AFFECTUS No.137
先月、案内をいただき、あるブランドのコレクションを見るために展示会を訪れた。そのブランドとは「メゾン エウレカ(MAISON EUREKA)」。ドイツを拠点に活動するデザイナーの中津由利加が、2015年にスタートさせたブランドである。
僕は訪れた展示会で、メゾン エウレカの服を初めて見る。
服だけでなく、ビジュアルも同時に見させてもらったが、ページから僕の目が捉えたのはいい意味での「雑味」だった。イメージの横断が心に引っ掛かりをもたせる。女性の服に見えるが、男性の服にも見え、シリアスであるはずなのに、ユーモアが漂う。
ビジュアルから浮かぶブランドの女性像は、ファッションというより服が好きな女の子。
「トレンドは知っているけど、それに振り回されるのはゴメン。私は私」
そんなセリフを言う女の子が僕の頭をよぎる。
彼女が好きな服は、流行で移り変わるトレンドの服じゃなくて、いつになっても着ることで誇らしくなれる、自分の美意識を満たしてくれる服。
そんな服が手に入るなら、古着だっていいし、男性の服、いやおじさんの服でもいい。ダッドなスーツだって彼女にとっては最高に痺れるクールな服だった。彼女は自分の描くカッコよさに境界を設けず横断し、大好きなスタイルを築く。
彼女は綺麗に整ったシルエットの服を着るのを好まない。いつも着る服は、自身の身体とはアンバランスなサイズ感だった。
「完璧なんてカッコ悪い」
チャコールグレーのダブルブレステッドジャケットの上から、オレンジのダウンジャケットを羽織る。世間が定義したカッコよさなんて知ったことではない。好きな服をぜんぶ着る。そのことの何がいけないのか。
こうすればオシャレに見えるとか、その組み合わせはNGとか、そんなことはどうでもいい。自分の「好き」をすべて纏う。そうやって服を楽しむことが、メゾン エウレカのアティテュードに僕は思えた。
僕が展示会で見た、ヘリンボーンのテーラードコート。このコートもダブルブレステッドで、ヘリンボーンの素材感がダッドなテイストを醸す。このクラシックでシンプルなコートには、一つの仕掛けがある。服の内部に取り付けられたベルトがそうである。黒いベルトによってコートは、ショルダーバッグのように斜めに掛けることができる。
肩から無造作にぶら下がるテーラードコートは、服が人を個性的にするのではなく、服の着方が人を個性的にすることを教えてくれた。
メゾン エウレカの服に仕掛けられた、スタイリングにアレンジを加えるギミックにはユーモアが潜む。けれどそれがコミカルには振れず、紳士服の持つ整然とした装いを作り上げる。パーソナルな匂いとユーモア、そこにシックな美しさを備え、着用者を控えめに個性化する知的な服。
Instagram全盛の今、他人からどう見られるかばかり気にしていないだろうか。そんな意識で着た服は、本当にあなたの好きな服なのか。心の奥底から、これこそが「私の好き」「俺の好き」と言える服を着ているだろうか。
服を着ることを、もっと自由に大胆に面白く。メゾン エウレカは袖に腕を通す楽しみを、そのギミックで加速させる。
〈了〉