ルーク・メイヤーの知性的デザイン

AFFECTUS No.122

妻のルーシー・メイヤーと共にジル・サンダーのクリエイティブ・ディクレターに就任し、ブランドを新しいステージへシフトさせたルーク・メイヤー。彼はジル・サンダーだけでなく、自らのブランド「OAMC(オーエーエムーシーエー)」をパリコレクションで発表しており、そこでも高評価を受け、ビジネス的にも成功を収めている。

そもそもルーク・メイヤーとはどのような人物なのか。彼のキャリアを知るとファッション界では特異な経歴のデザイナーだということがわかる。

ルークはカナダの西海岸で育つ。そこで、スケートボートやパンクロック、ヒップホップのカルチャーを子供のころから体験していく。しかし、ファッションに強烈な興味があったわけではない。デザインやアートを学ぶことは抽象的すぎて、彼の中に実践的な学問を学びたいという気持ちが芽生えていた。

そんなルークだから、進学先として選んだ大学はファッションの専門教育を受ける大学ではなかった。彼がまず進学したのは、アメリカの名門私立大学ジョージタウン大学だった。この大学はアメリカ元大統領ビル・クリントンの出身大学でもあり、政治や国際関係などの学問では世界屈指の大学である。ルークはジョージタウン大学で金融と国際ビジネスを学ぶ。

その後、ルークは新たなる大学で学ぶため、イギリスへと渡る。その大学とはハーバード大学、ケンブリッジ大学、スタンフォード大学と並び、世界大学ランキングで常にトップレベルの大学として評価される世界有数の名門大学、オックスフォード大学だった。彼はここで経営学を学び、再びアメリカへと戻る。

ルークはまた大学へと進むのだが、今度はファッションの道へ進む。ニューヨーク州立ファッション工科大学(FIT)に入学する。FITはニューヨークではパーソンズと並ぶファッションスクールの名門であり、1944年に設立されたアート、デザイン、テクノロジーの分野の学科を擁するニューヨーク州立大学の一校である。代表的な卒業生はカルバン・クラインとマイケル・コースになる。

このようにルークはファッションデザイナーとしては異色の学歴を持っている。エリートと言って差し支えないキャリアだ。

卒業後の進路も当初はウォールストリートでの仕事を考えていた。しかし、実際に就職活動を始めて面接を受けると、面白みを感じられず就職活動をやめてしまった。その後ルークは、ダウンタウンで様々な人たちスケートボードを楽しんでいた。そこでルークの進路を決める出会いが起きる。

ストリートのキング「Supreme(シュプリーム)」の創業者ジェームス・ジェビアとの出会いだ。このジェビアとの出会いがきっかけとなり、ルークはシュプリームで働くことになる。だが、ビザの関係でデザイナーとしてアメリカでは働けなかったため、FITでデザインを学ぶことにした。それが、オックフォードからFITという突然の進路変更になった理由のようだ。

ルークはFITのカリキュラムの一環で、1年イタリアにテーラリングを学びにも行っており、ルークの素材の探究心への強さはこのころに育まれたのではないかと推測する。

ルークは8年間シュプリームで働き、ヘッドデザイナーを務めるまでになった。そして2014年、自身のブランドOAMCのプロジェクトをスタートさせる。ルークはOAMCを始める当時の心境について、このように語っている。

「ブランドを始める前、完全なストリートウェアと現在のいわゆるラグジュアリーのあいだにギャップがあることに、アルノー(注 ルークのビジネスパートナー、アルノー・ファー)と僕は気付いてた。そのギャップが本当に埋まったことはないんだ。スタイル的にも美学的にも、ストリートウェアとラグジュアリーのあいだには、僕をインスパイアするものが何もなかった。だから、丁寧に作られていて、なおかつ自分に響くものが欲しかったわけ」SSENSE「OAMCは正道を歩む」より

モード界のデザイナーで、このようなマーケットの隙間を観察する視点でブランドをスタートさせるのは珍しい。

しかし、ルークはマーケット視点に傾き過ぎない。例えば、ルークのようなキャリアの持ち主はマーケット視点に重心が傾き、商品が他ブランドと同質化するケースがある。

だがルークは、そうならずモードファッションのデザインで最も重要な「個人の体験」を服に投影させることができている。それが、子供のころにカナダの体験したストリートカルチャーであったり、NYのダウンタウンでスケートボードを通じたコミュニケーションだった。

論理と感性を両極に振れることのできるスキルを持つデザイナー、それがルーク・メイヤーだと私は感じている。

OAMCというブランド名だが、意味があるようでない。シーズン毎に意味が変化するのだ。例えば、2016AW「OSCAR ALPHA MIKE CHARLIE」、2017AW「ON A MIDNIGHT CLOUDED」、2018SS「ONE ALWAYS MORE CONSICOUS」、2019SS「ONLY A MICRO COSM」といった具合に。

ルークのシュプリーム元ヘッドデザイナーというキャリアから、OAMCはストリートのカテゴリーで語られがちになるが、ここ数シーズンのデザインを観察するとOAMCはストリートの枠を超えた新しいステージでのデザインを模索し始めたように思える。

先月パリコレクションで発表された2019AWコレクションは、ストリートのエッセンスはルーズなシルエットやグラフィックから感じられたが、全体の印象は東ヨーロッパ的でワークウェアの要素が入りながら、テーラードもミックスさせ、どこかバウハウス的デザインの硬質でクールな一面も感じらた。外観の簡素なミニマリズムに通じる装いとは裏腹に、非常に複雑味のあるデザインだった。

同時にそのミニマリズム的要素は、昨今のデコラティブ&アグリーなストリートスタイルへのカウンターにも感じられた。ストリートの王道を歩んできたデザイナーでありながら、トレンドの最前線に位置するストリートスタイルにカウンターを食らわす。

ルークのデザインを見ていると、様々な要素をミックスさせながら、その要素を薄ませてシンプルにまとめ上げるのがうまい。例えば、これが日本のデザイナーだと重層的で装飾性の強いデザインになる傾向が強い。サカイのデザインが代表になるだろう。

ストリートで着られるリアルさがあるのに、モードな視点で先端的デザインも含んでいる。それがルークがパリで評価される一因だろう。僕がファッションテキストを書いてきていくつものデザインを分析し感じたのは、パリではモードな姿勢が求められるということ。

日本は、上質な素材でシンプルで着心地がいいデザインが受けやすい。そしてリアリティがある点が重要でもある。それは日本人デザイナーのインタビューにも現れている。ヨーロッパのデザイナーに比べ、日本人デザイナーのインタビューには「自分の着たい服を作る」というコメントが多い。

翻ってヨーロッパのデザイナーは自身の姿勢や価値観を表明するためにファッションを活用しているようなコメントが読み取れる。これは良い悪いの話ではなく姿勢の話である。その点をご了承いただきたい。

シンプルで着心地がいいというデザインだけでは、パリモードでは勝負できない。パリで求められるのは今あるファッションを、ここから先へ押し進めるモード史を前進させるアティテュード。それがビジネスにもつながる。

ルーク・メイヤーのデザインは「自分の心に響くもの」というリアルに寄り添いながらも、クリエイティブ的にもビジネス的にもパリの要求に応えた、インタレクチュアルなデザインになっている。そこには知性さえにじむ。僕はOAMCが今後どのような進化を見せるのか、とても楽しみだ。

〈了〉

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