緑豊かなフェンディのメンズウェアに宿った魅力

AFFECTUS No.176

2020SSシーズン、素晴らしいメンズウェアが90年以上の歴史を誇るローマの名門ブランドから発表された。そのブランドの名は「フェンディ(FENDI)」。それまで私はフェンディのメンズウェアに心動かされた経験なかったが、今回は一目で一瞬にして惹かれてしまう。それがフェンディの2020SSメンズコレクションだった。

僕はフェンディのメンズウェアに対して、次のようなイメージを抱いていた。

「クラシックな匂いが強く、イタリアブランドならではのゴージャスさも合わせ持つ服」

時代の空気を先端的に捉えた新鮮さは弱く、ポジティブなイメージはなかったのも事実。だが、そのイメージは2020SSシーズンで完璧に覆される。

フェンディのメンズラインを統括するクリエイティブ・ディレクターは、創業者アドーレ・フェンディの孫娘シルヴィア・フェンディ。ウィメンズラインのディレクターであったカール・ラガーフェルドが亡くなった後、シルヴィアはウィメンズラインのディレクションも担当することになり、今ではフェンディにおけるクリエイティブのトップに昇格した。彼女は、フェンディを代表するビッグヒットバッグ「バゲット」を発表した人物でもある。

僕が魅了された2020SSメンズコレクションは、それまでシルヴィアが発表してきたメンズウェアとはまったく異なる印象を抱き、本当に同一人物がディクレションしたのだろうかと思うほどの変貌ぶりであった。2020SSメンズコレクションは、簡潔に表現すれば以下になる。

「贅沢さを誇張することなく、男たちを美しく装う気品に満ちた服」

いったいどのようなデザインが成された服なのか。

だが、2020SSメンズコレクションについて触れる前に、過去にシルヴィアが発表してきたメンズコレクションを見た感想をありのままに語ってみたいと思う。

「贅沢が過ぎる、手間のかかりすぎた服」

2019AWと2019SS、両コレクションを見てまず真っ先にこのフレーズが浮かんできた。

2020SSコレクションを見た後にシルヴィアが手がけた過去のメンズコレクションを見ると、野暮ったさが目につく。たしかに贅沢さは感じられる。上質感ある素材や緻密な柄のプリントなど、手数をかけ、最高クオリティで作られたクラシックな色の組み合わせとシルエットの服という印象を抱くぐらいに高級感は漂っている。だが、エレガントではない。イタリアブランドと聞いた時の、贅沢さの主張が強過ぎるネガティブなイメージが僕には連想されてしまった。

一つ、気になった点がある。2020SS以前のコレクションは、トレンドの波を捉えているようにはあまり感じられない。あくまでフェンディというブランドが持つ特徴=ゴージャスに焦点を当ててデザインをしているように見え、ファッションデザインの重要ポイントであるコンテクスト=トレンドを捉えての表現が成されているようには見えなかった。

特徴を作ろうとして手数を掛けすぎ、時代と距離を置き過ぎている。その印象が、コレクションを野暮ったく見せているように思えた。

少々、辛辣な表現だったかもしれない。しかし、それもすべて2020SSコレクションを見てしまったが故の感想だ。もし、2020SSコレクションを見なければ「フェンディとはこういうものだ」と感じ、表現が過ぎることもなかっただろう。

2020SSコレクションはクラシックな匂いを感じさせるスタイルに変わりはない。ゴージャスさもある。しかし、以前のような主張の強いゴージャスではなく気品ある贅沢が服から匂い、以前のシルヴィアのデザインから感じられた課題が解決されている。課題を解決する鍵となったのは、以下の3つの変化であった。

1.色使いに軽さが入る
2.シルエットに流麗感が宿る
3.スタイルがカジュアルになる

では、色使いから見ていこう。

1.色使いに軽さが入る
2020SSコレクションでメインカラーとして選ばれたのはグリーンだった。以前から多用されていたブラックとブラウンは、2020SSコレクションでも展開されている。以前のコレクションはたしかに落ち着きはあるが、やや埃をかぶったような古臭さも感じられた。だが、今回はグリーンがメインカラーとして使用されることで、以前のコレクションの印象を柔らかく優しく変貌させる。

色使いを変えるだけで、ここまで印象が変わるのかと気づかされる。色の変化はそれだけではない。オフホワイトやベージュといったトーンの優しい色も挟み込まれ、以前は重々しく見えたコレクションが色の効果によって軽さが添えられた。

2.シルエットに流麗感が宿る
シルエットも重要なポイントになっている。厳密に言えば、1年前の2019SSコレクションと今年の2020SSコレクションでは大きな変化はない。だが、両コレクションを比較すると、印象が大きく異なる。2020SSも2019SSも、ほどよいボリューム感を含んだクラシックなシルエットだ。しかし、シルエットの柔らかさが異なる。2020SSコレクションのシルエットには流麗感があり、モデルの歩行に合わせて服が優雅に揺れ、その揺れがエレガンスを演出している。

一方、2019SSコレクションは同じ春夏シーズンの服にも関わらず、シルエットも2020SSと同様に適度なボリュームを作ったクラシックシルエットなのだが、まるで秋冬シーズンの服を着ているかのような硬さがあり、重く見えてしまう。

シルエットの印象に違いを生んだ理由は何だろうか。それは素材にあると私は考える。ルック写真を見る限り、2020SSコレクションに使われた素材は、2019SSコレクションよりも柔らかく薄手に感じられる。ややウィメンズウェアに近い素材感のチョイスだ。だからこそ軽さがシルエットに生まれ、その軽さが流麗感を生み出す仕掛けになった。

プロポーションのバランスも2019SSに比べると、腰の位置が低く、下に感じる。全体的に下方に落ちたバランスもコレクションをシリアスに見せず、リラックス感を演出している。

3.スタイルがカジュアルになる
ショートパンツやジーンズ、Vネックの半袖ニット、深いVネックの長袖ニットといったように、アイテムとスタイリングが以前に比べてカジュアルになり、それが軽さにつながっている。だが、スタイルを詳細に見ていくと、一つ意外なことに気づく。

たしかに2020SSはカジュアル感を増しているが、ジャケットとパンツのセットアップスタイルの数は2019SSコレクションよりも約3倍に増えていた。なぜ、セットアップスタイルを増やしているにも関わらず、軽さが増しているのか。

ルック写真を見ていると、2つの違いが見えてきた。

まず素材である。2で述べたように、2020SSコレクションの素材は2019SSコレクションよりも柔らかく感じられる。それはセットアップの素材も同様であった。

そして、2つめがパンツだ。2020SSで発表されたセットアップのパンツは、2019SSに比べて股上が深く、モデルの歩行時にパンツの布にドレープが生まれ、セットアップの佇まいを柔らかくしている。脚は身体の中でもトップクラスの運動量を誇る箇所である。

その脚の動きの支点になる股上部分を深くして、肌と布の間にある空間量を増やし、歩行と共に脚を包む布にドレープが生じるようにする。そうすることで、ジャケットとパンツというシリアスなスタイルに軽量感を生み出していた。服の中で、腕や脚など身体において運動量の大きい箇所に接する部位の分量感を増加させる技法は、パンツに限らずコートやジャケットなど、重々しさのあるアイテムにも応用が可能だろう。

以上、3つが2020SSにおけるポイントになる変化であった。

そして、トレンドとの距離感についても言及しなければならない。以前のコレクションはブランドが持つゴージャスの表現に注力し、トレンドと距離が開いているように感じられたが、2020SSコレクションでは距離感が解消されてトレンドの波に乗っていた。

元々フェンディはクラシックスタイルを武器にしていたが、クラシックはそのままに色・シルエット・スタイルに変化をもたらして軽さを作り上げ、軽量感を伴った気品あるNEW FENDI STYLEを完成させていた。シルヴィアの新メンズスタイルは、時代を席巻したアグリーでルーズなストリートスタイル以降の解答を思わす、トレンドへの接続を感じさせた。

これはシルヴィアが狙ってデザインしたのかは定かではないが、結果的にトレンドの波を捉えたコンテクストデザインになっていた。

ショー会場もアクセントの役割を果たす。それまでフェンディのメンズコレクションは室内で行われることが多かった。しかし、2020SSコレクションは異なり、ショー会場は室内ではなく屋外の森林が選ばれ、木漏れ日が落ちる道をランウェイに見立て、男性モデルたちが上品さを側に闊歩している。その姿には間違いなくエレガンスが存在していた。

これが僕の魅了された、フェンディ2020SSメンズコレクションである。人格が入れ替わったのかと思える覚醒感がある。カール・ラガーフェルドが亡くなり、創業一族の一人として自分がクリエイティブのトップに立って伝統あるブランドを率いるという状況が、シルヴィアの新しい才能を覚醒させたのだろうか。

次のシーズン、2020AWコレクションでシルヴィアはどのようなメンズウェアを披露するのか。そこで、今回の変化が本物なのか、それとも一時的なものなのかが垣間見えるだろう。

〈了〉

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