これこそヴァージル・アブロー

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AFFECTUS No.154

ヴァージル・アブローがルイ・ヴィトン メンズディレクターに就任してから3度目のコレクションが発表された。2020SSコレクションを見て、僕はこう感じる。

「これが始まりとなっていく」

ルイ・ヴィトンにおけるヴァージルメンズスタイルが、ようやく始まる。そういう類の予感が訪れた。なぜ、僕は2020SSのヴァージル・ヴィトンに価値を感じたのか。そこにラグリュアリーを感じたからだった。2020SSルイ・ヴィトン メンズコレクションのテーマは「Boyhood(少年時代)」。ヴァージルが少年時代の体験に思いを馳せ、その明るく楽しい時間を豊かで鮮やかな花々で表現する。園芸から着想を得たカラーパレットは、ファッションの華やかさを物語る美しさに満ちていた。

ラグジュアリーとは何か。それは文字どおり「贅沢さ」だろう。では、贅沢さとは何か。僕は華やかさが贅沢さを呼び込むと考えている。今回のヴァージル・ヴィトンには、ラグジュアリーと呼ぶにふさわしい華やかさがコレクション全体を包んでいた。

ヴェージルは華やかさが際立つ仕掛けをデザインに施す。それがストリート&フォーマルのハイブリッド。ストリートのカジュアルさで、スーツやジャケットがメインとなるフォーマルスタイルをくだけた雰囲気に仕立て上げる。そのくだけた雰囲気があるからこそ、華やかさが際立つ。逆の要素を近接させることで、互いの特徴が際立つ効果が生まれる。今回のルイ・ヴィトン メンズコレクションには、その仕掛けが施されていた。

マイケル・ジャクソンがテーマになった前回の2019AWコレクションは、ストリートに傾き過ぎたがために、ラグジュアリーブランドならではの華やかさに欠けている一面があった。だが、今回は違う。ヴァージルは華やかさを花で演出する。花が持つ自然で尊いエレガンスを、ストリート&フォーマルのスタイルにスライドさせ、アウターやパンツの上に色彩豊かな生花が咲き誇ったかのような鮮やかで優雅なコレクション。それが2020SSのルイ・ヴィトン メンズスタイルだった。

一方でこういう見方もある。ストリートをラグジュアリーで表現する意味とは。確かにそうだ。だが、ルイ・ヴィトンが行う意味は大きい。他のどのラグジュアリーメゾンよりもはるかに大きく。

時間を巻き戻したい。時は2017AWシーズン。ヴァージルの前任、キム・ジョーンズのルイ・ヴィトン時代へと。

2017AWメンズコレクション、キム・ジョーンズは世界中を驚かせるコレクションを発表する。言わずとしれたストリートのキング、シュプリームとのコラボだ。このコレクションは圧倒的な魅力に満ち、爆発的な人気となって大成功に終わる。だが、否定的な声もあった。ストリートの絶対王者シュプリームは、これまで体制を風刺することで注目を浴び、存在感を増してきた。

実際、ケイト・モスを起用したカルバン・クラインのポスターをジャックした例をはじめとして、いくつもの騒動を引き起こしている。そんなシュプリームが、ラグジュアリーの頂点とも言えるルイ・ヴィトンとコラボすれば、体制に傾いたと感じ、否定的意見が出るのも当然。ルイ・ヴィトンの顧客側から見れば、ファッション界を席巻するストリート人気に接近したようにも感じられ、その計算されたビジネスの匂いに嫌悪感を抱く顧客がいたかもしれない。

だが、このコレクションでキム・ジョーンズはアパレルラインの歴史が浅く、シグネチャースタイルを確立できていない(特にメンズ)ルイ・ヴィトンにおいて、シグネチャースタイルを確立するヒントを提示している。ルイ・ヴィトンのDNAは「旅行」。時間と距離を飛び越え、新しい体験をする。旅行鞄を生業とするルイ・ヴィトンは旅行こそがDNA。旅行は国境を超えて国と国、都市と都市を横断するだけではない。キム・ジョーンズが示したのは、文化と文化、スタイルとスタイルを横断することも旅行なのではと示唆するものだった。

そしてラグジュアリーブランドには使命がある。ファッションは時代を反映したもの。そこに最も敏感で最大のマーケットを狙うのがラグジュアリーブランド。贅沢さを求める顧客に、時流に乗った新しい贅沢体験を届け、満足させる。それがラグジュアリーブランドのビジネス。だから、メゾンは新時代を作り出すであろう新しい才能にコンタクトし、メゾンの価値を高め、顧客を満足させてきた。

時流に乗った新しい贅沢を作り、メゾンのDNAである「旅行」を表現する。ヴァージルの2020SSメンズコレクションは、ルイ・ヴィトンならではの旅行というDNAをストリートとフォーマルを行き来することで具体化し、モードデザイナーに必須の自身の体験に基づくオリジナリティを、ヴァージルは子供時代の体験に立ち戻ることで、現代と過去の旅行とも言える形にデザインし、その結集に僕はヴァージル・ヴィトンの新しい始まりを感じた。

僕はヴァージルのデザインに熱狂体験したことはない。ここで個人的好みを言うなら、彼のデザインは僕の好みではないということになる。だが、その個人の趣向から離れているにもかかわらず、2020SSコレクションに心が揺れてしまった。その理由を探りたく、今回は彼のデザインを言葉にすることを試みた。

ヴァージル流ルイ・ヴィトン メンズスタイルの輪郭が見えてきた。彼はスタイルを進化させることができるだろうか。ラグジュアリーメゾンの使命を果たしながら。

〈了〉

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