ニコラス・デイリーが奏でる男のスタイル

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AFFECTUS No.157

「男のカッコよさとはなんだろう」。

そんな問いが浮かんできたメンズウェアがあった。ジャマイカ系イギリス人のニコラス・デイリーは世界屈指の名門校、ロンドンのセントラル・セント・マーティンズを卒業すると2015年にシグネチャーブランドを立ち上げ、自らのオリジナリティと共に世界へ飛び出した。

男を彩るメンズウェアはいくつもある。

アイロンで美しく仕上げられ、襟のキマった白いシャツにネクタイを締め、上質なウールのスーツに身を包み、ビジネス街を足早に進む男性。植物が生い茂るプリントの開襟シャツにジャケットを合わせ、タックパンツを穿いて歩くたびに革靴のソールがアスファルトの上で鳴り響くアウトローな男性。清涼感あふれる無地の白いTシャツに、デニムをロールアップして白いスニーカーを履く、上品で爽やかに微笑む男性。

こんな具合に。

ニコラス・デイリーのコレクションを見れば、レゲエのイメージが真っ先に頭をよぎるだろう。同時に、彼の服にはメンズウェアに必要なカッコよさとユーモアを、世界中から集めてきたような多面性も感じられてくる。

少年っぽくもあり、大人っぽくもある。ヤンチャだけど、ルーズではない。自由気ままに着ているようで、厳格なルールに則って服を着ているかのようでもある。デイリーが描く男性像には、内面に潜む矜持を陽気な空気で覆い隠す渋みが立ち上がっている。

南国的豊かな色彩と柄、身体と心を心地よくさせるリラックスシルエットで自由を謳歌するカジュアルウェア。ニコラス・デイリーの服を着てモデルがランウェイを歩く姿は、リズミカルでハッピーな音が奏でられているよう。

けれど、モデルたちからは享楽的雰囲気は感じられず、レゲエミュージシャンのワードローブ的スタイルを着ているにもかかわらず、シックなスーツを着ているようなダンディズムがあふれている。

ニコラス・デイリーの多面性は、モダニティを獲得していることの証明でもある。現代のメンズウェアは多様性に富んでいる。

男のファッションがこれほど自由な時代はかつてなかった。それが今という時代。保守的で変化の少なかったメンズウェアは、戦後モードの歴史において表舞台でスポットライトを浴びることはなかった。モードという華やかな舞台の主役は、いつだってウィメンズウェアだった。

しかし、モードの主役に躍り出る時代がメンズウェアにも訪れた。ラフ・シモンズとエディ・スリマンがメンズウェアの可能性を開拓し、トム・ブラウンがスーツを日常に浸透させ、ストリートウェアが美醜の醜=ダサさにもカッコよさがあることを教える。そしてジェンダーレスは男女の境界を消失させ、ファッションに自由をもたらす。男のためではなく、女のためでもない、人間のための服が生まれようとしている。

ファッションのDNAである「自由」が改めてフォーカスされる時代、その恩恵を最も受けたのは大胆さが進化を促してきたウィメンズウェアではなく、制限の中で創造性を模索してきたメンズウェアだった。制限は、その反動で大きなパワーを生むのは世の常。ヴァージル・アブローにキム・ジョーンズ。今メンズデザイナーにスポットライトが浴びるのは偶然ではない。メンズウェアは新しいステージへと登った。

新しい時代の新しい価値観が訪れている2020SSシーズン、ニコラス・デイリーは圧倒的オリジナリティが圧巻のコレクションを披露する。ジャズやレゲエといった音楽性が横断し、黒人モデルたちは楽器を演奏しながらアフリカン&カリビアンスタイルとも融合したDaley Styleを身にまとい、ランウェイを堂々した佇まいでクールな表情と共に闊歩する。

こんなふうに今を生きるのも男のスタイル。

「男はいざという時にカッコよければいい。それ以外は、自由で陽気でいいのさ」。

ニコラス・デイリーのデザインは、そう語りかけてくる。

〈了〉

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