パリモードに新しい文脈を刻む新しい才能ロック・ファン

AFFECTUS No.129

昨年、2018年LVMH PRIZEで特別賞を受賞したロック・ファン(Rock Hwang)。2019AWパリコレクション初日、彼のブランド「ロック(ROKH)」が初のショーを開催した。そのコレクションを見て、僕は久しぶりに感情を昂ぶらせる。

「これは想像以上の才能だった……」

すぐさま、そう思えるほどに。

先日閉幕した2019AWパリコレクション。ロンドンから始まった2019AWシーズン、顕著になってきたのは本格的なエレガンスへのシフトだった。カジュアルで、装飾性が高くアグリー (ugly:醜い)のストリートスタイルにカウンターとして浮かび上がってきたのは、シンプルでフォーマルなエレガンススタイル。しかし、ロックが提示したのはそのどちらでもなかった。

僕がロックを初めて知ったのは、昨年のLVMH PRIZE。特別賞を受賞した彼のコレクションを見ると、モードコンテクストを更新するタイプというよりも、トレンドを捉えてマーケットのニーズを新鮮な感覚でデザインするトレンドセッター的タイプのデザイナーに思えた。

彼のブランドは2016年にデビューしてからたった2年で、卸先数を世界45店舗にまで広げている。この事実は、ロックのデザインがマーケットのニーズを的確に捉えた商品にデザインされていたことの証明だろう。

服の仕上がりに違いはあれど、そのデザインスタイルは世界中の女性を熱狂させてきたフィービー・ファイロに通じるものがある。フィービーは、ラフ・シモンズのようなモードコンテクストを更新するタイプのデザイナーではない。「女性が着たくなる服を作る」。そこに特化した、シンプルな、けれどファッションデザインで最も重要なスキルに長けた、とびっきりにモダンなデザイナーだと言える。

ロックのデザインを初めて見た時、僕が感じたのはフィービーのデザインを見ている時に感じた感覚と同じだった(異なる感覚を抱いた人は、もちろんいるだろう)。

しかし、僕はロックの才能を見誤っていたことに気づく。彼のデビューショーが、僕の誤りを教える。

デビューショーで披露されたのは、一見するとトレンチコートやテーラードジャケット、シャツといったベーシックアイテムをベースに流麗なラインを織り交ぜながらも、リラックス感を演出した量感を盛り込んだエレガントな匂い漂わすコレクション。

ただし、決してそのデザインはシンプルではない。ベージュのトレンチコートとスタイリングされた鍵をモチーフにしたプリントのボウブラウスが、アウターのトレンチコートと絡み合あうように形成された一つのフォルムには複雑性が濃くにじむ。あるいは、こうとも言える。アウターであるトレンチコートの断片が、インに合わせられたプリントのボウブラウスへ侵食するように一つとなりフォルムを形成している、と。

アイテムの境界を曖昧にするロックのデザイン。彼の服には伝統のエレガンスが明らかに匂う。だが、そこにはトレンドを支配してきた高い装飾性と、その装飾性を幾重にも重ねて表現する重層性が全面に打ち出されている。柄・素材・フォルムを複雑に絡ませ装飾性が高いにも関わらず、現在主流のストリートに振れることはなく、完成したその佇まいは未来のスタイルを示唆する伝統のエレガンス。

ヴェトモンから発信されたファッション界のメインストリームを闊歩してきた装飾性と重層性。それをロックはアグリー&レイヤーではなく、エレガント&レイヤーでモードコンテクストに刻む。ロックは装飾性を醜く見せるのではなく、美しく見せる。そのデザインは、ファッションを更新するNew Contextだった。

ロックの才能を目にし、僕はこう思う。

「この才能は、最速でモードシーンを駆け上がりそうだ」

そのスピードに世界は追いつけるだろうか。

〈了〉

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