛りに持った重層的「ダサさ」を備えたデザインだ。その流れに対してNYアヴァンギャルドは、クリーンでシンプル。その中にデコラティブな要素をミニマム&ダイナミックに表現している。例えば、シンプルな白いシャツに、斜めに傾いた極端に大きい胸ポケットがついている。そのようなタイプのデザインだ。

装飾性濃いストリートウェアに対して、クリーンでシンプルなウェアが現れてくるのは自然の流れ。では2019AWがスタートしたロンドンでは、どのような動きが見られるだろう。その中でも僕が注目したブランドをピックアップしたい。

それは「A-Cold-Wall(ア コールド ウォール)」(以下ACW)というブランドだ。デザイナーの名前はサミュエル・ロス(Samuel Ross)。2015年にブランドはスタートした。

ACWのデザインは、イギリスの階級社会の差をデザインに落とし込むという、難度の高いアプローチを行っている。ブランドネームの「冷たい壁」もそこからきている。そのことについてロスはこう語っている。

「例えばロンドンのケンジントンに大理石の壁がある豪邸に住んでいる子がいるとしよう、その子の『冷たい壁(Cold Wall)』は大理石の壁を触った時の冷たい感触。……一方、じゃりの壁で作られた公営住宅に住んでいる子がそれを触った時の冷たい感触は、僕が個人的に経験したものでもある。このブランドはその両サイドが感じる共通の感覚から由来したんだ。大理石の壁の家に住んでいる子とじゃりの壁で作られた家に住んでいる子のそれぞれの経験を融合させたかったのもあるよ」HYPEBESTより

スタイルはワークウェアとストリートのエッセンスが色濃く香りながらも、テーラードジャケットが混ぜられ、スマートさがにじむ。

ロスはグラフィックデザインの勉強をしており、その仕事からキャリアはスタートしている。そして、オフホワイトのデザイナーであり、ルイ ヴィトンのメンズディレクターであるヴァージル・アブローの下で仕事をするというキャリアを持っている。まさにストリート全盛の今では、注目を浴びるキャリアのコースだ。

そして、2019AWロンドンメンズで僕が目を惹いたのが、このAWCのコレクションだった。そのデザインを一言で言うと「スペーシーウェア」だ。光沢感のある素材や、1960年代のアンドレ・クレージュのカッティングを思わすフォルム、そしてそれらの融合したイメージは同じく60年代のパコ・ラバンヌを思い起こすフューチャーな空気を立ち上がっていた。

ベースはワークウェアというよりはスポーティに近い。クリーンな印象さえある。しかし、そこに、角に丸みをつけた長方形の穴が幾つもあいた服であったり、服を横断する曲線的な切替が60年代エッセンスの宇宙世界のイメージを醸す。

そのスタイルは、まるで未来のブルーワーカーが現代にタイプスリップしてきたかのようだ。プリントや柄はあるにはあるが、その数は少なく、絵画的装飾性はない。だが、先述の服に開けられた穴や大胆な曲線的切替が、服の印象をシンプルにはさせない。

スマートでスポーティ、けれどワークな香り香るブルーワーカーウェア。そこにスペーシーな味付けを行う。そのいくつも重なりなったイメージを宇宙で覆い尽くす。結果、強烈なインパクトはないながらも不思議なムードを放ち、僕の目は自然と惹きつけられていた。

スペーシーというのは冷たさとも言えるのだが、それはブランド名の「冷たい壁」に通じる。AWCの服は、冷たく薄汚れた壁が服へと具現化したようなダスティでクールなイメージがある。

AWCは、現在の最重要コンテクストである重層的な装飾性の濃いストリートに対して、カジュアルでラフという点では共通項がありながらもクリーンで別軸を作り、だがそこに未来感にじむスペーシーテイストを混ぜて、リアリティ色が強いNYアヴァンギャルドとも異なる立ち位置を示している。

このスペーシーという要素は、AWCに限った話ではなくロンドンでは他の若手ブランドでもよく見られたイメージだった。同じぐらい多いのがワークウェアベースのデザインである。スペーシーとワークウェア、この組み合わせが僕には印象深い。この極端な組み合わせは、一体何を意味していくだろう。

ファッションから離れるが、気になる時代の動きがある。それはamazonがリアル店舗を出店するように、オフラインとオンラインの融合である。中国のイーコマース最大手のアリババは、イーコマースで得た知見をフルに生かした「フーマー・フレッシュ」というリアルの生鮮スーパーを出店している。

今までインターネット上での体験が重視されてきたが、リアルな体験が見直され始め、両者の融合が図られている。最近ではD2C(Direct to Consumer)が注目を浴びるのも、その流れに思える。両極端な要素の融合。ロンドンメンズで目立っていたのも、両極端な要素の融合であった。その代表が、スペーシー&ワークウェアである。

ファッションは時代を着るもの。時代の動きはファッションに現れ出す。とりわけ、ファッションは時代の中心となる産業の影響を大きく受ける。金融ビジネスが謳歌した1980年代では、パワーショルダーのジャケットスタイルがトレンドを賑わしたように、今、ファッションがカジュアル全盛なのは、時代の中心であるIT企業のカジュアルな服装に理由の一つがあると僕は捉えている。その意味で、未来のファッションデザインを捉えるには、ファッションだけではなくビジネスシーンのトレンドにも十分に注目している必要がある。ファッションはいわば時代の空気を吸って成長していく生鮮食品。人々の生活と気分がダイレクトに反映される商品だ。

ロンドンメンズで見られたスペーシー&ワークウェアが、2019AWシーズンでまず見られた最初の特徴といえよう。これがロンドン特有のものなのか、それともこのあと続くミラノ、パリにも現れてくるのか、そこに注目したい。そしてAWCについては、またの別の機会にピックアップしたい。

〈了〉

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