不穏さとパンクな匂いが絡み合うMISBHV

AFFECTUS No.147

デムナ・ヴァザリアやゴーシャ・ラブチンスキーの登場以来、東欧のファッションへの注目は高まっていったが、ポーランドからスケーターカルチャーよりもパンクな匂いが濃く漂ってくるストリートウェアを発信するブランドが登場する。それが「MISBHV(ミスビヘイブ)」である。このブランドが産声をあげたのはポーランドのワルシャワ。

立ち上げたデザイナーは、ナタリア・マクゼック(Natalia Maczek)。彼女は両親の期待もあり、弁護士を目指していたが、学生生活を送りながらパーティを開催して楽しむ友人たちのためにTシャツのリメイクを始める。それが、MISBHVの始まりだった。ナタリアが19歳の時である。

ナタリア曰く、当時のポーランドには生活のための服はあれど、着用者の気分を高揚させるタイプの服はなかったそうだ。そんな環境が、彼女の服作りへの意欲を高めていった。ナタリアがMISBHVをスタートさせてから4年後、一人の男性がメンバーに加わる。彼の名はトーマス・ウィルスキー(Thomas Wirski)。トーマスは17歳からDJとプロデューサーを始め、音楽に夢中で、ファッションへの関心はまったくと言っていいほどなかった。しかし、バンドのビジュアルが音楽にとって重要であることは実感していて、音楽とコネクトする服への関心を高めていった。

トーマスが加わり、MISBHVのナタリアとトーマス、二人のプロジェクトとなり、その活動は本格化していく。

MISGBHVが重視するのは、反体制的であり、独立心があり、ありのままである姿勢。そこには故郷における、二人の体験が関係している。1989年以前のポーランドは共産主義で体制が支配し、個人の自由が抑圧される時代でもあった。その体験が礎となり、ファッションのキャリア経験がないがゆえに自分たちの手で、試行錯誤しながら自分たちの理想の服を作り出していくDIY精神が育まれ、そのムードがデザインに現れている。

ファッションデザインにおいて、デザイナーの幼い頃の体験は重要なポイントになっている。特別な体験をすれば良いという話ではなく、好きでも嫌いでもなく、その体験があるから今の自分があるという体験、それがどんな体験なのか発見し自覚して、その体験で目にした風景や感じた感覚をファッションへ具体化していく作業がファッションの価値を作り上げていく。とりわけ、デザイナーの作家性が問われるモードではより重要になっている。

今の僕はストリートウェアについて調べることが多いのだが、ストリートではデザイナーの体験がより濃く現れていると感じる。加えて、MISBHVのように社会への意識も、デザインに強く反映されているケースが多い。その意識が最も表現されているのはグラフィックである。

MISBHVはストリートブランドといっても、トレンドのスケータースタイルの匂いはさほど強く感じられない。強く感じられるのは音楽の匂いであり、パンクの匂いだ。それはナタリアとトーマス、特にトーマスが音楽に没頭していた体験が影響しているのだと思われる。

MISBHVのデザインにパンクな匂いが濃いのも、ポーランドで体験した二人の体制への反発心が育んだものだろう。MISBHVもストリートブランドに散見される傾向、調和のとれた美しさよりも異なる要素を組み合わせた乱雑的違和感が立ち上っている。直近のコレクションである2020AWメンズコレクションには競技用の水着、はたまた陸上のトラック競技のユニフォームを連想させるアイテムが披露され、サイケな色調と抽象的な柄のプリントがカジュアルなニットやTシャツだけでなく、レザージャケットやダウンブルゾンといったアウターにも乗せられ、パンクな匂いが濃く強く迫ってくる。

コレクションのファーストルックが、MISBHVのデザインの特徴を現している。外観はシンプルで身体にフィットするシルエットのロングドレス。ただし、そこに様々な背景が入り込んでいる。まず目につくのは全身に施されたグッチ(GUCCI)のモノグラムを模したような柄とベージュ&ブラウンカラーのプリント。そのプリントが乗っているドレスは、シルエットがフィットするため、クラシックというよりは都会的テイストのモダンドレスという印象なのだが、トップスの首回りがハイネックになっており、ネック中央からファスナーで胸元付近まで開閉できるディテールによってスポーティな印象が感じられる。

ロングドレスのボトム部分はフロント中央股下あたりから、かなり長いスリットが入っているスカートで、そのスカート下からはドレスと同色のベージュのレギンスを穿いたモデルの脚が垣間見える。

と思えたのだが、その印象が間違っていたことに気づく。画像をアップして見ると分離していると思ったドレスのスカートとレギンスが一体化しており、ロングドレスに見えたこのアイテムはつなぎ、というよりも全身タイツと呼ぶ方がふさわしいアイテムだったのである。

モダンなシルエットのロングドレスに、ラグジュアリーブランドの象徴を模したモノグラムプリントが乗っていると思いきや、スポーツ要素が混ぜられ、しかも実はドレスではなく全身タイツと呼べるアイテムだった。

このようにMISBHVはストリートブランドの多くがそうであるように、あらゆるファッションの境界を超えてつなぎ合わせ、違和感を演出し、そこから生み出されたパワーを服の魅力へと転換している。

このデザイン的特徴はストリートブランドによく見られる傾向である。パリモードのエレガンスとは異なる美意識とでも呼べばいいか。トーマスによるとMISBHVは、コレクションにまとまりがないと評されることが多いそうだ。その特徴は、ナタリアとトーマスがポーランドで体験したファッションの原風景も影響しているようである。

「2001年とか 2002年とか、H&MやZaraがやってくるまでは、服を買おうと思ったら古着屋しかなかったからね。ポーランドの古着屋はキュレーションとは無縁なんだ(笑)。アロハ シャツもトラックスーツもお洒落な靴もスーツも、何もかも一緒くた」SSENSE「MISBHVは体制の外側を選ぶ」より

トーマスがこう語るように、MISBHVは二人がポーランドで目にしてきた風景が投影された乱雑的ファッションスタイルが作り出されている。

Tシャツやフーディといったストリートのマストアイテムはもちろん、テーラードジャケット、オープンカラーシャツ、ワークジャケットにバイカーズジャケット、そしてフィッシュマンベストにロングドレスと、スタイルを構成するアイテムは一つのカテゴリーに収まらない多彩さ。それらのアイテムを組み合わせ、爬虫類モチーフの柄やパンクなグラフィックを乗せてくるのだから、雑然としたスタイルになるのは当然。

加えてシルエットは、ほどよい量感を含んだスマートであることが、コレクション全体の印象を引き締めてクールに、いやコンクリート的無機質さと言った方が印象に近く、どこか冷めた感覚を漂わしている。色使いも東欧の町並みに通じるスモーキー、燻んで褪せた色味である。

不穏なムード備えた服でモードの最前線に進出し、ファンを獲得していくMISBHV。今、間違いなく従来の美意識とは異なる美に価値が見出されるようになっている。もしかしたら、今はファッションの歴史上、新しさへの欲求が最も強まっている時代なのかもしれない。だからこそ、表現は美しくないがこれまで価値がないとされ見過ごされてきた、雑食的に組み合わせたファッションに価値が生まれてきたのではないか。

その問いに対する、一つの答えを提示するMISBHVだった。

〈了〉

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