今、ストリートについて考えること

AFFECTUS No.127

2019AWコレクションが佳境を迎えてきた。世界最高のクリエイティブを見せるウィメンズパリコレクションの開幕が近づく。1月のロンドンメンズコレクションから始まった2019AWシーズン。NY、ロンドン、ミラノと発表が続き、明らかになってきたのがストリートからエレガンスへのシフトである。

数シーズン前からその兆候は見られていたのだが、2019AWシーズンはエレガンスへのシフトが本格化している。メンズコレクションではスーツを発表するブランドが散見された。久しぶりにスーツがフォーカスされそうな匂いである。

そんな時代の変わり目を感じるからこそ、僕はむしろストリートが気になり始めた。

「ストリートはトレンドからは外れていくのか」

その問いに僕は「否」と答えたい。

ストリートは流行り廃りで語る類のスタイルではなくなり、トラッドのように普遍的スタイルになりつつある。事実、ストリートは既存のスタイルと融合することで、新しい側面を見せ始めた。

まずフォーカスしたいのはジル・サンダーだ。とりわけメンズウェアに注目したい。ディレクターの一人、ルーク・メイヤーはストリートのキング「Supreme(シュプリーム)」でヘッドデザイナーを務めていた。ルークの持つストリート色が、最も強く現れているのはウィメンズではなくメンズになり、ミニマリズム×ストリート×オリエンタルという3種類の軸の掛け合わせによって、ルークはジル・サンダーのNew Styleを作り出している。

キム・ジョーンズも「Dior Men(ディオール・メン)」において、ストリートを巧みに溶け込ませている。キムが発表するディオールスタイルは、クラシックなエレガンスを特徴としたフォーマルである。そこに、足元にスニーカーを合わせるなどエッセンスとして、ストリートアイテムやそのディテールをディオールのクラシックな美しいフォーマルスタイルに溶け込ませている。キムが用いた方程式はエレガンス×ストリート×フォーマルと言えよう。

そんなふうにしてストリートは、他のスタイルやイメージと融合することで普遍的スタイルへと浸透しつつある。

モードシーンではストリートはトレンド最前線という勢いではなくなりつつあるが、現実的に市場でストリートはまだまだ根強い人気がある。

その人気を証明するブランドが日本にある。それは「Youth Loser(ユースルーザー)」というストリートブランドである。

デザイナーはInstagarmでフォロワー数8万人を超える男性インフルエンサーのKEI(ケイ)氏。 ブランドのシグネチャーとして「1997」という数字が使われているのだが、それはKEI氏の生まれた1997年を表している。この「1997」をTシャツやキャップにプリントしたアイテムが、彼のフォロワーを中心に人気となっている。

商品価格は手の届く価格帯である。たとえば半袖Tシャツで¥3,500、キャップで¥4,500、フーディで¥10,000といった価格帯だ。アイテムの型数は少なく、他に長袖Tシャツ、コーチジャケット、トートバッグがあり、いずれも¥10,000以下であり、他にはステッカーやiPhoneケースが見受けられる。

ブランドスタート当初から、このアイテム数で展開していたわけではない。Tシャツから始まり、徐々にアイテム数を増やしていったのだ。ストリートブランドはビジネス展開がうまい。モードブランドがそのまま採用するのは難しいケースがあるが、参考にすべき点が多々ある。

今回はその点について述べていきたい。現状、今の僕が知る限りの情報からの考察であり、アイテムの展開時期が前後するなどの可能性はあるが、可能な限りのユースルーザーの変遷をたどっていこうと思う。今回はここからが本文と言っていいだろう(前置きが長かった)。

まずKEI氏はInstagramの個人アカウント(@keis_gram)とブランドアカウント(@youthloser)の二つを運用している。ブランドアカウントもフォロワー数が5万人を超え、投稿の度にいいね数が3,000前後に達する人気アカウントになっている。

実際にブランドのアイテム(Tシャツとトートバッグ)を販売開始した時期は2017年1月。アイテムの制作と販売はユニクロの「UTme!」を使っている。「UTme!」はアプリでカジュアルにデザインができ、そのアイテムを出品し、発送やユーザーとのやり取りをユニクロが行うサービスである。

このようなブランドのスタート方法は国内のインディペンデントなモード系ブランドでは、まず行わない手法だろう。しかし、これは現実的で有効なアプローチに思える。詳しくは後述したい。

1月5日に販売開始をしたアイテムは、1月27日にはTシャツだけでなくトートバッグも売上枚数100枚にまで達する。当時の価格を調べたのだが不明であった。しかし、おそらく先述の価格帯と同じだと思われる。いくら価格帯がお手頃とはいえ、企業ブランドではないインディペンデントな新ブランドが約3週間で、Tシャツとトートバッグで合計200枚を販売するのは簡単なことではない。

それを可能にしたのは、KEI氏がInstagramで多くのフォロワーから支持を得ていて、すでに多数のファンを獲得していたからであろう。つまり、商品を販売するときにはすでにファンがいたことになる。

Tシャツとトートバッグという、デイリーに使いやすく手に入れやすい価格帯の商品からスタートしたが、売切になっても即商品追加というアパレルビジネスの王道方法は行わず、間隔を置きながら新商品を販売している。この連続で、商品を入手する難易度が上がっていく。Instagramを見てみると、手に入れられず残念だった旨をコメントする人たちが多く、その人気が新商品販売の度に高まっていた印象を受ける。

そして、2018年8月18・19日に東京神宮前の「rourou playroom」で初のPOP UP SHOPを開催。販売アイテムは半袖と長袖のTシャツにキャップと、少数の展開アイテム数だったが2日間で約1,100人が来場し、ほとんどの商品が完売するという盛況であった。その後も、新商品の販売やPOP UP SHOPを行い、売上と人気を高めている。

通常、モードカテゴリーで新ブランドをスタートさせる際、まずは全国のセレクトショップへの卸販売を狙う計画で始まる。そのために展示会を開催し、ショップのバイヤーを招く。しかし、無名の新ブランドがスタート早々からバイヤーを数多く招くのは困難であり、そのために多数のバイヤーの来場が期待できる合同展示会への参加が選択肢にもなっている。

ただ、売上実績のない新ブランドがいきなり卸が決まるケースは稀である。セレクト側から求められるのは確実に売れる可能性。それを証明するには実績が必要になる。しかし、新しいブランドには実績がない。そこに矛盾が生じている。

卸を決めるにはある程度のサンプルの型数が揃える必要がある。スタートしたばかりのブランドであっても、可能であれば20型近くは準備したいところ。セレクト側のバイヤーは、自社の取引ブランド、またはショップのオリジナルブランドを展開しているなら、そのオリジナルとのコーディネイトを考えて商品を検討していく。そのためには、バイヤー側に選択肢が得られるように型数を揃える必要があり、サンプル制作やルック撮影に要する多額の資金を要する。

新ブランドがデビューシーズンから複数ショップとの取引が決まるケースは稀であるため、サンプル制作や展示会開催に投下した資金を回収するための売上と利益を早期に得るのは難しい。

そんな時代背景を考えると、ユースルーザーが実行してきた手法は参考になる点が多い。ブランドを始める前に、SNSによってファンを獲得し、熱のあるコミュニティを生む。そして、ブランドをスタートさせる際はいきなり卸を狙うのではなく、ファンに喜んでもらえる少数のアイテムに絞り、ダイレクトにファンに向けて販売していく。そのアイテムもTシャツのように、生産コストが少ないものである。資金的に無理のない範囲で、商品を生産販売し(Utem!の活用)、その利益でさらに新商品を企画し、生産販売していく。

その際、販売期間は限定的にし、完売しても即時商品追加を行わない。そのことがブランドへの人気を高め、商品への需要を高める。売切によって需要が高まる点は、「Supreme(シュプリーム)」にも通じる。そうしてブランドに売上実績がついて確実に売れるブランドであることが証明されると、逆にセレクトショップ側から強い関心を抱かれる。仮にモード系ブランドがそのようなプロセスでそこまでの実績を作れたら、卸が決まる確率はグッと高まるだろう。

「卸か、小売か」という2者択一で考える必要はないと私は考える。SNSを通じた販売だけでは、ビジネスを大きく成長させることはできないという声も多い。だったら、実績のない初期段階はSNSを活用して、売上実績を作り、その数字をフックにして、卸を決めて展開を広げていく戦略もある。

ここで一つ課題になるのは、SNSで多数のファンを作るコンテンツ力である。私が若いブランドのサイトを見てみて感じるのは、コンテンツ力の弱さ。最小限の文字数で語られたブランドコンセプトとルック写真をアップしているだけ、というブランドサイトがとても多い。Instagramにおいても、ルックのアップや告知だけにとどまる場合がある。その点、ストリートブランドはファンとのコミュニケーションがうまい。とりわけ、言語によるコミュニケーションのうまさを感じる。購買の前に情報収集が当たり前の消費行動の現代において、言語でブランドの魅力を伝える手段は必要なスキルである。

これからのブランドに必要なのは、SNSでファンを獲得するスキルと言語によるコミュニケーション力ではないだろうか。現在の消費者の購買行動を考えた際、それは避けては通れない課題だ。

商品をデザインするスキルだけでなく、ブランドのファンを獲得するコンテンツ力とコミュニケーション力。今、インディペンデントなブランドのデザイナーは、服作りだけでなく総合的スキルが必要とされる。

ストリートブランドは、研究余地がまだまだ大きく多い。

〈了〉

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