誰がグランプリを獲得するか-LVMH PRIZE2019-

AFFECTUS No.140

今や世界一注目度の高いファッションコンペ「LVMH PRIZE」2019年度のファイナリストが発表された。今回は6月に開催される最終審査で、誰がグランプリを獲得するか、その予想を行いたいと思う。

ただし、その予想を行うアプローチはデザイン面からでない。このLVMH PRIZEというコンペをこれまで見ていて感じた傾向から予想していく。最後にデザイン面について触れるという、これまでとは異なる内容になる。

まずファイナリストのメンバーから。以下の8組になる。

「ANREALAGE」Kunihiko Morinaga(日本)
「Bethany Williams」Bethany Williams(イギリス)
「Bode」Emily Adams Bode(アメリカ)
「HED MAYNER」Hed Mayner(イスラエル)
「KENNETH IZE」Kenneth Izedonmwen(ナイジェリア)
「PHIPPS」Spencer Phipps(アメリカ)
「Stefan Cooke」Stefan Cooke & Jake Burt(イギリス)
「THEBE MAGUGU」Thebe Magugu(南アフリカ)

アメリカとイギリスが2組ずつ、日本・イスラエル・ナイジェリア・南アフリカがそれぞれ1組ずつという内訳になった。

日本からのファイナリスト進出は2016年度から4年連続ということになる。

2016年「FACETASM」
2017年「AMBUSH」「KOZABURO」
2018年「doublet」
2019年「ANREALAGE」

昨年はdoubletの井野将之氏が見事にグランプリを獲得し、アジア人初の栄誉となった。今年は誰がグランプリを獲得するだろうか。それをテーマに今回は考えていきたい。

3月5日配信AFFECTUS No.128「2019LVMH PRIZEショートリスト発表」では、ショートリスト20組の中から気になるデザイナーを4組ピックアップした。その4組の中からファイナリストに残ったデザイナーはいるだろうか。僕がピックアップした4組は以下になる。

Eftychia Karamolegkou(ギリシャ)
Hed Mayner(イスラエル)
Caroline Hu(中国)
Emily Adams Bode(アメリカ)

この4組の中からファイナリストに残ったのは、Hed MaynerとEmily Adams Bodeだった。

それでは本題に入りたいと思う。いったい誰がグランプリを獲得するか。このLVMH PRIZEを見てきて僕が思うことは、グランプリは「純粋なデザインの実力とビジネスの実績では決まらない」ということである。

ポイントは本当に支援が必要であるか否か。ブランドのビジネス規模や実績がグランプリを獲得する上で大きな要素になっている。それは、ブランド規模が大きければ、ビジネスの実績が豊富であれば、有利という意味ではない。規模や実績がありすぎると、LVMH PRIZEでは不利になるのだ。

わかりやすい例でいうと2015年があげられる。この年のファイナリスト8組にはそうそうたるメンバーが入っていた。クレイグ・グリーン(Craig Green) 、ジャックムス(Jacquemus) 、ヴァージル・アブロー(Virgil Abloh) 、デムナ・ヴァザリア(Demna Gvasalia)。今やファッション界のトップに位置するヴァージルとデムナ、ロンドンの気鋭クレイグ・グリーン、パリの注目若手スターであるジャックムスがファイナリストに入っていた。

しかし、この年のグランプリを獲得したのは彼らではない。まだまだ知名度も低かったマルケス・アルメイダ(Marques’ Almeida) がグランプリを獲得する。

デザインの実力やビジネスの実績で言えば、デムナやヴァージルが選ばれただろう。しかし、当時彼らはすでに世界で人気を獲得し、ビジネスも上り調子であった。その後、2016年グランプリのウェールズ・ボナー(WALES BONNER)、2017年グランプリのマリーン・セル(Marine Serre)も規模が小さく、知名度も低かった。セルに至っては自宅でコレクション製作をしているという状況であった。

昨年グランプリを獲得した井野将之にしても、国際的な知名度は十分ではなく、限られた人数のスタッフでブランドを運営しているという規模の小ささであった。

LVMH PRIZEでは実績があればあるほど不利に働く。それを証明するように、今年ショートリスト入りしたキコ・コスタディノフ(Kiko Kostadinov)がファイナリストに残らなかった。

2019年度のショートリストに入った20組の中で、キコは群を抜く実力と実績を持つ。セント・マーティンズ在学中からステューシーとのコラボで名をあげ、そのアイテムはドーバーで販売されて完売。セント・マーティンズ卒業後に自身のブランドを立ち上げ、すぐさまドーバーストリートマーケットで取り扱われ、世界で卸先を拡大していく一方で、アシックス、マッキントッシュという企業ともコラボを行い、彼の手がけたアシックスのスニーカーは人気商品となっている。キコはキャリアが浅くとも、その実力と実績は若手というカテゴリーを脱した領域に到達している。

正直、僕はキコがショートリストに入っていることを知った時、かなり驚いた(そもそもキコはなぜ応募したのだろう?)。現在のキコのビジネス成長度を思えば、LVMH PRIZEが対象にするレベルではないと思ったからである。一人別世界の住人が入ってきた。そう言えるほどだ。結局、キコはファイナリストに残ることはなかった。実力と実績で言えば申し分のないキコだが、LVMH PRIZEではそれがマイナスになったと言える。

そして、2019年度のグランプリは誰になるかという話にようやく移行するが、キコの流れで言えば僕はアンリアレイジも厳しいと見ている。それは実績の豊富さだ。正直、僕はアンリアレイジがショートリストに入ったことも驚いていた。それはキコと同様の理由で、LVMH PRIZEが対象とするレベルのデザイナーではないと思ったからである(だから、ファイナリストに残ったことに驚いた)。

すでにパリコレクションにも参加し、国際的な知名度も上がっている。ビジネス的にも国内だけでなく、海外でもアメリカ・イタリア・フランス・中国・台湾などで13店舗と取引している(オフィシャルウェブサイトより)。

キコほどのレベルではないが、アンリアレイジもこれまでのLVMH PRIZEの傾向を見ると、グランプリ獲得は難しいように思う。またそう思う理由はもう一つあり、それは昨年doubletがグランプリを獲得したことである。2年連続で日本からグランプリというのは現実味がない。

これまでのグランプリ獲得者を国別でみると以下になる。

2014年 Thomas Tait(カナダ)
2015年 Marques’Almeida(ポルトガル)
2016年 Wales Bonner (イギリス)
2017年 Marine Serre(フランス)
2018年 井野将之(日本)

このリストを見るとすぐに気づかれると思う。非常にバランスのとれた配分である。北アメリカというファッションにおける重要市場から始まり、ヨーロッパからグランプリ獲得者が続き、イギリスとフランスというファッションの歴史的にも市場的にも超重要国からグランプリが出た後に、初めて西洋とは異なる地域のアジアからグランプリ獲得者が生まれた。

これが意図したものなのかどうかは、コンペ内部の人間ではない僕にはわからない。だが、これまでLVMH PRIZEを見ていると、単純な実力と実績でグランプリが決まるわけではないことが伺えてくる。もちろん、これは僕の推測に過ぎないのだが。

そう考えた時、アンリアレイジのグランプリは極めて難しいように思う。私が思う今回のグランプリ有力候補は、過去のグランプリ獲得国とは異なる国のデザイナーが受賞するのではないか。

すると、3人の候補者が浮かび上がってくる。Hed Mayner(イスラエル)、Kenneth Izedonmwen(ナイジェリア)、Thebe Magugu(南アフリカ)の三人である。いずれも、過去にグランプリを獲得した国ではない。世界のファッションマーケットを刺激するにも、これらの国からグランプリが出ることは大きな意味があると言える。

この3人の中から私が有力候補と見るのは、Kenneth IzedonmwenとThebe Maguguのアフリカ勢である。Maynerもイスラエルという過去にグランプリ獲得者を排出していない国ではあるが、前回が日本であり、アジアと地続きであるイスラエルよりも、地理的に離れたアフリカの方が有力かつ魅力的に思える。

また、デザイン的にもアフリカ独特の色彩と感性は、現在のストリートからエレガンスへの移行というコンテクストから見ても面白い(ここでようやく初めてデザインの話になる)。

二人のコレクションを見てみるとThebe Maguguが面白い。テーラードの要素が多く入りながら、ドレス的なシルエットと装飾要素が混ぜられ、そこにはジェンダーレスな香りも匂う。ストリートというカジュアルの時代に対して、テーラードをメインにしたエレガントスタイルに時代感のジェンダーレスを捉えている。それらのデザインを、アフリカならではの色と柄でコーティングし、伝統の西洋の服装をアップデートしている。とても興味深いデザインだ。

もう一人のアフリカ勢、ナイジェリアのKenneth Izedonmwenはよりアフリカ的だ。Kennethもテーラードをメインにしたメンズスタイルを打ち出しており、それが現代のストリートのカジュアルへのカウンターになりえている。しかし、Kennethはテーラードを西洋的エレガンスには染めていない。そこが、先ほどのThebeとの違いである。チェック柄の素材やフリンジといったディテールをはじめとした、アフリカ民族が用いる伝統衣装の要素をテーラードスタイルに織り交ぜながら、色数が豊富かつ土着的でスモーキーな色味で彩色されたメンズウェアである。

Thebeがヨーロッパのエレガンスにアフリカの要素を盛り込んでいるなら、Kennethはアフリカの要素にヨーロッパのエレガンスを盛り込んでいる。よりアフリカの濃さを感じるのはKenneth。個人的に惹かれたデザインはThebeだった。しかし、現代の多様性をうたう時代のコンテクストを考えるなら、自身のカルチャーに深く根ざしたKennethの方が新時代のファッションとして面白いと言える。

以上の理由で、私はKenneth Izedonmwenをグランプリ獲得の最有力候補としたい。

今回はデザインの話がほとんどない、 僕にしては珍しい内容となった。僕の推測と解釈が含まれた内容であり、異なる意見を持つ人もいるだろう。LVMH PRIZEに関する一つの視点と思っていただけたらと思う。

結果が判明するのは今年の6月。誰がグランプリを獲得するのか。その時を待とう。

〈了〉

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