AFFECTUS No.128
若手デザイナーを支援するコンペとして2013年に創設された、世界最大のファッションコングロマリットLVMHグループ主催の「LVMH PRIZE」。このコンペによって輩出されたデザイナーがその後次々に活躍していることで、LVMH PRIZEヘの注目がさらに高まっている。
現在開催中の2019AWパリコレクション初日にデビューショーを行った「ロック(ROKH)」のロック・ファン(Rok Hwang)は昨年2018年に特別賞を受賞し、ニナ・リッチのクリエイティブ・ディレクターに就任したルシェミー・ボッター(Rushemy Botter)とリジー・ヘレブラー(Lisi Herrebrugh)も2018年度にファイナリストに選出されている。2018年は「ダブレット(DOUBLET)」の井野将之氏が日本人初となるグランプリを獲得した。
そして2月下旬、第6回目となる2019年度ショートリスト(セミファイナリスト)20組が発表された。この20組は2019AWパリコレクション期間中の3月1日・2日にLVMHの本社でコレクションを審査員に発表し、その後ファイナリスト8組が発表される。*最終審査は例年通りなら6月開催
そこで今回は、その20組のセミファイナリストから僕が個人的に注目するデザイナーを4人、ピックアップしていきたい。
No.1 Eftychia Karamolegkou
Instagram:@eftychia.efka.ef
ギリシャ出身のエフティシア。ロンドンのセントラル・セント・マーティンズ(以下セントマ)出身でウィメンズウェアのMA(修士)を取得している。ウィメンズブランド「エフティシア」のスタートは2018AWシーズン。まだコレクション発表も2回だけというニューブランドであり、ブランドサイトはなく、Instagramアカウントのみが存在する。現在の活動拠点はロンドンである。
まだスタートして間もないブランドだが、卸先はオープニングセレモニー(Opening Ceremony)、マシーンA(Machine-A)、アディッション・アデライデ(Addition Adelaide)と有力セレクトショップと取引している。
エフティシアはウィメンズウェアをデザインしているが、そのテイストは実にメンズライク。ジャケットにパンツ、シャツというメンズウェアのベーシックアイテムを軸に、ゆったりとした分量感をシルエットに挟み込み、それが女性の色気を引き出すセンシュアルなムードを醸し出している。
ジャケットのシルエットも身体にフィットするタイプではなく、女性が男性のスーツをそのまま着ているようなオーバーサイズシルエットである。「カワイイ」という要素はほぼなく、まさに女性のための渋くカッコイイ服と言えるだろう。色展開も黒・グレー・ブラウンと落ち着きあるダークトーンのカラーが多い。
それらのダンディなアイテムを組み合わせたスタイルは、スマートにクールに着こなすのではなく、ルーズで自然な着こなしである。手に取った服をそのまま勢いでばさっと着て、そのまま街へ飛び出した。そんなサバサバとしたカッコよさがある。カワイイ服ではなくカッコイイ服が着たい。そう思う女性に着てもらいたいデザインだ。
No.2 Hed Mayner
WEB SITE:hedmayner.com
Instagram:@hedmayner
イスラエル出身のヘド・メイナーは2015年6月にメンズブランド「ヘド・メイナー」をスタートし、デビューしてから3年近くになる。卸先もジョイス(Joyse)、エッセンス(SSENSE)、ドーバーストリートマーケット(Dover Steet Market)、ビームス(Beams)などを開拓している。
ウェブサイトを見ると「COMING SOON」と表示されており、サイトではブランドの詳細を知ることはできず、ヘド・メイナーもInstgramでブランド情報を発信している。
ヘド・メイナーのデザインはイスラエルという彼のカルチャーが反映された独特の味を出している。服の軸は男性のベーシックアイテムたち。色使いもベージュや薄いブルーやピンクと優しいトーンの色が入り込み、色使いだけ見るとトラッドの匂いがしてくる。そこに中東地域の男性たちの服装によく見られる、ボリューム感ある独特のシルエットを融合させ、僕たちが見慣れたベーシックアイテムに新しいニュアンスを作り出すことに成功している。
全体のイメージはとてもクリーン。シンプルなデザインで今ビッグトレンドのロゴやプリント、デコラティブなディテールなどの装飾性はない。中東の香りが漂うミニマルウェアとも表現できる。
イスラエルという自身のカルチャーを、西洋が中心のモードにうまく乗せてブランドの価値を示しており、かなりスマートな印象も受ける。シンプルなデザインなのだが、あっさりというわけではなく、服のカットで挑戦的に面白くしている。ただその仕上がりが複雑ではない簡素な姿であるため、それがクリーンさにつながっているのだと思われる。僕自身、個人的に着たいと思ったメンズウェアだ。
No.3 Caroline Hu
WEB SITE:carolinehustudio.com
Instagram:@carolineqiqi
キャロラリン・フウはセントマでウィメンズウェアのBA(学士)を取得し卒業。2017年にはNYのパーソンズで修士号を取得する。彼女はジェイソン・ウー、DKNY、アレキサンダー・ワンのデザインチームで働いていた経験も持つ。
ウィメンズブランド「フウ」のスタートは2018年であり、卸先はLVMH PRIZEでの彼女のプロフィールを見る限り1店舗のみである。まさに支援と育成を必要とする現状だ。
僕が彼女のデザインに惹かれたのは、ドラマティックな面だった。糸や布帛、編地といったファッション素材を絵の具のように用い、衣服の上に抽象画をペイントしたような装飾性に、見た瞬間惹き込まれた。現在トレンドの装飾性はアグリー(ugly:醜い)の要素が強いが、フウの装飾性は繊細で儚く美しい。ファッションが備えている王道の美しさを表現している。
彼女の服を見ていると、彼女自身が一人で作っているようなインディペンデントな匂いが強く漂ってくる(実際の所は不明)。
彼女のデザインは商業的ではなく、その面で他のセミファイナリストに比べてこのコンペでは不利かもしれない。だが、この才能を現在のファッションシーンにどう乗せていくのか、そこに興味がわいてくる。通常であればドレスや衣装方面での活動だろうが、このセンスをワードローブに生かす方向性でのデザインが見てみたいという個人的希望もある。
彼女の世界観を見るなら、ウェブサイトではなくInstagramがおすすめである。ぜひ一度見てもらいたい。
No.4 Emily Adams Bode
WEB SITE:bodenewyork.com
Instagram:@bode
ニューヨークを活動拠点にするアメリカ出身のエミリー・アダムス・ボーディ。ブランドの設立は2017年。卸先も有名所を開拓しており、そのリストにはブラウンズ(Browns)、バーグドルフグッドマン(Bergdorf Goodman)、エッセンス(SSENSE)、ドーバーストリートマーケット(Dover Street Market)、トゥモローランド(Tomorrow Land)と取引している。彼女はNYのパーソンズでデザインを学んだ一方で、Eugene Lang Collegeで哲学を学んだという、ファッションデザイナーとしては変わったキャリアの持ち主である。
ボーディは在学中から世界の珍しい生地を探すなど生地への愛着が強く、100年以上前に作られたテーブルクロス、麻袋、ヴィクトリアンスタイルのベッドシーツなど様々な生地をベースに、新しい息吹を吹き込んだ生地を使用している。こうしたノスタルジックなアティテュードを持つボードだが、僕が惹かれたのはその服に中南米的テイストを感じたからである。
花柄や刺繍を用いた素材のメンズウェアにはカリブやパナマといった海の匂いが感じられ、しかし「濃いアクとクセ」は皆無でシンプルなシルエット、シンプルなスタイルで仕上げられている。花柄や刺繍を使っているのに、甘さのないメンズウェアというデザインに僕は惹かれた。
例えて言うなら、メキシコで美しい美意識を持って育った青年の服装だろうか。ノスタジルックなアプローチでデザインしているのに、ノスタジルックを感じないという面白さがいい。
以上が今回ピックアップしたデザイナーたちになる。
モードのコンテクストを捉えてというよりも純粋に僕の好みで選んでみた。今の僕はメンズデザインに惹かれることが多く、そのような状況もあってメンズブランドが多く、ウィメンズブランドでもメンズテイストになった。
今回ピックアップした4人のデザイナーの中から、ファイナリストに残るデザイナーは現れるだろうか。そんな予想をする楽しみもあるが、それ以上にこの4人のデザインを一度見ていただけたらと思う。
若き才能の息吹をぜひ感じて欲しい。
〈了〉