AFFECTUS No.118
ルーク・メイヤーがシグネチャーブランド「OAMC(オーエーエムシー)」をスタートさせたのは2014年。以降、ブランドの評価は高まり、2017年からは妻のルーシー・メイヤーと共にジル・サンダーのクリエイティブ・ディレクターに指名されるまでになった。
ここ数シーズン、OAMCで見せるルークのクリエイティビティがキレを増してきている。先ごろ発表された2019AWメンズコレクションでは、トレンドのデコラティブなストリートの「次」を示すビジョンを、僕らの前に提示した。
ソリッドでクールな素材、グレーやブラックといったベーシックカラーをベースにしたミニマムな色使い、ワークウェアの機能性を思い起こす身体にリラックスを与えるシルエット、バウハウスのデザイン理論が綴られた『バウハウス叢書(そうしょ)』のカバーデザインをイメージさせるクールでフラットなグラフィック。
その各要素が一体となったスタイルは、その外観のクリーンな佇まいとは裏腹にストリートスタイルをアップデートする革新性を感じさせた。
このスタイルには、先ほど述べたようにストリートの枠に限定されるものではなく、ワークウェア、クラシックの要素も混合されている。ライトグレーのセットアップが印象的だ。ジャケットは肩から落ちるドロップショルダーで3つボタン。丈もヒップを隠すぐらい長めで、全体から感じるのは野暮ったさ。ジャケット単体の印象は洗練とは遠い。しかし、同色同素材のパンツをスタリングするとそのルックは、静謐な美しさを備えたモダニティを獲得している。
僕は先ほど「バウハウス」という言葉を用いたが、今回のOAMCからはバウハウスに端を発する硬質なクールを伴う魅力を感じる。マルセル・ブロイヤー、ディーター・ラムス、F.A.ポルシェ、ハルトムット・エスリンガーといった伝説のプロダクトデザイナーたちがファッションをデザインしたら。そんな想像を掻き立てる、装飾性を極限まで削ぎ落とした際に現れるエレガンスを備えた衣服。今のOAMCには、そんなイメージを感じてしまうのだ。
ルークはストリートの王様シュプリームでヘッドデザイナーを務めていたキャリアを持つ。現在のファッション界では垂涎の的となるキャリアである。しかし、今彼が放つデザインはストリートから脱却し、次への模索を始まった。
ストリート×ワークウェア×クラシックにミニマリズムのエッセンスを振り掛ける。そう形容したくなる現在のOAMCは、新しい時代へ向かっていく近未来感が香ってくる。
僕は何度もOAMCのニューコレクションを眺めてしまう。そして思うのだ。「着てみたい」と。ルーク・メイヤーのビジョンに僕は強く惹きつけられている。
ルーク・メイヤーはスマートにクールに、ストリートを次へ導く。モードの中心で。
〈了〉