AFFECTUS No.117
2019AWシーズン、 宮下貴裕がパリコレクションへ帰還した。最後に彼がパリでショーを開催したのが「ナンバーナイン(NUMBER NINE)」時代の2009AWシーズンとなるため、10年ぶりの参加となる。2009年、宮下貴裕は突如ナンバーナインを「解散」する。しかし、その1年後の2010年、ブランド名を「タカヒロミヤシタザソロイスト.(TAKAHIROMIYASHITATheSoloist.)」とし、自身の新しいシグネチャーブランドをスタートさせた。
以降、ソロイストはショー発表を行っていなかったが、東京で2018SS、2018AWには「アンダーカバー」との合同ショーをピッティ・イマージネ・ウオモで開催した。今回の2019AWのショーはソロイストとしては3回目のショーとなる。
ソロイストの2019AWコレクションにフォーカスするため、ここでナンバーナインについて言及するのは控えたい。ただ、一言で表現するならナンバーナインは「伝説のブランド」だ。あれほどの熱狂で迎えられたブランドを、僕は後にも先にも体験していない。エディ・スリマンの「ディオール・オム」やデムナ・ヴァザリアの「ヴェトモン」も、日本国内においてはあの時のナンバーナインの熱狂を超えていない。僕はそう実感している。
話をソロイストの2019AWコレクションに戻そう。
このコレクション、一見してすぐ目に飛び込んでくるのが、顔半分を黒い布で覆ったルックと目出し帽によるルックだ。この姿を見て真っ先に浮かべるイメージ、それは「テロリスト」である。
その言葉にはネガティブなイメージがあるだろう。自らの信念を妄信的に信じ、狂気的な行動で人々を恐怖させる。そういった類のイメージが。
このコレクション、色使いも黒・紫・紺といったダークートンでまとめられていて、全体のムードも非常に暗い。かつ挑発的ムードも混在した異様なスタイリングなのだ。顔はテロリストをイメージさせるのだが、モデルたちの穿くボトムは脚にフィットしたストレッチ素材であろうショートパンツ(スパッツと言っても差し支えないだろう)と、脚全体をピッタリと覆うレギンス。アイテム自体は実にスポーティだ。そこにビッグシルエット(この表現も適切ではないかもしれない)のアウターやニットが合わされ、肩からはバックパックを背負っているかのようにストラップが垂れ下がり、アウトドアなテイストを演出している。
だが、その結果完成したスタイルは、スポーツの持つフレッシュさとは程遠い、ダークでアンダーグラウンドなムードで満ちている。複雑かつ異様で暗いスタイルだ。
このようなコレクションを作った宮下貴裕の真意はわからない。それはインタビューしても、もしかしたら謎のままかもしれない。過去のインタビューで宮下貴裕は、自分の狙いとは違う意見を述べられても、みんながそう思うならと、そのまま肯定することがあると述べている。
一方でこうも述べている。これは2018AWシーズン、ピッティウォモでアンダーカバーと合同ショーを開催したコレクションについての言及になる。2018AWにおいてもテロリストを想起させるルックがあった。
「ーー特に今回はマスクや頭巾だったり2重3重にデザインされたベルトのディテールなどから、外敵の侵入をプロテクトしたいという、そんなムードを感じ取りました。
宮下:むしろその逆で、自分を防御しつつ、自分の内側をさらけ出せれば良いなと思ったんですよね。上澄みだけを表現するのではなく、沈殿した部分を吐き出したかったんです」GRINDより
これは、ナンバーナイン時代から感じられたことだった。コレクションの暗い表現とは裏腹に、そこに宮下貴裕が込めている感情はある種の「光」だった。
燦々と世界を照らす光ではない。闇夜の中、差し込む一筋の光。そういった類の影を引きずるタイプの光。そういった感情が、宮下貴裕のダークなコレクションの中に潜んでいる。
だとすれば、妄信的に狂気的な行動で人々に恐怖を招くテロリストのイメージで、圧迫感を起こすソロイストの2019AWコレクションにもきっとあるはず。暗い表現の下に潜む光の感情が。
その感情は何か。それを語るのはよそう。このソロイストのコレクションを見た各々が、感じてみればいいと思う。自身の「暗さ」の下にある感情が何か。人には見せたくない類の感情かもしれない。けれど、その感情とも向き合い、自分を知ることも光になる。
虚飾や見栄で覆われていない自分と向き合うことで見える光。そこに手を伸ばそう。
〈了〉